―― 越川さんはJTサンダーズのキャプテンでもあると同時に、全日本男子バレーボールチームのキャプテンでもあります。南部正司新監督のもと、5月に再スタートを切った全日本は、9月のアジア大会では銀メダルを獲得しました。
越川: 昨シーズンのサンダーズとちょっと似た感情を覚えましたね。決勝で負けたことは悔しかったのですが、それでも今年だけのことを考えれば、ある程度の成果はあげられたんじゃないかなと。

―― 本格的にチームが始動して半年でのアジア大会でしたが、そこで得た手応えと課題は?
越川: 代表経験のない若い選手たちがたくさん入ってきた中で、やらなければいけないことはたくさんあります。でも、逆に言えば、“伸びしろ”しかない選手たちばかりなので、これからどれだけ成長してくれるか楽しみだなとも感じました。

―― どんなところに伸びしろを感じましたか?
越川: 例えば、石川祐希、柳田将洋、山内晶大の“大学生トリオ”は、試合に強いなと思いましたね。3人とも、練習よりも試合の方がいい動きをするんです。それに、欲があるところもいいですね。石川と柳田は、いつも試合に出たくて仕方ない、という感じなんです。試合後も「もっとやりたい、もっと試合に出たい」と口に出すんですよ。若い選手には珍しい。久々にそういう選手が出てきたなと思いましたね。
 逆に山内はそういうところはあまり表には出さないタイプですが、彼も試合でやってくれるんです。キャプテンとしては、ギラギラした選手が出てきてくれて、嬉しいですよね。でも、同じ選手としては「まだ抜かせないよ」とは思っていますけどね(笑)。

 来年のW杯は五輪への準備

―― 南部新監督が重要視していることは?
越川: まず一番に世界一の体力をつけることですね。それくらいじゃないと、世界に勝つことはできないと。それと、これまでは6割に満たなかったサイドアウト率の向上です。

―― 越川さん自身は今の全日本に必要なものは何だと思っていますか?
越川: 南部さんのもとで練習しながら思ったことは、戦術の割り切りが必要だということです。すべてを決めよう、拾おう、止めよう、ではなく、「ここは抜かれてもいい」という部分と、「このポイントは絶対に決めなくちゃいけない」という部分との見極めが大事かなと。世界の上位チームに勝つには、粘って粘って競ったゲームの中で、最後に勝ち切るしかありません。だから点は取られるけれども、離されることなくついていって、最後の勝負どころでしっかりと戦術をはめこんで、1点を取って逃げ切る。そういうバレーをしていかなければいけないと思っています。

―― 来年にはW杯があります。そこで全日本が目指すものとは?
越川: 順位というよりも、2016年リオデジャネイロ五輪の切符をつかみ、五輪で世界トップチームと渡り合うための準備ができた、という手応えをつかむことが大事だと思っています。そのためにも、まずはW杯までにいかに世界との差を詰めることができるか。特に、アジア大会の決勝で敗れたイランとは、必ず2016年の世界最終予選で出場権争いをすることになると思いますので、そのイランに勝てるという手応えをつかみたいと思っています。

 準優勝だからこその厳しさ

―― さて、JTサンダーズとしての2年目がスタートしました。昨シーズンはあと一歩で優勝を逃しただけに、選手たちの今シーズンにかける意気込みも強いのでは?
越川: はい。みんな「今年こそは優勝する」と意気込んでいます。開幕前には社内壮行会を開いていただいたのですが、その時にベテランの町野仁志さんの言葉が印象的でした。「毎年のように優勝します、と言っていますが、今年ほど強い気持ちになったことはありません。優勝できると、本気で思っています」とおっしゃられたんです。それを聞いて「あ、これがみんなの本音なんじゃないかな」と思いました。

―― 悲願の初優勝を達成するには何が必要でしょうか?
越川: 頭を使うことですね。いかに自分で考えて行動することができるかが、重要だと思っています。

―― 昨シーズンの“意識改革”から“自主性”へとグレードがひとつ上がりましたね。
越川: はい。昨シーズンはヴェセリン・ヴコヴィッチ新監督や新加入の僕が言っていることを理解して「こうすれば、本当に勝てるんだ」と、みんなが信じることが大事だったんです。それが勢いにつながり、必死になってやった結果が準優勝だったと思います。じゃあ、今シーズンも同じことをすれば勝てるかといえば、絶対にそれはありません。ファイナルどころか、昨シーズンより成績が落ちる可能性だって否定できません。
 そこで何が必要かというと、言われたことをそのままやるのではなく、選手一人ひとりが「優勝するためには何をしなければいけないのか」「今、何が必要なのか」ということを自分で考えて動くこと。そうでなければ、本当の意味で力がついたとは言えません。

