二宮: お久しぶりです。これがTETSUYAさんが開発に携わったダンスパフォーマンスシューズ「DP.01」ですね。そもそも、ダンス用のシューズをつくろうと思ったきっかけは?
TETSUYA: EXILEに加入して初めてLIVEに出演した時、バスケットシューズでパフォーマンスをしていました。先輩方も僕も、同じバッシューを履いて踊っていました。そのバッシューは軽い部類だったのですが、みんな「踊る時にはシューズが軽いに越したことはない」と言っていた。それを聞いて、「もっといいシューズはできないかな」と考え始めたんです。

 ドイツへ行って直談判!

二宮: 前回の対談でEXILEのパフォーマーはLIVEで3時間以上、踊り続けると聞きました。それを考えると、少しでも足の負担を軽くしたかったと?
TETSUYA: そうです。3時間のパフォーマンスに耐えられるシューズが必要でした。また、夏場のスタジアムツアーでは、足の裏に熱がこもる。ですから、軽さに加え、通気性などの要素を、ひとつずつ満たしてくれるシューズが欲しかったんです。

二宮: そこで、2010年にアスリート契約を結んだadidasにシューズ開発を提案したわけですね。
TETSUYA: そうですね。2年前、adidasさんのサポートもあって、僕が行なっている「E.P.I.」(EXILEパフォーマンス研究所)の活動でオランダのAFCアヤックスやadidasドイツ本社を訪れました。ドイツ本社を訪問した際に、ダメで元々という気持ちで、「シューズ開発のプレゼンだけはしてみよう」と思いついたんです。幸運にも、関係者の方々に時間をつくってもらえて、直談判することができました。

二宮: それなら構想から約2年を経て完成したということですね。シューズを開発する上で最も苦労したことは?
TETSUYA: 「ゼロからシューズをつくるのは、こんなに大変なのか」と実感しました。ソール、アッパー素材、デザイン……すべてがゼロからのスタートでした。

二宮: 設計段階からシューズ開発に携わったダンサーはそうはいないでしょう。
TETSUYA: 僕も自分の言い出したことがかたちになるなんて夢にも思っていませんでした。ドイツでプレゼンをして、実際にプロジェクトが動き出した時は、「これは絶対にやり遂げないといけない」と気合いが入りましたね。

二宮: ところで「DP.01」というネーミングの由来は?
TETSUYA: 「DP」はDance Pride(ダンスプライド)の頭文字からとりました。ダンスに対するプライドを持つという意味です。「01」というのは、今後、「02」「03」とつなげていきたいという思いも込めています。

 TETSUYAのこだわりが凝縮

二宮: 「DP.01」にはTETSUYAさんの知見や経験が反映されているわけですね。
TETSUYA: 通気性、重量、機能性、強度……今までためておいたシューズに対するアイデアや要望を、プレゼンで全て伝えました。
(写真提供:adidas)

二宮: 重視したのは、やはり軽さ?
TETSUYA: そうですね。重たいシューズでは、キレのある動きができないので、軽さにはこだわりました。「DP.01」は、今まで履いたシューズの中で、一番軽量です。知り合いのダンサーが「DP.01」を履いてくれていて、初めて着用した時はあまりの軽さに「慣れるまで少し時間がかかった」と驚いていました。

二宮: それくらい従来のシューズより軽量化を実現できたということですね。他にこだわった部分は?
TETSUYA: ソールですね。様々なジャンルのダンスがある中で、ソールは滑ったほうがいいという人と、グリップ力に優れているほうがいいという人がいる。その上で、「DP.01」はまずEXILEのパフォーマンスに一番適しているシューズにしたかったので、どんなステップを踏んでも滑らないようにグリップ力を重視しました。

二宮: 実際に触れると、つま先の部分は柔軟性がありますね。
TETSUYA: そのとおりです。たとえばムーンウォークをする時は、片足のつま先に全体重を乗せます。その時、爪先のしっかりとしたホールドと柔軟性が両方必要です。

二宮: かかとについてはどうですか?
TETSUYA: かかと部分についてはクッション性とホールド性を大事にしました。adidasさんの「ジャパニーズフィットラスト」という日本人に適したラスト(木型)を採用して、ステップした時に足首がぶれにくくなるように設計してもらいました。このラストがかかとをがっしりホールドしてくれるので、足首に負担がかかりにくいんです。

二宮: 競技用シューズとなると、フィット感も大切です。
TETSUYA: そういう意味でも、かかとのホールド性が重要でした。かかとがフィットしていると、シューズがより軽く感じるらしいんです。加えて、インソールのかたちが足を包み込むようになっている。このような技術は、足を研究し尽くしているadidasさんならではですよね。

二宮: そして通気性ですが……。
TETSUYA: それもばっちりです。ソールの中足部に蒸れを軽減させるベンチレーションを備えています。またインソールにも穴があいていて、熱を逃がすようになっています。

二宮: TETSUYAさんのアイデア、そしてadidasの技術が見事に融合したのが、「DP.01」なんですね。完成品を履いて、実際に踊ってみた時の感想は?
TETSUYA: もう、言うことがなかったですねぇ。EXILEメンバーやTRIBEのみんなにも履いてもらっているんですが、すごく踊りやすくて、ダンスとの相性がいいと言ってくれています。その中で、新しい要望などが出てくれば、次に生かしていこうと考えています。

 “かたち”から入る重要性

二宮: カラーを4色用意したのは?
TETSUYA: 「ブラック」と「ホワイト」は、EXILEのLIVEで着用する衣装に合わせやすいカラーなので、絶対につくりたいと考えていました。ブラックはたとえばスーツを着て踊る時に、違和感なく合わせることができる。ホワイトは衣装がカラフルや明るいデザインだった際に映えますからね。

