いよいよあと2日で2014年、ソチオリンピック・パラリンピックの年を迎えます。現在は日本代表選手が続々と決定しており、徐々にムードが高まっているといったところでしょう。24日にはソチパラリンピックの代表選手が正式発表されました。今回は3競技15名の選手が出場する予定です。そして、代表選手の発表とともに、嬉しいニュースがあります。ソチパラリンピック期間中、スカパーが24時間の専門チャンネルを開設し、生中継を含む全競技を放送するのです。これは日本のパラリンピック史上、初めてのこと。新しい時代の幕開けと言っても過言ではありません。
(写真:日立ソリューションズからは5名の代表選手がソチパラリンピックに出場する)
 12年ロンドン大会以前、日本ではパラリンピックの報道は、テレビも新聞も大変少ないものでした。ですから、パラリンピックの認識を持っている人も少なく、それ以前に開催されていること自体、あまり知られていませんでした。

 実は、私はこのスカパーの番組のお手伝いをさせていただいているのですが、スカパーで放映されるというところに、大きな意味を持っていると考えています。今やプロ野球やメジャーリーグ、Jリーグをはじめ、国内外の多くのスポーツがスカパーで中継されています。そんなスポーツに注力しているスカパーで24時間放送されるということは、パラリンピックがスポーツなんだということを世の中に知らせているからにほかなりません。つまり、視聴者が「パラリンピックってスポーツなんだ」と、知る機会になるということなのです。

 ソチでの生中継がチャンスに

 ソチパラリンピックは、7年後の東京パラリンピックを成功させるためにも、非常に重要な意味を持つことになると、私は考えています。
 今年9月7日、20年に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定しました。私はその時、このコーナーで<パラリンピック開催は日本社会を大きく変える>と述べました。もちろん、今もその気持ちは変わってはいませんし、私自身がその実現に向けて行動しています。

 しかし、開催決定から時間が経つにつれて、徐々に不安な気持ちが膨らみ始めています。なぜなら、招致活動の時にはしっかりと見えていた“東京オリンピック・パラリンピック”から“パラリンピック”の姿が消えつつあるからです。

 例えば報道です。東京オリンピックに向けた話題は、今もテレビや新聞紙上をにぎわせています。しかし、そこに“パラリンピック”が含まれる機会が減っています。もちろん、オリンピックとまったく同じすべきと言っているわけではありません。実際、歴史や大会規模、競技数や出場選手の人数が違うのですから、オリンピックの割合が大きくなることは当然です。しかし、今は招致活動以前の、パラリンピックが認識されていない頃に戻ったように思えるのです。

 16年大会の招致活動の時、「東京オリンピック招致委員会」が「東京オリンピック・パラリンピック招致委員会」という名称に変更されました。オリンピックだけでなく、パラリンピックも一緒になって盛り上げていこうというのが、今や世界のスタンダード。後れをとっていた日本も、ようやくそうした考えが浸透し始めたというわけです。そして今回の20年大会開催決定まで、その機運は高まっているように見えました。ところが、決定後は再びオリンピックだけが見えている状態、つまり16年の招致活動以前に大きく後退してしまっているのです。

(写真:招致活動では佐藤さんをはじめ、多くのパラリンピアンが活躍した)
 招致活動にはパラリンピックは必要でした。なぜなら東京という成熟都市の姿をアピールすることが、大きな勝因になると考えられていたからです。ですから、パラリンピックを活用するのは至極当然。最終プレゼンテーションで佐藤真海さんがトップバッターを務めたことも、そのひとつです。私はそれを批判するつもりはありません。逆に大いに活用するべきですし、パラリンピック、日本の障害者スポーツ界にとっても画期的なことだと考えていました。しかし決定後はどうでしょう。オリンピックを取り巻く人たちは猛烈な勢いで動き始めました。ところが、パラリンピックはというと、停滞というよりも、後退しそうな気配さえ感じられます。パラリンピックも招致活動で多くの人に認知されたことで安心せずに、このチャンスを逃さず、勢いをつけて走らなければなりません。

 今、ソチ大会においてもパラリンピックはほとんど報じられていません。ソチオリンピックが2月に開幕することは知っていても、3月にはソチパラリンピックが開催されるということは、ほとんどの人の頭にはないのが現状でしょう。そんな状況だからこそ、今回のスカパーでの24時間専門チャンネルは、パラリンピックの存在を再び思い出させてくれるいいチャンスになるはずです。20年には東京オリンピックだけでなく、東京パラリンピックも開催されるということを、多くの人の心に留める。パラリンピックの成功の第一歩は、そこから始まります。

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。障害者スポーツをスポーツとして捉えるサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。1991年に車いす陸上を観戦したことがきっかけとなり、障害者スポーツに携わるようになる。現在は国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション活動」を行なっている。その一環として障害者スポーツ事業を展開。コミュニティサイト「アスリート・ビレッジ」やインターネットライブ中継「モバチュウ」を運営している。2010年3月より障害者スポーツサイト「挑戦者たち」を開設。障害者スポーツのスポーツとしての魅力を伝えることを目指している。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ〜パラリンピックを目指すアスリートたち〜』(廣済堂出版)がある。

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