腰をくねらせながら前進する競歩は、見た目にはコミカルに映る。公園で練習していると、見知らぬジョガーに次々と抜き去られる。
「走って抜き返してやろうと思うこともありますよ」
 ソウル五輪男子20キロ競歩代表の酒井浩文が、かつて、そう語っていたことを、ふと思い出した。


 さる3月15日、世界選手権代表選考を兼ねた全日本競歩能美大会の男子20キロ競歩で、韓国・仁川アジア競技大会銀メダリスト鈴木雄介が、1時間16分36秒の世界新記録をマークして優勝した。

 陸上の日本人男子では半世紀ぶりの世界記録樹立。地味な競技に一躍、注目が集まった。

 石川県能美市は鈴木の出身地。北陸新幹線の開業に合わせるかのような慶事だった。
「自分でもびっくり。まさか世界記録までいけるとは思っていなかった」と鈴木。16年リオデジャネイロ五輪のメダル候補に名乗りを上げた。

 競歩におけるトップ選手のスピードは時速13キロから14キロ程度。1キロあたり約4分30秒。20キロ競歩では1キロを4分以内で歩く。

 鈴木が飛躍をとげたのは4年前に行なわれた韓国・大邱での世界選手権。前半から積極的にレースを進め、8位入賞を果たした。

 一方で課題も残った。
「15キロを過ぎたあたりで足が重くなり、歩型を保とうと粘っていた時に警告を出された。やっぱり(世界で戦うには)体力が必要だなと思いました」
 今回は、それを克服しての快挙だった。

 競歩は警告(レッドカード)を3回受けた時点で失格となる。ゴール後に失格が言い渡され、順位が入れ替わることも珍しくない。

 アフリカ勢に上位を独占されるマラソンと違い、競歩なら日本人でも五輪の表彰台を目指すことができる。粘り強く、ひとつのことにコツコツと打ち込む性分の日本人には向いている種目と言えるかもしれない。

<この原稿は2015年4月6日号『週刊大衆』に掲載されたものです>


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