WBCはWBCでも、こちらは野球ではなくボクシングの話だ。
 WBC世界バンタム級王者の山中慎介が、4月8日、東京・両国国技館で元WBC世界フライ級王者のマルコム・ツニャカオ(フィリピン)相手に3度目の防衛戦を行う。
 控え目な印象のある山中だが、公開スパーリングの際には、珍しく強気な言葉がポンポン飛び出した。

「一緒の階級の世界王者として、差を見せつけたい。自分の方が強いと思われる試合をする」
「お互いに勝って、統一戦ができればいい。すぐにできるとは思わないが、興味はあります」

 前日の4月7日、WBA同級王者の亀田興毅が大阪で6度目の防衛戦を行うことになっており、それを意識しての発言だった。
 19戦17勝(12KO)2分けと負け知らずの山中だが、その成績に比べると知名度はイマイチだ。

 仮に六本木の交差点で「山中慎介を知っているか?」とアンケートをとったとする。即座に「ボクシングの世界チャンピオン!」と答えられる人は、ごくごく少数だろう。スタイリッシュなサウスポー。もっと人気が出てもいいはずだが……。

 山中のボクシングを見ていると、あることに気付く。スタンスが他のボクサーに比べると、かなり広いのだ。これがバランスの良さにつながっているのではないか。
 一度、この点を本人に訊ねたことがある。

「確かに他の選手よりも(スタンスが)1足分くらいは広いですね。僕もそのことが気になっていて、過去の日本人世界チャンピオンの映像を見ました。すると皆、僕よりスタンスが狭い。世界王座を13回連続防衛した具志堅用高さんも、かなり狭かった。これまでは特に意識しなかったのですが、(スタンスの広さは)きっと独特なものなんでしょうね」

――足が揃うとパンチをもらった時に一発で倒されるリスクがある。それを回避するための策か?

「ウ〜ン、というより自分なりに動きやすくて、強いパンチを打てる体勢を追求していたら、今のスタイルになったんです。それが結果的にバランスの良さにつながっているのかもしれません」

 山中が繰り出す切れのいいワンツーは速射砲のようだ。左ストレートは一発で相手を仕留めるだけの威力を秘める。

 ツニャカオは神戸の真正ジムに所属しており、日本人ボクサーのことも熟知している。世界戦は2001年3月のポンサクレック・ウォンジョンカム戦(WBC世界フライ級)に次いで4度目だ。

 ただ、挑戦者にとっては12年ぶりの世界戦。しかも35歳となれば山中の優位は動くまい。試合巧者のツニャカオだが、出入りの鋭さ、勢いでは山中の方が上。チャンピオンとしては鮮烈なKO勝ちで一気に知名度を高めたいところだ。

 話題性もプロの条件のひとつである。ビッグマウスは一種の広報活動だ。この世界、「不言実行」は美徳ではない。「多言実行」くらいでちょうどいい。

<この原稿は『サンデー毎日』2013年4月7日号に掲載されたものです>

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