5月3〜5日の3日間にわたって、内閣総理大臣杯争奪第41回日本車椅子バスケットボール選手権大会が東京体育館で行なわれる。今年の最大の注目は、宮城MAX、史上初の5連覇なるか――。

 2012年ロンドンパラリンピック車椅子バスケットボール男子日本代表が7人も揃う宮城MAXは、今や国内では無敵である。今年も既に長谷川杯(3月)、関東カップ(4月)を制している。
「長谷川杯、関東カップで、どれだけやれるかを見たいと思っていましたが、どちらも優勝することができた。選手権に向けて順調に仕上がってきているなと感じています」と岩佐義明ヘッドコーチ(HC)。ロンドンパラリンピック男子日本代表を率いた指揮官の口調からは、5連覇への自信がにじみ出ていた。

 今季、宮城MAXはディフェンスの強化を図ってきた。ハーフコートから激しいプレッシャーをかけることによって、相手に苦しまぎれのパスを余儀なくさせ、それをカットして得意の速攻につなげていくのだ。この戦術の狙いを岩佐HCはこう説明する。
「MAXの走るバスケットを嫌がり、ロースコアでの展開にもっていきたがるチームが少なくない。だからこそ、ハーフコートからどんどんプレッシャーをかけて、ディフェンスからオフェンスへと切り替えの速いバスケットに磨きをかけてきました。“ナイス・ディフェンス”“ナイス・リバウンド”から展開していくバスケットをしたいと思っています」

 何より日本代表の大黒柱でもあるエース藤本怜央(4.5)の存在が大きい。05年から12年まで7年連続(11年は東日本大震災のために大会中止)で得点王に輝き、チームを牽引してきた。当然、他チームからのマークは厳しさを増している。それに対し、岩佐HCは「今はもう、『怜央さえ止めれば』というチームではなくなっている」と語り、成長著しい選手として豊島英(2.0)の名を挙げた。

「もともと彼のスピードはトップクラスでしたが、よりチームにフィットしてきて、さらにいい動きを見せていますね。ディフェンスでのパスカットもしっかりとできるようになってきましたし、オフェンスでは自らランニングシュートにもいくことができる。5連覇へのキーマンのひとりです」
 選手権では、さらに進化した王者の姿が見られそうだ。

 “3度目の正直”狙うNO EXCUSE

 昨季、宮城MAXに決勝で敗れ、その雪辱に燃えているのがNO EXCUSE(千葉)だ。今季、及川晋平コーチングプレーヤー(4.5)は4つのテーマを掲げた。さらなる(1)コミュニケーション(2)チームワーク(3)積極性、そして(4)パーフェクトショット。
「これまではオフェンスとディフェンスという2つの柱があり、オフェンスの中にシューティングスキルも入れていたんです。でも、これまで以上にシュートの重要度を高めようと、“パーフェクトショット”という1つの柱にしました」
 ターゲットは、もちろん“打倒MAX”だ。

 及川PCは日本人選手では随一のシューティング技術をもつ藤本のレベルの高さを、前回の選手権決勝、そしてアシスタントコーチとして帯同したロンドンパラリンピックで改めて感じたという。日本一になるためには「藤本をどう抑えるか」に加えて、「自分たちがどれだけ得点することができるか」が重要だと考えている。

 及川PCはこう語る。
「これまではシュートにいくまでの過程がうまくいけば、『自分たちのバスケができている』と思っていたところがありました。でも、実際にはシュートを入れて初めてオフェンスとして完成され、結果が出るわけです。今年は、ゴールするところまでを追求する練習をしてきました」

 長谷川杯、関東カップでは、及川PCによればイメージしていたゲームプラン通りにはいかず、内容、結果ともに納得できるものではなかったという。その要因として「頭では理解しているが、まだパフォーマンスとして出せるほどには染みついていない」点を挙げた。
「実際に実戦でやってみて、チームに欠けている部分がわかりました。でも、選手権前にはっきりと課題が見えて良かったと思っています。チームにもまとまりが出てきましたし、手応えも感じています」

