打率3割、30本塁打、30盗塁――。
 日本プロ野球80年の歴史で、トリプルスリーと呼ばれる記録を成し遂げた選手は、たった8人しかいない。
 今季、9人目の達成を目指し、シーズンに臨んでいる若武者がいる。東京ヤクルトの山田哲人選手だ。昨季は日本人右打者のシーズン最多記録を64年ぶりに塗り替える193安打をマーク。29本塁打、15盗塁を記録した。走攻守でさらなる進化を図る22歳のプレーを支えるのが、adidasのアイテムである。山田選手と、担当するadidas Japanの鈴木章弘さん(スポーツマーケティング ジュニアマネージャー)に、二宮清純が、それぞれの道具の秘密を訊いた。

 プロ2年目からバットの型は同じ

二宮: まずは昨季193安打を放ったバットから。重さは910gで、かつてヤクルトにいた青木宣親選手(現サンフランシスコ・ジャイアンツ)が使っていたモデルだそうですね。
山田: 型は同じものです。プロ2年目から使っています。振ってみて一番、自分にしっくりきました。直感で、これだと感じたので、それから基本的に型は変えていないんです。

二宮: いろいろバットの形がありますが、合わないなと思うのは?
山田: 僕はタイカップ型のグリップエンドが太くなっていくものはしっくりこないですね。グリップエンドは細くもなく、太くもなく普通がいいです。同じ型でも握ってみて太さがちょっと違うと感じたら、練習用に回します。

二宮: 昨季は日本人ではリーグトップの29本塁打を打っています。長距離ヒッターだとバットの芯は先の方にありますが、山田さんは?
山田: 僕の場合は先ではなく、手元に近い位置にありますね。だから、このバットはアベレージヒッター用だと思います。

二宮: 長いシーズン、疲れが溜まる夏場になるとバットの重さを変えたり、先端をくり抜く選手もいます。そういった工夫は?
山田: 重さや形状は変えないですね。昨季は夏場も同じバットを使っていました。

二宮: ちなみに年間で、どのくらいバットを使うのでしょうか。
鈴木: 約4ダース(48本)です。山田選手は技術が高いので、あまりバットを折らないのが特徴ですね。
山田: 使っていて古くなってきたので替えるケースが多いですね。僕の感覚で強い打球が飛ばなくなってきた頃が新品への替え時。3週間くらいが交換の目安ですね。

二宮: 材質はメープルです。これは山田さんのリクエスト?
山田: そうです。1年目は他の材質のバットを使っていたのですが、あまりしっくりこなかった。今のバットは素材も形状も満足しています。
鈴木: 山田選手のバットはメープルでも硬めの材質を使用しています。より反発力を使って打球を飛ばせる素材です。

 こだわりはフィット感とデザイン

二宮: バットの良さを生かすには、バッティンググラブも重要です。
山田: とにかく滑らず、破れないものが第一ですね。僕はデザインも重視しているので、今年の新しいモデルはかっこいいので満足しています。

鈴木: サイズに関しては自主トレの際に使ってもらって、ちょっと指先が余るという要望がありました。少し指先部分を縮めて改良し、フィット感を高めています。
山田: キャンプ中に修正してもらって、余りもせず、きつくもなく、一番ピッタリくる形になりました。

二宮: 通気性もあって、夏場でも手が蒸れることはなさそうですね。
山田: そこも重視しました。今年は1年間、これで行くつもりです。
鈴木: このバッティンググラブは山田モデルとして市販されていて、今、野球少年たちにも人気なんです。

二宮: バッティンググラブは頻繁に替える選手と、そうでもない選手がいますね。
山田: 僕はそこまで替えるタイプではないでしょうね。
鈴木: 年間で約40双ほど用意していて、それで少し余るくらいですね。

二宮: バッティンググラブともに、赤が目立つのがリストバンドですね。
山田: 赤は好きな色なんです。最近のリストバンドは薄いものもありますが、僕は分厚いのが好みですね。分厚い方が汗をしっかり吸収してくれる。ボールが当たった時の保護にもなります。

 グラブは親指と小指を重視

二宮: 続いてはグラブ。今季はセカンドの守備の向上もテーマに掲げています。山田さんなりのこだわりは?
山田: 僕のグラブは親指の部分が動かないように硬めですね。親指を固定して、他の4本でボールを握るかたちになっています。これが今のところ一番捕りやすい。

二宮: バット同様、プロ入り時から型は一緒なのでしょうか。
山田: グラブは正直、プロに入った頃は興味がなかったので(苦笑)、捕りやすければ何でも良かったんです。だけど、守りの重要性に気づいて、コーチからアドバイスをもらったり、練習するうちに、徐々に自分の型ができてきた感じですね。

二宮: グラブは同じ型でも最初は硬かったりして、自分の手に合うまでなじませる時間が必要だと聞きます。試合に使うグラブをつくるにはどのくらいかかりますか。
山田: じっくり、つくろうとしたら1カ月くらいかかりますね。でも、今はすぐに機械でスチームをかけて軟らかくしてくれるので、練習で1、2回試して、すぐに試合で使うこともあります。

二宮: グラブづくりに関して他に要望事項は?
鈴木: 山田選手は親指とともに小指の部分は大事していますね。親指は硬めですが、逆に小指の部分は動きやすく、ここから打球をしっかり捕れるような形状になっています。