二宮: なるほど。それら2色とは対照的に、真っ赤な「スカーレット」はヴィヴィッドで、インパクトがあります。
TETSUYA: 実は、スカーレットは自分に合う色かなと思って、チャレンジのつもりで開発しました。僕は衣装でも私服でも、昔から真っ赤なシューズを履いた時に、気分が上がるんです。なぜかはわからないんですが(笑)。

二宮: 赤色には心理的に高揚させる効果があると言われますからね。では「ブラック×ピンク」のターゲット層は?
TETSUYA: 女性ですね。ソールもピンクにしたので、ダンス中の様々な動きでピンクが見えるんです。可愛らしさも取り入れることで、男女に受け入れられるシューズを目指しました。

二宮: 中学校でダンスまたは武道が必修化された影響で、ダンスを始める子供が増えていると聞きます。「DP.01」はそんな子供たちが履いても足を保護できて、かつダンスに興味を抱かせるような構造になっているわけですね。
TETSUYA: 開発する時に、「履くだけでダンスがうまくなったように見えるシューズがいいな」と考えていました。先輩のUSAさんと僕が出演している『Eダンスアカデミー』(NHK)で、子供の出演者が「DP.01」を履いていたんです。それを見て「ダンスがうまく見えるね」と言ったら、その子がすごく笑顔になったのが印象的でした。

二宮: サッカーをしている子供が、有名選手モデルのスパイクを履きたがるのと似ていますね。かたちから入っていくことも重要です。
TETSUYA: そうですね。かっこいいシューズを履くことで、モチベーションが上がるのはよくわかります(笑)。「DP.01」には、そういう役割もあるのかなと思いますね。

 EXILEの名を世界に

二宮: 「DP.01」の誕生が日本のダンスシーンの活性化につながればいいですね。
TETSUYA: 今、ダンス人口は増えています。子供たちのスキルも、昔とは比べ物にならないくらい高い。大人よりうまいんじゃないかというくらいです(笑)。それは、レッスン場の増加や必修化に加え、情報量が多くなっているからだと思います。

二宮: 情報量ですか?
TETSUYA: 今の時代は家でインターネットを通して世界中の情報を入手できます。僕がダンスを始めた時とは大違いです。僕はレッスン場に通い、仲良くなった先輩のダンサーに頼み込んで海外のダンサーのビデオを見せてもらっていました。「お願いします!」というふうに(笑)。そうして手に入れたビデオを、スロー再生しながら擦り切れるまで繰り返し見たものです。

二宮: 今の子供たちは、インターネットを通じて早くから世界のトップレベルを見ることができますね。
TETSUYA: そのとおりです。また技のみならず、映像に映るダンサーがどのような雰囲気の中で踊っているかも学習できます。僕らがやっているストリートダンスは、まず海外のダンサーの技術を真似て、習得してから自分流にアレンジしていきます。今の子供たちは、その流れが加速しています。

二宮: TETSUYAさんにとって、「DP.01」の開発がひとつの夢だったことがよく分かりました。その夢が叶った証が、シュータンに施された「E.P.I.」のロゴ(写真)なんでしょうね。
TETSUYA: 開発責任者の八木稔さんが、「ロゴが入っていた方が、TETSUYA君もこのシューズをもっと愛せるでしょう。だから、なんとか入れてあげたいんだ」とおっしゃってくれたんです。「E.P.I.」が入っていることで、シューズへの愛情はより深くなりました。何より、adidas初のダンスパフォーマンスシューズという記念すべき製品に、EXILEの名を刻み込めたのが嬉しかったですね。EXILEのメンバーは、「EXILE」を世界に広めるという夢を持っています。その意味で、「DP.01」の完成で、小さいかもしれませんが、世界への一歩を踏み出せたと自負しています。

二宮: 今やEXILEは日本を牽引する存在です。今後、TETSUYAさんたちが担う役割はもっと大きくなっていくでしょう。前回のお話しにもありましたが、2020年東京五輪・パラリンピックの開会式でEXILEが中心となってパフォーマンスをするという夢が実現できればいいですね。
TETSUYA: 東京五輪・パラリンピックは、日本中がワクワクしているものだと思います。僕としては、そこに何かで参加したいという夢を持ち続けたい。もちろん、EXILEのメンバー全員がそう思っています。開会式ではうれし泣きをしながら「Rising Sun」などを踊りたいですね(笑)。でも、本当に踊りながら涙が出る感覚になることがたまにあるんです。「ああ、ダンスをやってきてよかったな」と。それは多くの人が動きを合わせて踊っている時なんです。みんなが一生懸命に同じ動きをしていることに、ダンスの意味深さを感じる。これから、そういう意味深さをもっと追求していきたいですね。

TETSUYA
1981年2月18日生まれ、神奈川県横須賀市出身。19歳よりダンスを始める。07年1月、「二代目J Soul Brothers」のメンバーに抜擢。09年2月25日、アルバム「J Soul Brothers」でメジャーデビューを果たす。そして同年3月1日、EXILEにパフォーマーとして加入。ダンサーのみならず、さまざまな舞台、TVドラマで俳優としても活躍している。11年よりEXILEのパフォーマンス向上EXILE を目的とした「EXILEパフォーマンス研究所(E.P.I.)」での個人活動を開始。14年6月、adidasとの共同開発で、adidas史上初の「ダンスパフォーマンスシューズDANCE PRIDE .01」を発売。同年4月、淑徳大学人文学部表現学科の客員教授を務める。

>>「DP.01」の詳細はこちら[/color][/b]

(写真・構成/鈴木友多)
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