昨季のMVP&得点王が躍動した。Jリーグのシーズン開幕を告げる「富士ゼロックス・スーパーカップ」は昨季J1王者の広島が天皇杯覇者の柏を1対0で下し、5年ぶり2度目の優勝を決めた。

 タイトル奪取の立役者はFWの佐藤寿人だった。味方が落としたボールに体を投げ出し、ひねりながら左足で合わせた。
「いろんなゴールを決めてきたけど、心に残るゴールのひとつだと思う」と芸術的なボレーシュートを自画自賛した。

 聞けば試合前のロッカールームでイタリア代表FWアントニオ・ディ・ナターレ(ウディネーゼ)らセリエAの芸術的なゴールをまとめた映像を見て、ゴールへのイメージを高めていたという。

 イメージからマネージへ。佐藤はJリーグで最もこの作業に長けたストライカーだと言っても過言ではないだろう。

 本人は語っていた。
「自分のイメージと味方、特にボール保持者、パサーとのイメージが共有できなければ、なかなかシュートシーンには至らない。事前にすり合わせをしていく作業がとても大事なんです」

 そのために佐藤が活用しているのが「iPad」だ。佐藤は、どこに行くにもこれを肌身離さず持ち歩いている。
「サポーターがゴール裏から撮ってくれている映像があるんですが、時間があればチェックしています。時々、ゴールを決めた時の自分のイメージと違っていることがある。その部分も映像を見ながら確認できる。本当にこれは役立っていますよ」

 身長170センチと小柄な佐藤がJリーグで結果を出し続けるためには、囲碁や将棋のように相手より数手先を読むしかない。

「シュートを打つ前の段階で、もう勝負を決めておきたいんです」と佐藤は語る。

 経験を重ねることで佐藤の得点感覚は、より研ぎ澄まされているような印象を受ける。Jリーグにおいて2年連続MVPに輝いた選手は、まだひとりもいない。

<この原稿は『週刊大衆』2013年3月18日号に掲載されたものです>

◎バックナンバーはこちらから