連覇を目指すなでしこジャパンの戦いがいよいよ始まります。24日のニュージーランド戦、28日のイタリア戦はともに1−0の勝利。守備が課題と言われていた中、2試合連続で無失点で抑えたことは本番への収穫です。
 この2試合、佐々木則夫監督はゴールキーパーを途中交代で3人使ったり、大会に向けて試行錯誤をみせていました。しかし、唯一変えなかったのが、岩清水梓、熊谷紗希のセンターバックコンビです。

 もちろん、本番へのテストとしてセンターバックの組み合わせをいくつか試す手もあったでしょう。しかし、佐々木監督はそうしませんでした。これは今回のセンターバックは、この組み合わせで行くという強いメッセージでしょう。

 センターバックは守備の要。ここが安定することが負けないためには重要です。指揮官の絶対的な信頼、期待に、2人が無失点で応え、自信を持ってカナダに乗りこめるでしょう。

 攻撃面ではイタリア戦でみせたDF鮫島彩の左サイドハーフ起用は、ひとつのオプションとしておもしろそうです。ポゼッションやパス回しは成熟度の度合いを高めつつあるだけに、あとはいかに局面が膠着した時に打開し、スイッチをいれるか。そのアクセントとなるではないでしょうか。

 そして、2試合を観ていて、何といってもMF澤穂希の存在感の大きさを感じました。思い出したのは、鹿島時代のジーコです。ピッチ上のジーコの背番号10を見るだけで、僕たちは安心感がありました。おそらく、なでしこの選手たちにとっては澤が、あの時のジーコと同じ感覚なのではないでしょうか。

 特にキャプテンのMF宮間あやが、この2試合はいきいきしているように映りました。澤不在時は「私がチームを引っ張らねば」と、険しかった表情が少しやわらかくなった印象を受けます。

 試合での動きを見ていても、体力面もフル出場は問題なさそうです。たとえ、控えに回っても、「澤さんの分も」とチームはひとつになるでしょう。背中でチームに安心感を与えられる澤のような存在は厳しい戦いが続くW杯において不可欠です。

 もちろん、澤の力だけでは連覇という偉業は達成できません。今回はどのチームも日本に対するスカウティングを徹底して、試合に臨んでくるでしょう。なでしこの特徴である組織的な戦いだけでは、相手の包囲網に引っかかってしまいます。

 カギを握るのは澤や宮間といった主力以外の“個”の力ではないでしょうか。マークが厳しくなる澤をおとりにしたり、宮間がワンタッチでボールを出せるように周りの選手がいかに動くか。今までのなでしことは違った姿を見せることが大切です。それが連覇を狙う上でも、将来のなでしこにもプラスになるとみています。

 昨今のなでしこの活躍に触発され、僕が支配人を務める鹿島ハイツにも女子のチームがたくさんやってくるようになりました。彼女たちはサッカーがうまく、組織的な動きも忠実にこなせます。しかし、ひとりで流れを変えられるような強烈な個性の持ち主があまりいません。これは指導者にも問題があるのでしょう。目の前の結果にこだわるあまり、選手の欠点を指摘しがちで、長所を伸ばす方向づけができていないように見えます。

 今回の2試合でも、なでしこの“個”の弱さを感じる点がありました。攻撃でフリーの状態にかかわらず、シュートが枠をとらえきれない。守備で、どんどん相手ボールにアプローチしても、ボールを奪いきれない……。こういった能力をひとりひとりが磨くと、もう一回り強いなでしこが見られるはずです。

 前回の優勝は、世界に大きな驚きを与えました。今回もチャンピオンチームとして胸を張って世界と戦い、勝ち抜いてほしいと願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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