熱戦が繰り広げられたソチオリンピックが幕を閉じました。日本は国外開催としては最多となる8個のメダルを獲得し、大いに盛り上がりました。メダリスト以外でも、見ている者を十二分に魅了してくれた選手や競技があり、改めてスポーツの力を感じることができた17日間でした。3月7日からはいよいよパラリンピックが幕を開けます。そこで今回は、障害者スポーツとビジネスについて一考いたします。
「おまえら障害者をネタに商売する気か!?」
 これまでこのようなことを何度言われたことでしょうか。障害者スポーツのイベントや体験会など、これまでにはなかった新しい事業を行うと、必ずと言っていいほど言われてきました。

 まだ障害者スポーツについて右も左もわからなかった当初の私は「はい、そうです」とも「いえ、違います」とも言い切れなませんでした。しかし、今ならはっきり言えます。「はい、私は障害者スポーツを商売として成り立たせようとしています」と。

「商売」と言うと、なんだかお金の亡者のようなイメージがあって、悪い人みたいに聞こえてしまいます。では「ビジネス」という言葉はどうでしょう。これも少しきつい感じがします。では、「事業」はどうでしょうか。
「私は障害者スポーツをしっかりとした事業にしていきます」
 これなら違和感なく聞こえる人もいるのではないでしょうか。

 そもそも一般のスポーツは立派に商売が成り立っているのに、なぜ障害者スポーツはそのように言われるのでしょうか? そこには、やはり障害者スポーツへの偏見があるように思われてなりません。

 なぜ、私が障害者スポーツで事業できると考えているのか。それは障害者スポーツは一般のスポーツと同等のものだと思っているからです。そもそも事業とは、商品やサービスをつくり、それをもって社会に価値を提供し、その対価として金銭を獲得すること。これが、ごく当たり前の姿であり、自然な姿です。購入者は、その商品やサービスの価値を認め、必要としているからこそ、あらかじめ決められた額のお金を支払うのです。これと同じ当たり前のことが、障害者スポーツでも成り立つはずです。つまり、障害者スポーツにもそれだけの価値がある。だからこそ、私は障害者スポーツをしっかりとした事業にしていきたいと思っているのです。

 望まれているビジネス化

 さらに言えば、障害者スポーツを事業とすることを、時代も、そして選手たちも求めています。2000年シドニー大会では国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)との間で協定が結ばれ、08年の北京から、オリンピックとパラリンピックの同一都市での開催が義務化されました。さらに10年バンクーバー大会の時には、パラリンピック組織委員会がオリンピック組織委員会に統合されるなど、オリンピックとパラリンピックは一体となって運営されています。ご存じのようにオリンピックは完全にビジネスとして運営されており、一体となったパラリンピックも然り、です。

 日本でも2016年大会の招致活動から、「東京オリンピック・パラリンピック招致委員会」という名称へと変わり、20年大会の開催が決定した今では「東京オリンピック・パラリンピック組織委員会」となっています。また周知の通り、今年4月からはパラリンピックの管轄は厚生労働省から文部科学省へと移ります。世界的に障害者スポーツのエリート化が進み、今やパラリンピックはオリンピックと同じ扱いとするのが当然という動きが出てきているのです。また地域でのスポーツにも、障害の有無に関わらず共に参加するという機会が確実に増えてきています。例えば総合型地域スポーツクラブが主催するイベントなどには障害のある人ない人が一緒に参加するプログラムが出てきています。

 これらのことからも、障害者スポーツは一般のスポーツと分けるのではなく、スポーツの中の競技や種目とカテゴライズされていくことでしょう。そうすればそれに伴って、ごく自然にその中で事業が行われていくことになるのです。

 10年前、「障害者をネタに商売する気か!?」という問いに対して、私はYesともNoとも答えられませんでした。でも、こうして考えていくと、この質問自体がナンセンスであることもはっきりしてきました。それでも、また今そのように聞かれたら、「はい、私は障害者スポーツで事業をします」と答えます。いかがでしょうか。皆さんはこの言葉に違和感がありますか?

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。障害者スポーツをスポーツとして捉えるサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。1991年に車いす陸上を観戦したことがきっかけとなり、障害者スポーツに携わるようになる。現在は国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション活動」を行なっている。その一環として障害者スポーツ事業を展開。コミュニティサイト「アスリート・ビレッジ」やインターネットライブ中継「モバチュウ」を運営している。2010年3月より障害者スポーツサイト「挑戦者たち」を開設。障害者スポーツのスポーツとしての魅力を伝えることを目指している。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ〜パラリンピックを目指すアスリートたち〜』(廣済堂出版)がある。

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