二宮: 2杯目は「那由多(なゆた)の刻(とき)」のロック。いかがでしょう?
弘山: サラッとして飲みやすいです。私は辛口が好きですが、これもとてもおいしい。焼酎は酔いざめがスッキリするからいいですよね。

二宮: 現役時代、レース前日にお酒を飲むことはありましたか。
弘山: 出場する大会にもよりますが、グラスに少しだけ注いで、いただいていましたね。

二宮: ちなみに今までで一番おいしかったお酒は?
弘山: どれもおいしいです(笑)。2006年に全日本実業団対抗女子駅伝で初優勝した時は特においしかったですね。優勝カップにお酒を注いで、皆で回し飲みしました(笑)。

二宮: それは豪快なエピソードですね(笑)。ご主人の勉さんとは毎晩晩酌を?
弘山: 最近は時間が合わないこともあるので、頻繁にはできないですね。普段は寝る前にお湯割りを飲むことが多いです。

 初マラソンで学んだこと

二宮: 10年前の東京マラソンを最後に第一線から退きました。これだけ長く現役を続けていたのは、オリンピックでマラソンに挑戦したいという思いがあったのでしょうか。
弘山: もしシドニーオリンピックでマラソンの代表に選ばれていたら、あそこで辞めていたと思うんですよ。でも行けなかった。それ以降、国内のマラソンで優勝したい、世界の大会でも結果を出したいという思いがあったのでズルズル続けていましたね。気が付いたら40歳になっていました(笑)。

二宮: 40歳までトップランナーとして現役を続けていた方は、なかなかいません。弘山さんには、大きなケガをしたという印象がない。無事是名馬ということでしょうね。
弘山: 私は疲労骨折もしたことがなかったんです。痛いと思ったら、すぐ練習はストップしていました。

二宮: やはりコーチであるご主人との阿吽の呼吸もあったのでしょう。
弘山: そうですね。何でも言いやすかったのは、大きかったですね。主人とマンツーマンでやっている時間が長かったので足が痛くなれば、すぐに言いました。我慢して1カ月休むことになるよりも、早めに2、3日の休養をとって、練習に復帰する方が効率がいい。あまり痛みを我慢することはなかったですね。

二宮: それは無理をして失敗した経験があったと?
弘山: はい。最初に走った名古屋国際女子マラソン(1991年)前の練習中にふくらはぎを痛めてしまったことがありました。それでもマラソンだからトレーニングを積まなきゃいけないと焦り、痛いまま続けていたんです。結局、ケガは治らない状態を引きずって、1カ月くらい休むことになってしまいました。それからは痛みが出たら早めに対処することにしましたね。普段から靴に自分専用の中敷きを入れてバランスを整えたり、できるだけケガをしないよう、練習以外のところでも注意するようになりました。

二宮: フルマラソンデビューでは、やはり“初マラソンの壁”がありましたか。
弘山: はい。初めてのマラソンは大学を卒業する時でした。前日にエネルギー源となる炭水化物を摂らなきゃいけないことを私は全然知らなくて、いつも通りの食事を食べていました。

二宮: カーボローディングなど、あまりスポーツ栄養学の知識はなかったと?
弘山: カーボローディングが広く認知されていない頃で、私自身も知りませんでした。案の定、30キロ過ぎあたりでエネルギーが切れてしまって、途中は歩きながらのレースでしたね。給水でオレンジジュースを飲んだりしましたが、ゴールした途端におなかがペコペコ。着替えるよりも先に食べていました(笑)。

二宮: よく30キロの壁、35キロの壁と言いますが、このあたりが一番のポイントになりますか。
弘山: レースにもよりますが、だいたい30キロを過ぎたあたりが、きついですね。ただ、シドニーの選考会を兼ねた2000年大阪国際女子マラソンで2位になった時は違いました。30キロを過ぎても、そんなに苦しくなかった。むしろ前半がきつくて、それを乗り越えると楽になっていきましたね。

