「あっ、軽い!」
 足を入れてみて、思わず声をあげてしまった。約310g(27センチ)という重さは全くと言っていいほど感じない。一歩踏み出すと、誰かに背中を押されるように前へスムーズに進んでいく。この11日からadidasオンラインショップで発売が開始された「ultra boost(ウルトラ ブースト)」は、最新テクノロジーを集結させた“adidas史上最高の一足”だ。

(写真:25日からは店頭発売も開始される)
 ブーストフォーム100%のミッドソール

 adidasが約10年の月日をかけて開発した「ブーストフォーム」は、今や世界中のスポーツシーンに影響を与えつつある。この素材は軽量で、かつ強度が高く、温度変化にも強いTPU(熱可塑性ポリウレタンエラストマー)が使われ、衝撃吸収性と反発性を両立させることに成功した。ランニング用はもちろん、バスケットボールのシューズなどにも、その用途は広がっている。

 ランニングシューズ「boost」シリーズは、2013年2月の「energy boost」の発売以降、多くのランナーやアスリートに愛用されてきた。今回の「ultra boost」ではミッドソールにブーストフォームのみを、つま先からかかとまで100%搭載。これにより、従来のboostシリーズ以上に爆発的なクッション性と反発性を引き出すことができる。

 このミッドソールの特長を最大限生かすべく、アウトソールも新たに開発された。名付けて「ストレッチウェブアウトソール」。シューズを裏返してアウトソールを見ると、網目状の模様が広がっている。adidas Japanの荒川正史(Runningビジネスユニット マーチャンダイジング シニアマネジャー)さんは「地面に着地して体重が乗っている時は、この網目が広がり、ブーストフォームの衝撃吸収性と反発力を100%生かすことができます」と、その特性を説明する。

 さらに模様は均一でなく、網目が広い部分と狭い部分に分かれている。この構造は人の走る動作に合わせてつくられた。人は走る際、かかとの外側から接地し、中足部に体重を乗せて、つま先の内側で蹴り出す。
「着地するかかとの外側は網目を広くし、衝撃の吸収をしやすくしています。逆につま先の内側は網目を小さくすることで反発力を高める形状になっています」

 荒川さんの話を聞きながら、アウトソールを眺めていると、あることに気がついた。まるで月面のクレーターのごとく、凹凸があるのだ。これまでのboostシリーズのアウトソールと比較しても、ultra boostのそれはデコボコしている。
「凹凸があることで、蹴り出す際に突起部分がブーストフォームを押し上げ、より素早い反発につなげられるんです」と荒川さんは理由を明かす。
(写真:今までのboostシリーズのソール(左)を比べると違いが一目瞭然)

 またソールの形状もつま先部分が反っていることがわかる。これもブーストフォームの卓越したクッション性を踏まえ、かかとからスムーズにつま先へ重心を移し、蹴り出しやすい角度が計算されている。

 足を包み込むプライムニットアッパー

 アッパーも大幅に改良された。ランナーの足は地面に接する際、体重がかかり、約1センチ横に膨張する。アッパーの締めつけが強いと、その分、足にストレスがかかる。これでは、いくらソールが衝撃吸収性や反発力に優れていても足への負担は増してしまう。

 今回、ultra boostのためにつくられた「プライムニットアッパー」は、軟らかいニット素材を独自の技術で編み込んでいる。これにより、アッパーは足を包み込むようにフィットし、かつ動きに応じて変化する。通気性にも優れ、履き心地は快適だ。

 しかも、アッパーを構成するパーツが極めて少ないのもultra boostの特徴になっている。中足部の靴ひもで止める部位以外は、いわゆるベロなども一体化されており、すべて「プライムニットアッパー」が足を覆う。荒川さんは「つま先部分はニットの編み方の密度を高めることで、しっかり足を固定させています。従来のboostシリーズでは特殊なストレッチ性の素材をペースに、ウレタン素材を要所にとりつけてフィッティング性を追求していましたが、違う素材が組み合わさると、どうしてもストレスを感じてしまう。その点は今回のアッパーで解消されたと思っています」と胸を張る。

 ultra boostの開発に際しては、NASAやボーイング社などがスペースシャトルや航空機、自動車の製造テストにあたって使う「ARAMISシステム」で得られたデータを踏まえている。たとえば、走る動作において、足のどの部分に負荷がかかっているか。こういった項目を細かくリサーチし、シューズづくりに生かしたのだ。

 その成果が現れているのが、ヒールカウンターの構造である。
「従来のヒールカウンターはすべてかかと部分を覆うかたちになっていました。これが測定の結果、走る際にアキレス腱に負担をかけていることがわかりました」
(写真:ultra boostのヒールカウンター(左)。アキレス腱に合わせて、わずかにカーブしている)

 荒川さんの言うヒール部分を見てみると、アキレス腱のあたる箇所のみ、Uの字に硬い素材がえぐれ、軟らかいニット素材が用いられている。蹴り出す際、アキレス腱の伸びが妨げられない。

 3泊4日で無料貸し出しも

 こうして走りやすさを極限まで追い求めたultra boostは市民ランナーのレース用、トップアスリートのトレーニング用と幅広く使える一足だ。その評判は早くもランナーを中心に知れ渡っており、1月28日にadidasオンラインショップを通じて24時間限定で先行発売されると予定数量が一気に完売となった。「ブーストフォームの良さを最大限引き出すために考え出された形状が、デザイン的にも斬新でスタイリッシュとの評価を得ています。単にランニング目的のみならず、ファッションの観点からも注目を集めているようです」と荒川さんは予想を超える反響に手応えを感じている。

「まずはブーストフォームの素晴らしさを実感してほしい」と、adidasではultra boostや、箱根駅伝で青山学院大の総合優勝を支えた「adizero takumi sen boost」などのboostシリーズを無料でレンタルし、試し履きができる「BOOST@home」というサービスを始めた。オンラインで手続きをすると最大2足までシューズが届き、3泊4日で使用した後、返却するシステムだ。送料も一切かからない。5月10日までの限定サービスとなっており、関心のある方は活用してみるのもいいだろう。
(写真:荒川さんも実際に履いており、「歩きから感覚が違う」という)

「現時点での最高のテクノロジーを注ぎ込んだベストの一足です。ひとりでも多くの人に、このブーストフォームを体験していただきたいですね」
 百聞は一見に如かず、ならぬ百読は一履に如かず。どれだけ軽く感じるかは、実際に履いてみなくてはわからない。ultra boostが世界の足元に新風を吹かせようとしている。

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