この1カ月、大きな話題となったのはカズのJリーグ最年長ゴールでした。それも1点だけでなく、2週間後に自らの記録を更新する得点を決めたのだから、素晴らしいの一語です。サッカーに人一倍の情熱を持ち、48歳まで取り組んできた、ご褒美でしょう。
 今回の2得点はいずれも彼には珍しいヘディングシュートでした。カズは体格が大きくなく、跳躍力も若い選手と比較すれば落ちるはず。それでもゴールを決められたのはなぜか。得点への嗅覚、ボールの予測、巧みなポジショニング……これまで培ってきた経験の為せる業と言えるでしょう。

 いずれの得点もカズはトップスピードで頭を合わせているわけではありません。しかし、ボールと相手DFの位置を最後まで見て、冷静にフリーになるポジションに動き出しています。DFはゴール方向に下がりながら守るのが一番難しい動きです。それを見越して相手DFの死角に入る。これは僕が現役時代に対戦した時と変わっていません。

 カズはブラジル仕込みの独特のステップやリズムを持っているものの、スピードがものすごく速いわけではありません。仕掛けのタイミングもオーソドックスです。しかし、実際に対戦してみると、ものすごくイヤなストライカーでした。うまく間合いをとって注意深く動きを見ていないと、要所で決定的な仕事をされるのです。

 Jリーグ1年目、国立競技場のヴェルディ川崎戦で股の間を抜かれたゴールは一生忘れることができません。こちらとしてはうまく体を寄せ、絶対に抑えられるという手応えがあったにもかかわらず、やられてしまいました。カズがいると、なぜか、いいボールが入り、シュートが決まってしまう。今、考えると、それだけカズの方がよくサッカーを知っていたということでしょう。

 代表で一緒にやった時も、最終ラインから攻撃の起点としてフィードボールを送る際に、彼の動きは常に確認していました。味方としては、うまくフリーになる方向、タイミングに動き出してくれるため、非常にコンビネーションを構築しやかったことを思えています。

 何より、チームメイトになってみて驚いたのは、彼のサッカー愛です。練習も一番に来て、終わるのも一番最後。ロッカーでサッカーを語り出すと、いつまでも話が尽きない。頭の中は100%、サッカーでいっぱいなのではないかと思うほどでした。

 2ゴール目を決めた次の試合では、右太ももを痛めて途中交代となりましたが、本人なりに無理をしてもプラスにならないとの判断が働いたのでしょう。プロは体が頑丈なことも大切ですが、プレーしている以上、どうしてもケガは避けられません。故障が重くならないよう、早い段階でストップをかけ、チームへの迷惑を最小限に食い止めることもプロとして求められる資質です。

 2試合連続ゴールを、という周囲の期待が高まる中、冷静に自身の状態を見極め、ピッチから退いたカズは、プロの姿勢を体現していると言えるでしょう。早くケガを治し、ピッチの上で、またベテランならではのゴールを見たいものです。

 カズがこれだけ長くやれているのはFWというポジションであることも大きいと思います。DFであれば、リアクションの速さやスピード、体力が必要ですから、年齢を重ねると、どうしても難しい部分が出てきます。翻ってストライカーは一瞬の勝負でゴールをあげれば、仕事をしたことになります。そういったポジション特性を差し引いても、48歳まで現役を続けるのは並大抵の話ではありません。

 カズは、まさに日本サッカー界のレジェンドです。本人には人には見せない努力、言えない苦労が、きっとあるでしょう。しかし、ともに同時代を戦ったひとりとして、これからも全サッカー選手のお手本として、やれるところまでピッチに立ち続けてほしいと願っています。


●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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