「ユニフォームは戦闘服でもあるけれど、タキシードでもある」とは、原辰徳監督の言葉だ。いかにも<常に紳士たれ>というチーム憲章をもつ読売ジャイアンツの指揮官らしい。
 1934年、日本初のプロ野球球団として、現ジャイアンツの前身、大日本東京野球倶楽部が創設された。日本のプロ野球の歴史は、ここから始まったのである。そのジャイアンツが今年、球団創設 80周年を迎えた。そこで、 06年からパートナーシップを結んでいるadidasでは、 80周年記念にふさわしい新ユニフォームを開発。“キープ・オール”“チェンジ・オール”をテーマに、4つの“ stronger”要素を取り入れた新ユニフォームの誕生秘話に迫る。

 光輝く“ NEWオレンジ”

 白、黒、オレンジの3色を使用したホーム用のユニフォームデザインは、今も昔も変わらない。もちろん、新ユニフォームにも、この伝統はしっかりと継承されている。これがadidasが示す“キープ・オール”だ。

(写真1:2013シーズンのユニフォーム)
 一方、“キープ・チェンジ”とは、進化を示す。今回、adidasは4つの“ stronger”要素を新たに取り入れた。そのひとつが“ジャイアンツカラー”であるオレンジの刷新だ。実は新ユニフォームで使用されているオレンジは、昨季までのものとは明るさが異なる。比較すると一目瞭然だが(写真1、2)、新ユニフォームのオレンジは、より光沢感があり、明るさが際立つ。本拠地・東京ドームで最も美しく見え、より強く見られるようにというこだわりの NEWカラーだ。

「オレンジは、ユニフォームの中でも“ GIANTS”というチーム名と、背番号、そして選手名という最も大事な部分に使われるカラー。伝統的な“ジャイアンツらしさ”を失わないように、なおかつ、ジャイアンツの強さをより強調させたいと考えました。そこで、新しいオレンジを東京ドームでテストしました。試合で使用される照明の中、テレビカメラで映し、スタンドやテレビ画面では実際にどう映るのかをチェックしたんです」
 開発担当の中濱淳星(アディダスジャパン ヘッド オブプロダクトマーケティング)は、“ NEWオレンジ”に込められた思いをそう語る。

“ stronger”要素の2つ目として、新ユニフォームでは“ GIANTS”という文字のサイズを、昨季よりもひと回り大きくした。丸みを帯びた特徴的なフォントは、05年以前に使用されていたロゴを復活させたものだ。中濱は「創設 80周年は球団にとって大事な節目です。そこで球団から『歴史を感じられるロゴを使いたい』という希望があったんです」とロゴの復活経緯を説明した。「チーム名のロゴの大きさ、オレンジの光沢感が、インパクトがあって非常にいいね」と、原監督も気に入った様子だ。
(写真2:NEWオレンジを採用した新ユニフォーム)

 そして、ホーム用の左袖には大小2つずつの星マークが刺繍された。これが“ stronger”要素の3つ目だ。大きい星はひとつで 10、小さい星は1を意味する。つまり、これまでジャイアンツが成し遂げた 22回の日本一達成を示し、ジャイアンツの伝統が一目でわかる。これはadidasが球団に提案して採用されたものだという。
「星マークの刺繍は、敵を圧倒するというポイントのひとつでもあります。嬉しいことに、予想以上に選手が喜んでくれたようなんです。『ビジター用にもつけてほしい』という要望もありました」
 ユニフォームのカラーやデザインひとつひとつが、選手たちの士気をさらに高める。

 カットラインと素材の追求

 球団創設 80周年記念ユニフォームの開発は、 09年からスタートした。5年間の開発期間中、最も時間を費やしたのが、“ stronger”要素の4つ目、野球の動きに最適な形状やカッティングを取り入れた「フォーモーションテクノロジー」である。
「野球の動きを最適化するために最も重要なのが、脇から腰にかけたサイドの部分なんです。ここの可動域をいかに広げ、動きやすくできるか。そのためにはサイドの部分のカットラインをどのような形状にするのかがポイントでした」

 選手たちに試作品を着用してもらい、テストを繰り返した。そうして見つけ出したカットラインは、これまでの丸みを帯びたラインから、脇から腰に向けて内側へとストレートに伸びる。ストレッチ性が 15パーセント向上し、「瞬時に広がりやすく、なおかつ動きの邪魔をしない」と中濱は胸を張る。

 そして、次に取りかかったのが素材だ。はじめにadidas側が最も重視したのは、軽量化だった。しかし、実際にプレーする選手が求めていたのは、それだけではなかった。
「『パリッとしたハリ・コシ感が欲しい』『見た目にも存在感があるようなものがいい』などという要望がありました。そこで最も着心地のいい、重厚感と軽さのバランスを追求しました」

 素材の組み合わせはどれがベストなのか。軽量感を失わず、光沢感をつけるにはどうすればいいのか。5〜6種類のタイプを試作して、テストしたという。その結果、重量は昨季のものより 11パーセントの軽量化に成功した。さらに吸水性 11パーセント、速乾性7パーセント、通気性 12パーセントと機能性もアップ。現時点では、およそ考えうる最高のユニホームが誕生した。

 さらに、ビジター用のユニフォームも 80周年のメモリアルイヤーにふさわしいものとなった。川上哲治監督が率いたV9時代のブルーカラーを復活させたのだ。ホーム用と同じ“ NEWオレンジ”を使用することで、伝統とリニューアル感を兼ね備えたデザインに仕上がっている。

 中濱が「自信を持ってリニューアルした」と語る新ユニフォームは、宮崎でキャンプを張る選手たちからも「これまでのものよりも、格段に軽いし、動きやすい」と好評だ。
「5年をかけて作り上げてきた新ユニフォームが、選手たちの活躍の一助になってくれたら、開発者としてこれほど嬉しいことはありません。そして、球場やテレビで見たファンが、どんな風に感じてくれるのか、今から非常に楽しみです」と中濱は語る。

 14年シーズンは3月28日に開幕。リーグ3連覇、2年ぶりの日本一を目指すジャイアンツは本拠地・東京ドームに阪神タイガースを迎える。 80周年の今季、伝統と新テクノロジーが凝縮されたユニホームが選手たちのプレーを、さらに際立たせる。

(写真/斎藤寿子)
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