「戦う気持ちで、僕たちは相手を上回っていなかったと思います」
 遠藤航がこう振り返ったのは、10年と12年に出場した「AFC U−19選手権」のことだ。U−19日本代表は、いずれも準々決勝で敗退し、「FIFA U−20W杯」の出場権を逃した。対戦相手は体を投げ出しながらボールを奪いに来た。対して日本の選手は、厳しい言い方だが足先だけで対応し、球際の競り合いで後手に回った。たかが“気持ち”、されど“気持ち”――。あと1センチ、体を寄せていれば、足を伸ばしていれば、結果は違っていたかもしれない。遠藤はアジアを勝ち抜く厳しさを2度も肌で感じた。しかし、彼は「負けたことがプラスになることもある」と、次に向かっている。16年リオデジャネイロ五輪だ。
 プレーの幅を広げて五輪へ

 昨年12月にはリオ五輪出場を目指すU−21日本代表(手倉森誠監督)が発足した。遠藤航は、手倉森ジャパンでも中心選手としての活躍が期待されている。当然、アジア予選を勝ち上がらなければ、五輪に出場することはできない。「将来、海外でプレーしてみたいという気持ちもあるので、アンダー世代で世界大会を経験してみたい」と考える遠藤にとって、リオ五輪は世界の同世代の選手と腕試しができる最後のチャンスだ。

 遠藤は、手倉森ジャパンの初陣となる今年1月の「AFC U−22選手権」に臨むメンバーに選ばれたが、負傷の影響で同大会を欠場。3月に行われた国内短期合宿で、初めて、U−21代表に合流した。合宿を経て、遠藤は手倉森ジャパンのスタイルの印象を「攻守の切り替えのスピード、運動量がすごく求められる」と語る。その上で、遠藤は自身に求められるものが、もうひとつあると感じている。リーダーシップだ。遠藤は2月生まれで、年齢こそ1992年生まれのメンバーと同じだが、学年は4月以降生まれの選手よりも1つ上になるのだ。

「U−19代表で悔しい思いをした経験をチームに還元しないといけない。Jリーグとアジアの戦いは全然違う。そういうアジアの厳しさを、一番年上としてチームメイトに伝えながら引っ張っていければと思っています」
 この言葉どおり、短期合宿では、積極的に周囲とコミュニケーションをとる遠藤の姿があった。

 もちろん、チームへのフィット、リーダーシップ以前に、まず自身が今後も代表に選ばれ続けなければならない。それは遠藤も自覚している。
「代表に選んでもらうためには自分の良さを出していくことに尽きると思います。また試合の展開によってはセンターバック(CB)のみならず、ボランチなどでもプレーする状況も出てくる。その時に、どのポジションでも同じレベルでプレーできないといけません。ですから、プレーの幅を広げていくことも重要だと考えています」

 今季のリーグ戦では昨年まで務めていた3バックの中央ではなく、右でプレーしている。中央の時と大きく役割は変わらないものの、ボールを奪いに行くべきか否かの判断、攻撃参加のタイミングなどに違いがあるという。難しさはあるが、「いろいろなところを経験できたほうが自分にとってプラスになる」とやり甲斐も感じている。湘南での新たな挑戦は、きっと世界の舞台を目指す上での肥やしになるはずだ。

 元代表主将が認める才能

「最終的には、CBで勝負したい」
 現在は複数のポジションにチャレンジしている遠藤だが、選手としての理想像は明確だ。
(写真:©SHONAN BELLMARE)

 身長178センチの遠藤は、国内レベルで見ても高さがあるほうではない。しかし、本人は「大きさだけが勝負を分けるわけじゃない」と語る。
「この身長でもCBでやれる、ということを示したい。これは自分のひとつのプライドです。A代表の今野泰幸選手も身長は178センチ。それでも、ヘディングが弱いわけではない。今野選手のようなディフェンダーが代表にいるというのは、似た体格の僕にも可能性があることを証明してくれていると思うんです。“この体格では通用しない”と諦めたら、絶対に入れなくなってしまいます」

 実際、彼が試合中、身長で優る相手との空中戦で競り負けるシーンはあまりない。その秘訣は「飛ぶタイミング」にある。遠藤は、ボールの落下点に入ると、競り合う相手よりも少し早いタイミングでジャンプする。そして、遅れて飛んだ相手の体にうまく乗ることで、より高い位置で競り合うのだ。ハンデをカバーする技術も遠藤は若くして兼ね備えている。

 今季、湘南は驚異の開幕14連勝を飾った。J1昇格へ邁進するチームの中で遠藤はここまでフル出場、4ゴールをマークし、4月度のJ2月間MVPに選出された。その発表会見に出席した元日本代表DFの宮本恒靖Jリーグ特任理事は、遠藤をこう評価する。
「彼は守備のみならず、(積極的なオーバーラップで)攻撃面でもキープレーヤーになっている。また、高い位置まで攻め上がると、後ろのスペースを空けてしまうが、守備面でもしっかりとした力があるからカバーできる。遠藤選手の存在が、湘南の好調にもつながっているのかなと思います。まだまだ若い選手ですし、自分の引き出しをもっと増やしていってもらいたいですね」

 宮本特任理事も、身長176センチながらCBで世界と渡り合ってきた。それだけに、似たタイプの遠藤には、何か感じるところがあるのかもしれない。

 W杯に2大会連続出場した元日本代表DFからも期待される逸材。本人もA代表入りを強く意識し始めている。
「今の身近な目標はA代表に選ばれること。昨年、J1で対戦した選手がA代表に選ばれてプレーしているのも見てきた。だから、ある程度、“もし自分がA代表に入ってみたらどれぐらいできるのか”と、比べることができました。その上で、チャンスはあるなと。もちろん、湘南で結果を出すことが大前提です」

 世界で戦い、世界に勝つ――。大いなる航海へ漕ぎ出すべく、遠藤は湘南の地で“出航”の準備を進めていく。

<遠藤航(えんどう・わたる)>
1993年2月9日、神奈川県生まれ。南戸塚SC―南戸塚中―湘南U−18―湘南。ポジションはDF。南戸塚中時代に前線からセンターバックへコンバートされる。中学2年時に湘南U−18の練習に参加し、高校から所属。10年には2種登録でトップチームに登録され、プロデビューを果たした。翌年、トップへ昇格し、J2リーグ戦34試合に出場。12年シーズンは副キャプテンに抜擢され、7ゴールを挙げる活躍でJ1昇格に貢献。13年シーズンは負傷で戦列を離れる期間が長かったが、17試合に出場した。今季はここまでフルタイム出場を続けている。各世代別代表にも選出され、U−21代表ではリオ五輪出場を目指す。的確なポジショニング、高いキック制度、空中戦の強さ、得点力もある。身長178センチ、75キロ。J1通算23試合4得点、J2通算78試合12得点。背番号3。

☆プレゼント☆
遠藤選手の直筆サイン色紙を2名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「遠藤航選手のサイン色紙希望」と明記の上、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しい選手などがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。

(文・写真/鈴木友多)

(このコーナーでは、当サイトのスタッフライターがおすすめするスポーツ界の“新星”を紹介していきます。どうぞご期待ください)
◎バックナンバーはこちらから