宇和島東、今治西……愛媛県の強豪、甲子園の常連でもある高校から中学3年時、上田晃平は誘いを受けていた。父・秀利によれば、当時通っていた硬式野球のチームにはPL学園や大阪桐蔭といった名だたる名門からの誘いも届いていたという。上田本人はというと、第一志望は宇和島東だった。
「途中から入った硬式野球のチームのメンバーがほとんど宇和島東に入ったんです。宇和島東の監督さんも学校に来てくれたりもしていましたし、またみんなで一緒にやりたいなという気持ちはありました」
 だが、上田が最終的に選んだのは南宇和。一度も甲子園経験のない地元の高校だった。
 上田は南宇和を選んだ理由をこう語っている。
「自分にそこまで自信がなかったというのはありましたね。それと、宇和島東が自宅から遠かったんです。それで決めかねていたら、どんどん選択肢がなくなっていって……。その時は大学まで野球をやりたいとは思っていなかったので、とにかく地元の高校で3年間頑張ろうと。自分がチームの中心になって、甲子園に行けるくらいに引っ張っていこうという思いで南宇和に入りました」

 だが、父・秀利は息子の本当の気持ちをわかっていたようだ。
「私たち親は何も言いませんでしたよ。自分で決めるようにと。本人は宇和島東に行きたいという気持ちはあったと思いますね。硬式野球のチームの監督からも熱心に薦められていましたから。でも、自宅から宇和島東まではバスで1時間くらいかかるんです。寮に入れば、それだけお金もかかる。そういうことを自分でいろいろと考えたのではないでしょうか」
 15歳にして、家庭のことも考えられる器量が既に備わっていたということなのだろう。

 “手応え”から一転“力不足”を痛感

 南宇和では当初、上田は内野手として入った。もともと上田の専門はサードやショートで、特にショートは「一番かっこいいと思っていた」。そんな彼がピッチャーを初めてやったのは中学3年の時だった。同学年にもひとつ下の学年にもピッチャーがおらず、チームで最も強肩だった上田に白羽の矢が立ったのだ。
「最初は誰もいないから仕方なく、という感じでしたね。ピッチャーをやりながらも『やっぱりショートがいいな』と思っていました。でも、やっていくうちにだんだんとピッチャーの面白さがわかってきました。やりがいを感じて、最後の方は投げていて楽しかったですね」

 しかし、中学での最後の大会が終わり、硬式野球のチームに入った上田はほとんど野手だったという。マウンドに上がることは稀だった。そのため、高校入学当初は自分でもどちらをやろうか迷っていた。
「最初はピッチャーでやろうかなと思っていたのですが、内野手の練習に入れられたんです。でも、まぁ、自分も内野は好きだったので、そのままやっていたのですが、そのうちに肩が強いことでピッチャーに転向させられました」

 公式戦での初登板は、その年の夏、愛媛県予選2回戦だった。3回途中、0−3とビハインドの場面から先発ピッチャーをリリーフし、そのまま最後まで投げた。2点を失った8回以外は無失点で切り抜ける力投を披露した。当時のことを上田はこう振り返っている。
「負けている状態でしたし、緊張はしていませんでした。とにかくキャッチャーの指示通りに投げたら、抑えられた。『よし、いけるな』という手応えを感じながら投げていました」

 その年の冬のトレーニングで上田のボールは、スピードとキレが増した。入学前、130キロ前後だった球速は、2年の春には140キロにまで伸びていたのだ。ベスト8を目標にして臨んだ2年夏の県予選、南宇和は1、2回戦を完封勝ちで連勝した。上田は2試合連続で先発し、初戦は散発6安打で完封、2回戦は5回無失点と、まずまずの調子だった。

 迎えた3回戦、相手は強豪の今治北。この試合でも先発を任された上田だったが、初回、先頭打者をエラーと自らの暴投で二塁に進め、いきなりピンチを招く。次打者に送りバントを決められ、さらにタイムリーを打たれて先制を許した。2回にも連打と四球で1点、さらに暴投とタイムリーで2点を追加された。序盤でがっちりと主導権を握った今治北は、その後も投打で圧倒。結果は0−9と、南宇和は完封負けに終わった。

「まさに“ひとり相撲”という感じでしたね。この試合で自分に力がないということが、はっきりとわかりました。スピードもコントロールも、すべてをもうワンランク上げないと勝てないと痛感したんです」
 最後の年に向けて、上田はその年の冬、必死にトレーニングに取り組んだ。そして自らの成長を感じ、好調をキープしたまま最後の夏の大会に臨んだ――。

(第4回につづく)

上田晃平(うえだ・こうへい)
1992年5月10日、愛媛県生まれ。小学校でソフトボールを始め、中学校では軟式野球部に所属。南宇和高校時代には2年時からエースとして活躍した。2011年、中央大学に進学。同年秋にリーグ戦初登板を果たすと、2年春には初勝利を挙げる。秋は先発を務め、駒澤大戦で初完投初完封勝利を収めるなど、2勝をマーク。今春も2勝(1敗)を挙げるも、夏にヒジを故障し、秋はリリーフでの3試合にとどまった。リーグ戦通算成績は13試合5勝2敗。177センチ、72キロ。右投右打。



(文・写真/斎藤寿子)
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