 景色を楽しむ余裕が生まれた

二宮: 引退後もマラソン大会に参加していますが、現役時代とは、どの点が大きく変わりましたか。
弘山: 当然、目標設定も下がるので、練習の仕方が全然違いますね。今はタイムも3時間30分ぐらいかかります。大会に参加する時には一般の方と同じように着替えも預けて、トイレも一緒に並んでいます。その中にいても、あまり気付かれることがないんですよ。

二宮: 市民ランナーの指導もされていますが、これからもマラソンは走り続けていきたいと?
弘山: 時々は走りたいですね。今は健康維持のために1週間に2回程度、30〜40分しか走ってないんです。機会があれば、1年に1回はフルマラソンに挑戦したいなと思っています。

二宮: 現役の頃はレースに向けて、肉体的に追い込んだり、精神的にもプレッシャーがあったことでしょう。そういったものがなくなった今は気楽に走れているというわけですね。
弘山: でも、辞めたばかりの頃は、なかなか楽しく走ることができなかったんです。ゆっくり長く走るとか、景色を見ながら走ることができなかった。最近になって、やっと一般の方が“こういうことが楽しいんだ”という感覚がなんとなくわかってきた感じがします。

二宮: 景色を見る余裕も出てきたと?
弘山: 現役の頃は1分1秒を縮めたいと練習していましたからね。今は景色の他にも、音楽を聞いたりして楽しんでいます。

二宮: ちなみに、どんな音楽を聞くんですか?
弘山: 普通の曲だと、テンポが速かったり遅かったりするので、それに合わせて走ってしまう。テンポが速いと、どんどんスピードが上がって、長く走れない。最近はランニング用に一定のテンポが刻まれている曲があるんですよ。ゆっくり走るなら、ゆったりとしたテンポでずっと曲が流れるんです。

二宮: 音楽がペースメーカーになっているんですね。
弘山: はい。そのペースに合わせると、結構気持ちよく長く走れるんです。私は東大の深代千之先生が出しているCDを聞きながら走っています。

二宮: 既存の曲をテンポに合わせて編曲しているのでしょうか。
弘山: そうですね。だいたい1曲3分ぐらいになっていて、時間経過も教えてくれるんです。音楽を時計代わりに景色を見ながら、何も考えず走る。天気のいい日は“気持ちがいいな”と空気を感じながら走っています。

二宮: どのあたりの景色が気に入っていますか?
弘山: 今は千葉県に住んでいるので、天気がいい日は海沿いを走ったりします。今まで走った中で一番良かったのは奄美大島ですね。海沿いを走って、適度にアップダウンもある。ただ風が強い日は、全く進まないので最悪(苦笑)。それでもやっぱり奄美が一番好きですね。

 夢は文房具屋&おにぎり屋!?

二宮: 今後、やってみたいことはありますか。
弘山: 今は陸上教室などで子供たちを教えに行くことが多いのですが、究極の夢は文房具屋を開いてみたいんです。

二宮: へぇー。それは意外ですね。小さい頃からの憧れですか。
弘山:: いえ。ただ文具が好きなだけなんです。字を書くのは下手なんですが、大きな大会に出たりすると、記念に万年筆とかを集めていました。

二宮: 確かにマラソン大会などでは記念品として鉛筆やボールペンなどをもらえることがありますね。
弘山: 私は自分への記念に買うんです。たとえば日本記録を更新した時などは、名前を刻んでもらいました。特に気に入っているのは、金魚柄のセルロイドの万年筆です。今、持っている筆箱も92年の世界選手権で行ったドイツのシュツットガルトで買って、ずっと使っています。

二宮: オリンピック選手がやっている文房具屋なんて、そうはないはず。繁盛するんじゃないでしょうか。
弘山: 実は、夢はもうひとつあるんです。全然違う仕事だけど、おにぎり屋もやりたい。文房具屋に来た子どもたちに、おにぎりを振る舞ってあげたいんです。