―― 昨シーズンは前年の6位から準優勝と飛躍しました。だからこその危機感を感じているのでは?
越川: その通りです。僕は今シーズン、大きなチャンスでもある反面、ひとつ間違えれば、大変な結果になる危険性もあると思っています。もちろん、準優勝ですから追う立場ではあるわけですが、単純に順位だけを見れば、僕たちを追ってくるチームの方が圧倒的に多いわけです。他からは「準優勝のチーム」という目で見られる。「6位のチーム」として見られていた昨シーズンとはプレッシャーも、「優勝する」という言葉の重みもまったく違います。

 カギを握る中堅層の成長

―― 新外国人にはレアンドロ・ヴィソット・ネヴェス選手が加入しました。
越川: まだチームに合流して日は浅いですが、彼はロシア、イタリア、韓国のクラブでプレーしてきた経験豊富な選手ですから、心配はしていません。外国人選手の中にはいい時と悪い時との差が激しいタイプもいますが、ヴィソットは「自分の枠の中にボールを上げてくれれば、なんとでもするよ」というタイプ。チームにとっては大きな存在になると思います。

―― ヴィソット選手は、ロンドン五輪で銀メダルを獲得するなど、ブラジル代表としても活躍しています。対戦したこともあると思いますが、どんな印象を持っていますか?
越川: 代表で対戦した時は、速いトスを打っていて、「巧いな」と思っていましたね。身長212センチと高さもあるし、器用さもある。サーブも打点が高く、結構強烈なんです。オポジットではありますが、守備も本人は嫌いではないと言っていました。実際、あの身長にしては頑張って拾っているイメージがありますね。

―― 今年のチームの見どころを教えてください。
越川: ヴィソットが加入したことで、昨シーズンとはまた違う攻撃が見せられると思います。それと、昨シーズン、いろいろと新しいことを手に入れて成長した選手たちが、今シーズンはどう自分たちの色を出していくかにも注目してほしいなと思っています。なかでも、キーマンは中堅層の選手たち。特に井上俊輔、深津旭弘、八子大輔の3人ですね。

―― なぜ3人がキーマンになると思われるのでしょうか?
越川: 僕を含めて酒井大祐さん、町野さんのベテラン組3人は、もう出来上がっていますから、大きな部分で昨シーズン以上でもなければ昨シーズン以下でもないと思います。それに、ベテランは自分がどういう役割で、どうすべきかを十分にわかっていますから、誰に何を言われなくてもやるんです。一方、若手は経験がないわけですから、わからないことが多くて当然。夏場の練習から積み上げてきたものを、思い切り出してくれればいいと思っています。
 そうなると、チームの成長という点でカギを握るのは、やはり中堅層の選手たち。これからチームを引っ張っていかなければいけない彼らが、どれだけ考えて実行するか。そして若手を引っ張り上げていけるか。これがチームの強さにつながっていくと思いますし、今後JTサンダーズというチームが強さを継続させていく重要な部分だと思っています。ぜひ、期待しながら応援して欲しいと思います。

(おわり)

越川優(こしかわ・ゆう)
1984年6月30日、石川県生まれ。小学4年からバレーボールを始め、中学時代から全国大会で活躍。岡谷工業高校(長野)3年時には主将として春高準優勝に導いた。同年のアジア大会で男子では初の高校生での全日本入りを果たす。2003年、サントリーサンバーズに入団。1年目のVリーグにて新人賞を獲得し、史上初の5連覇に貢献した。08年には北京五輪に出場。翌年より3シーズン、イタリア・セリエAでプレーし、2012-13シーズンに、国内リーグに復帰。昨季、JTサンダーズに移籍し、今季はキャプテンに就任した。

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 2013/14V・プレミアリーグ、開幕!

 JTサンダーズはヴェセリン・ヴコヴィッチ監督、越川優新キャプテンのもと、悲願の初優勝を目指してリーグ戦に挑みます。ぜひ会場へ足を運び、選手たちの活躍をご覧ください。

<今後の試合日程(年内)>
11月22日(土)14:00 vsFC東京 福山市緑町公園屋内競技場(広島)
11月23日(日)13:00 vs東レ 福山市緑町公園屋内競技場(広島)
11月29日(土)14:05 vsサントリー 大田区総合体育館(東京)
11月30日(日)13:00 vs豊田合成 大田区総合体育館(東京)
12月20日(土)14:00 vs 堺市金岡公園体育館(大阪)
12月21日(日)13:00 vsパナソニック パナソニックアリーナ(大阪)
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 女子はV・プレミアリーグ復帰へ

 JTマーヴェラスは、尾侯監督、上屋敷綾キャプテンの下、1年でのV・プレミアリーグ復帰を目指します。ぜひ会場へ足を運び、選手たちの活躍をご覧ください。

<直近の試合日程>
11月29日(土)13:00〜 vsKUROBE 猫田記念体育館(広島)
11月30日(日)12:00〜 vsトヨタ自動車 猫田記念体育館(広島)
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(聞き手/斎藤寿子)
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