二宮: 試合ではいくつグラブを用意していますか。
山田: 僕は3つですね。
鈴木: 基本的に同じ型ですが、それぞれ、革の硬さが違ったり、薬指の部分がより動かしやすい形状にしてあったり、微妙に異なっています。

二宮: 球場によって天然芝、人工芝、土とグラウンドの状態も異なりますから、グラブを使い分けるのでしょうか。
山田: いや。僕はどの球場でも、同じ型を使っています。ボールをしっかり握って処理したいタイプなので、それを一番に考えて、同じグラブにしています。

二宮: セカンドのグラブだと、すぐに送球に移れるよう、あまりポケットが深くないものもあります。山田さんのグラブはオーソドックスですね。
山田: 確かに深すぎるとボールが出てこないのですが、まずは確実に捕ることが大事。だから、当て捕りするような浅いものではなく、中間あたりにしてもらっています。

二宮: 材質は牛革ですね。重さはどうでしょうか。
山田: 僕は軽いグラブは好きではありません。手が多少重みを感じている方がプレーしやすい。グラブに関しては、僕もまだまだ守りはレベルアップしないといけない立場なので、それに合わせて自分に一番合った型は変わっていくかもしれません。

 かかとの歯を減らした新スパイク

二宮: 打撃も守備も足元の安定が肝心です。昨季の好成績はスパイクの高い機能性による部分も大きかったのではないでしょうか。
山田: adidasはもともとシューズの会社なので、足のことに関しては一番優れている。僕があれこれ言わなくても、足型をとってもらって、自分に合ったサイズ、形状のものを用意してもらえるので助かっています。しかも、めちゃくちゃ軽い。フィット感があって、どんなプレーをしても足がずれないのがありがたいですね。

二宮: 今季は盗塁数のアップも目標です。スパイクも新しいモデルを採用したとか。
山田: かかと部分の金歯が3本(写真右)から2本(写真左=実際に試合で使用)に減らしました。このほうが僕には走りやすくて合っていると感じます。
鈴木: 2本の方が着地時に金歯から受ける衝撃が小さくなり、負担が軽くなる。その分、前への推進力を生み出しやすい仕様になっていますね。

二宮: 盗塁は1歩目のスタートが重要と言われます。それも考慮したつくりになっていると?
鈴木: 新しいモデルは、昨季のものと比較すると金歯の向きや形状も変わっています。金歯をよく見ていただくと、昨季は波型だったのが、今季はV字に近くなっています。より地面をつかんで力が逃げない形になっていますね。かつ、それぞれの金歯はadidasの「トルションシステム」で繋がって連動しているので、かかとで着地した力をつま先へと伝えてくれます。

二宮: スパイクは1年で何足くらい替えますか。
鈴木: キャンプからだと、約10足ですね。天然芝や人工芝、土のグラウンドとあらゆる球場でプレーするので、アッパーの材質も耐久性の強いものを使用しています。

二宮: 走塁で目立とうとすると、この赤の交じった走塁用グラブも、より出番が増えるでしょうね。
山田: スライディングでケガをすると良くないので手をしっかり保護してくれるものを頼んでいます。これは、どんなにスライディングしても破れない。デザインも斬新。僕は結構、見た目を大切にするんで(笑)、adidasはデザインの良さが気に入っています。

二宮: 新しいアイテムを身につけ、山田さんは15試合を終えて、打率.298、2本塁打、3盗塁とまずまずの出だしです。
山田: う〜ん、僕の中ではまだしっくりきていない部分もあるので、これから修正して調子を上げていきたいですね。

二宮: 打順も開幕は1番でしたが、3番を任された時期もありました。3番に関しては「いずれ打ちたい」と話していましたから、早くも実現しましたね。
山田: でも、実際に3番を打ってみると3番の難しさがあります。得点圏で回ってくるのでやりがいがあると同時に責任もある。正直、1番に戻りたかった(笑)。やっぱり、僕には1番の方があっているのかもしれません。

二宮: まだ始まったばかりとはいえ、今季のヤクルトは投手陣が好調です。これで打線が爆発すれば、一気に上位を狙えるのではないでしょうか。
山田: 接戦をモノにしていて「昔の強かった頃の勝ち方をしている」と周りから言われます。僕は、その時期を知らないのですが、競り勝つことでチームは強くなっていくと思います。チームとしてはいいスタートが切れたので、1試合1試合勝てる試合を勝っていきたいですね。

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山田哲人(やまだ・てつと)
1992年7月16日、兵庫県生まれ。小学2年から野球を始め、大阪・履正社高では2年からレギュラーとなり、3年夏の甲子園に出場。チームは3回戦敗退もホームランを放つ。11年にドラフト1位指名で東京ヤクルトに入団。1年目はレギュラーシーズンでの1軍出場はなかったものの、クライマックスシリーズでスタメンに抜擢される。3年目(13年)のシーズン途中からセカンドのポジションに定着。昨季はセカンドのレギュラーとなり、オールスターゲームにも初出場。8月の月間MVPを獲得する。シーズン通じて日本人右打者史上最多となる193安打を放ち、最多安打、ベストナインに輝く。昨秋の日米野球、今春の欧州代表戦では侍ジャパンのメンバーに選ばれた。身長180センチ、76キロ。背番号23。

(構成・写真/石田洋之)


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