二宮: おにぎりは気軽に食べられて、炭水化物なのでエネルギーにもなる。子どもたちにはもってこいのメニューでしょうね。
弘山: 現役時代、北海道に合宿へ行くと、いつも食事をいただくところのおばあちゃんが握るおにぎりが、すごく美味しかった。メインは麺類でも、おにぎりも何個か食べる。本当は美味しくて5個ぐらい食べたいのですが、いつも3個ぐらいで我慢していたほどです(笑)。ある日、どうやって握っているんだろうと思い、調理場を見に行くと、熱々のごはんに結構塩をつけるんですよ。塩をつけて、握って並べ、海苔を巻く。シンプルな手順でしたね。

二宮: 熱々で握ったおにぎりは本当においしいですよね。
弘山: その頃から、“将来、こんなおにぎりを握りたい”と思っていたんです。私は子供もいるので、「お母さんのおにぎりが美味しかった」と言ってもらいたい。それがつながって、多くの子供たちのためにおにぎり屋ができたらなと思いました。文房具屋とおにぎり屋。このふたつが究極の夢ですね。

二宮: 文房具屋の隣におにぎり屋。もし開店した際には、立ち寄りたいものです。現在、娘さんは4歳ということですが、今から鍛えて、将来はオリンピック選手に(笑)?
弘山: どうですかね(笑)。娘も走るのは好きみたいですが、まだ陸上をやるかもわかりませんよ。

二宮: 今回はお付き合いいただき、ありがとうございました。今度はご主人も交えて、また「那由多(なゆた)の刻(とき)」を1杯やりましょう。
弘山: ぜひ。またこうやっておいしいものをつまみながら、お酒をいただける機会を楽しみにしています。

(おわり)

弘山晴美(ひろやま・はるみ)
1968年9月10日、徳島県生まれ。鳴門高校から国士舘大学を経て、資生堂に入社。トラック競技では94年広島アジア大会の3000メートルで銀メダルを獲得するなど、オリンピックは96年アトランタ大会から3大会連続で出場する。トラック競技でのオリンピック3大会連続出場は日本人女子唯一で、1500、3000、5000メートルの3種目で日本記録を更新するなど“トラックの女王”と呼ばれた。マラソンでは02年釜山アジア大会で銀メダル。オリンピックへの出場こそ叶わなかったものの、05年の世界選手権ヘルシンキ大会では8位入賞を果たし、日本の団体銀メダルに貢献した。06年名古屋国際女子マラソンで初優勝し、09年東京マラソンを最後に第一線から退いた。資生堂ランニングクラブ・アスリートアドバイザーを4年間務め、現在は講演活動・市民マラソンでのゲスト出走のほか、幅広く活躍中。昨年10月より、夫・勉氏が代表を務めるEVOLUアスリートLabのメンバーとして、ランニング指導を行っている。


 今回、弘山晴美さんが楽しんだお酒は、長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。また、ソーダで割ると樫樽貯蔵ならではの華やかなバニラのような香りとまろやかなコクが楽しめます。国際的な品評会「モンドセレクション」2014年最高金賞(GRAND GOLD QUALITY AWARD)受賞。
提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
膳・菜・酒「塁」
「魚」と「野菜」をテーマとした新世代和食屋。宮城・気仙沼漁港や神奈川・三崎漁港など、直送で仕入れる魚は鮮度抜群! また秘伝のタレを使った「煮付け」も塁でしか味わえない逸品です。野菜も築地のほかに茨城の契約農家から取り寄せたりと「素材」にこだわっています。京都祇園で修業を積んだ料理長が手掛ける料理もまた必見です。個室も2〜50名様までと宴会はもちろん、大事な御接待にも対応できるようになっております。

東京都千代田区大手町1−7−2 東京サンケイビル地下2F
TEL:03-3276-2321
営業時間:
昼(月〜金) 11:00〜15:00(L.O.14:30)
夜(月〜金) 17:00〜23:00(L.O.22:00)
土・日・祝定休
>>店舗サイトはこちら

☆プレゼント☆
 弘山晴美さんの直筆サイン色紙を長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「弘山晴美さんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は3月12日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、弘山晴美さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:杉浦泰介、写真:石田洋之)


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