 及川PCが注目選手として挙げたのは若手の2人。加入2年目の湯浅剛(1.5)とU−23日本代表の田中聖一(2.0)だ。もともと野球で活躍し、社会人からも注目される実力の持ち主だった湯浅は、バスケットのキャリアこそ浅いものの、そのプレーには随所にセンスの良さが光る。将来性を買い、及川PCは彼をスターティングメンバーに入れている。
「非常に正確なディフェンスをする選手ですね。ミスが少なく、プレーに安定感があるので、信頼しています。コンタクトプレーにも負けない力もありますし、ポイントゲッターの菅澤隆雄(4.5)をインサイドに行かせる動きをするなど、他の選手との連携プレーもうまいですね」

 一方、21歳の田中はアグレッシブなプレーが持ち味だ。スピードがあり、巧みなボールハンドリングでコートを駆け回る。アウトサイドからスリーポイントを打つこともでき、対戦相手にとっては非常にやっかいな選手だ。

 こうした若手の台頭もあり、チームは今、新たなスタイルを築こうとしている。
「これまでは自分たちのバスケスタイルと合わないと、負けてしまうことが少なくなかったんです。だから、今大会では相手の長所や短所を見極めたうえで、自分たちのバスケをしていこうと。もちろん、積極性も大事にしていきます」と及川PC。07年、12年と2度、決勝で敗れているNO EXCUSE。果たして今季は“3度目の正直”となるか。

 パラ神奈川、DF力で16年ぶりVへ

 NO EXCUSEの2年連続決勝進出を阻止する相手として、有力視されているのがパラ神奈川SCだ。「選手権に向けてしっかりと練習できている。あとはいい調整ができれば」とキャプテンの高橋直哉(4.0)。チームは順調な仕上りを見せている。

 パラ神奈川の真骨頂はディフェンスだ。相手を50点以内に抑え、ロースコアでの展開にもちこみたい。そのためには選手同士の連携が必要だ。高橋は言う。
「基本は個々の1対1、2対2の場面で、どれだけ守れるかが重要です。でも、たとえ1対1で抜かれたとしても、誰かがすぐにカバーに入って防ぐことができればいいわけです。チームでいかに連携していくかがディフェンスのカギとなります」

 オフェンスについては「ミドルシュートの確率向上」を挙げた。とりわけミドルシュートを得意としている園田康典(3.5)への期待は大きい。さらに普段はガード的役割を担うローポインターの石川丈則(1.5)にも注目してほしいと高橋は語る。
「石川はスピードがあるので、速攻やカットインプレーが巧いんです。車椅子バスケットの試合では、ハイポインターが目立つことが多いのですが、石川のようにローポインターのシュートシーンも見応えありますよ」

 そして高橋は語気を強めた。
「そろそろMAXを倒すところが出てこないと……。その方が盛り上がると思うんです」
打倒宮城MAX――その思いはおそらくどのチームにも共通しているはずだ。そして、それは宮城MAXのメンバーも十分にわかっている。岩佐HCも「相手に合わせるのではなく、いかにMAXらしいバスケができるか。そうでなければ、5連覇はない」と新たなる決意を口にする。

 東京体育館に集結する16チームは精鋭揃い。車椅子バスケットボールとバスケットボールは似て非なるスポーツである。きしむタイヤ、躍る身体、そして独自の戦術。視線が痙攣するようなプレーを、私たちは待っている。

 車椅子バスケットボールクラブチームによる国内最高峰の戦い
 日本一を決める決勝の模様を生中継!



生中継   5月5日(日)13:20〜 CS800/CS580/CS180 スカチャン0
同日録画 5月5日(日)22:50〜 BS241/CS585/CS185 BSスカパー!・スカチャン5
ゲスト解説:京谷和幸/解説:小川智樹/実況:小川光明 

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