アギーレジャパンは11月の2試合(14日=ホンジュラス、18日=オーストラリア)に連勝し、2014年の実戦を終えました。今回、注目されたのはMF遠藤保仁やMF今野泰幸といったザックジャパンで主力を張った選手の代表復帰です。日本サッカー協会内に10月までの4試合(1勝2敗1分け)に対する不満が見え隠れする中、ハビエル・アギーレ監督には11月の2試合でどうしても勝利が必要な状況でした。そこで遠藤や今野といった経験ある人材を招集したと私は見ています。その意味で、アギーレ監督としては計算どおりの連勝だったのではないでしょうか。
 新旧スタイルは融合するか

 また、アギーレ監督は彼らを呼ぶことで、前体制のサッカーと自らの目指すスタイルをどう組み合わせられるかも意識していたはずです。それはオーストラリア戦の前半途中にシステムを4−3−3から、4−2−3−1に変更したことからも明らかです。

 アギ―レ監督は10月までの4試合では初選出のメンバーを多く起用するなど、カラーを前面に出して選手たちをテストしました。一方で、11月の2試合は前体制のベースに自身の哲学はどう組み込めるかをチェックしたのです。攻撃的サッカーを志向したザックスタイルと守備を重視するアギーレスタイル。今後、2つのスタイルのポテンシャルをアギーレ監督がどう生かしていくのかに注目していきましょう。

 試合内容にも触れておきます。オーストラリア戦は、システム変更を機に日本がリズムに乗って相手を押し込み、2点を奪いました。しかし試合終了間際、FWティム・ケーヒルにヘディング弾を叩き込まれ、1点差に迫られました。サッカーの中で起こり得る一瞬のスキを排除することが難しいのは事実です。しかし、そういうことが起こり得ることを意識し、備えておくことはできます。

 失点シーンではケーヒルの巧みなポジショニングに、日本の守備陣は見事にマークを外されていました。ケーヒルがいたのはDF森重真人とDF太田宏介の間です。森重はボールを意識しすぎたあまりケーヒルを見失い、太田はマークしている選手がいたために対応できませんでした。そのタイミングで生じたギャップをうまく突かれたのです。やはり、ゴール前では必ず1人はフィニッシャーに体を寄せなければいけません。そのことをDFラインの選手は改めて痛感したはずです。ケーヒルに許したゴールを、今後の教訓にしてほしいですね。

 J1残り2節、来季につながる戦いを

 Jリーグに視線を移すと、J1が佳境を迎えています。残り2節となり、首位に位置しているのは浦和レッズ。ただ、2位のガンバ大阪(首位と勝ち点2差)、3位・鹿島アントラーズ(同4差)、4位・サガン鳥栖(同5差)までに優勝のチャンスがあります。次節で浦和の優勝が決まる可能性もありますが、決着は最終節までもつれ込むと私は見ています。

 というのも、浦和は22日のG大阪との天王山に敗れ、勝てば自力優勝を決められるチャンスを逃してしまったわけですからね。選手の心境は穏やかではないはずです。ましてや29日の相手は優勝に首の皮一枚つながっている鳥栖です。日本代表FW豊田陽平を擁し、なかば捨て身の攻撃を仕掛けてくるであろう相手を抑え込むのは簡単ではないでしょう。

 鹿島は逆転優勝するために2連勝が絶対条件ですが、選手たちはむしろ目標が明確になって戦いやすいと思います。07年には最終節で奇しくも浦和を逆転して優勝しました。鹿島得意のラストスパートで、07年の再現を目指してほしいですね。

 優勝争いをする4クラブの中で、最も勢いに乗っているのはG大阪でしょう。8日にはナビスコカップを制し、天皇杯も決勝に駒を進めています。過去に例のないJ1復帰即3冠が現実味を帯びてきました。リーグ戦は序盤こそ勝ち切れない試合が続いたものの、ブラジルW杯の中断が明けてからは14勝2敗2分け。大きく戦術やメンバーを変更せず、チームとしての戦い方を熟成させてきたことが、快進撃の大きな要因だと私は考えています。試合を戦うごとに選手同士の信頼関係が強まり、勝利することで個人としても自信を深めてきたのです。

 また中盤に遠藤、今野という攻守のバランスに優れた選手がいることは、チームにとって大きなアドバンテージと言えます。彼らは献身的に動いてボールを奪った後、攻撃の起点になることができますからね。潰し役と起点の両方を高いクオリティーでこなせる選手はそうはいません。今のG大阪は遠藤と今野がチームを安定させ、他の選手が彼らに連動して動くという役割分担がはっきりしています。

 G大阪の試合を見ると、選手ひとりひとりが、互いを補い合えているように映ります。ひとりが90パーセントの力しか出せなくても、残り10パーセントを周囲が補てんする。パスコースへの顔出しだったり、守備において相手のコースを規制させるプレッシングであったりと、お互いが無理をしなくて済む関係性を築けていると思いますね。先発メンバーのみならず、控え選手もうまく試合に入れています。チーム全体で戦えているからこそ、連戦の中でも質を落とさない。これがG大阪最大の強みといえるでしょう。

 優勝争いのほか、残留争いも混戦を極める中で、中位クラブはなかなかモチベーションを見つけにくい状況だと思います。しかし、プロである以上は応援してくれる人に最後まで全力でプレーする姿を見せなければなりません。残り2節、中位クラブの選手たちにも来シーズンにつながるような意義ある戦いを期待したいですね。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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