2015年1月25日、東京・後楽園ホール。環太平洋ライト級王座決定戦。中村ジュニアは39歳の宇野薫とベルトをかけて激突した。
「宇野選手の試合はよく観ていました。逆転勝ちも多くて、試合を観ていると興奮する。ファンだったので、まさか実際に戦うとは思いませんでしたね」
 中村にとって宇野は格闘技を志した頃から憧れの存在だった。172センチと決して大きくはない体でUFC、HERO'S、DREAMで活躍していた。40歳を目前にしても6連勝中と好調で、下馬評では宇野優位とみられていた。

「僕が格闘技をやる前からトップで引っ張っていた人。その人に勝って格闘技界を盛り上げたいと思っていました」
 ベルトをつかみ取り、格闘技界の世代交代を――。強い決意の下に中村はリングに上がった。

 宇野戦に向け、ジムも全力で中村をサポートした。師匠の桜井“マッハ”速人にとって、奇しくも宇野はデビュー戦で一本勝ちした相手でもある。対策を伝授し、スパーリングパートナーの中村トッシーも相手の動きを徹底してマネて動き、いかに戦うかを叩きこんだ。

 5分3R、決戦のゴングが鳴った。戦前の予想を覆し、持ち味を発揮したのは中村だった。パンチから素早く懐に飛び込むと、タックルで宇野を浴びせ倒す。1Rだけで、実に4度もテイクダウンを奪った。

「練習ではなかなかテイクダウンが決まらなかったのに、こんなに簡単に倒せるとは思いませんでした」
 予想以上の手応えをつかんだ中村は、試合の主導権を握る。2Rはバックを奪われるなど、宇野に盛り返されたが、3Rにはパンチの連打を浴びせた。

「初のタイトルマッチで最初から飛ばしていったので、疲れていないつもりでも、途中は体が重かった(笑)」と本人は振り返るが、3Rにはパンチで宇野の左まぶたを切り裂くなど、試合の流れは常に25歳の若武者にあった。

 最後もラッシュでベテランを追いつめて試合終了。注目の判定は3−0。文句なしのジャッジで新王者に輝いた。
「勝った瞬間はうれしかったですけど、数日すると、チャンピオンとしてもっと頑張らないといけないなという気持ちになりました」
 高い嶺に立つと、さらに上の頂が見えてくる。中村は王者になっても浮かれることはなかった。

 5月3日の斎藤裕との初防衛戦に敗れ、再びチャレンジする立場になった中村は、次なるリングを見据え、汗を流している。
「もう1回やって、こんなもんじゃないところを見せたい」
 中村は再戦を望んでいる。

 修斗のライト級は現在、世界王座が空位だ。勝った斎藤も中村については「強くても思うようにいかなかった。世界のベルトをかけて、もう1度戦いたい」と試合後に語っている。近い将来、再び両者が激突する可能性は高そうだ。

 師匠の桜井は、愛弟子の姿をUFCフライ級で6度の防衛を重ねているDJことデメトリアス・ジョンソン(米国)に重ね合わせ、期待を寄せる。
「彼も160センチと小さいけど、スタミナがあって、極め力も強い。打撃もできる。そういうファイターになってほしいですね」

 超人的な体格やパワーを持った人間が派手にリングを沸かせるのもいいが、小粒でもピリリと辛い山椒のような選手も格闘技界を盛り上げる上では必要だ。世界王者、そして世界進出。世界に刺激を与える161センチの挑戦は、これからが本番である。

(おわり)
>>第1回はこちらから
>>第2回はこちらから
>>第3回はこちらから

中村ジュニア(なかむら・じゅにあ)プロフィール>
1988年6月29日、愛媛県宇和島市生まれ。本名・中村好史。小中高と柔道に取り組む。格闘技に憧れ、宇和島東高時代にはレスリングも学び、卒業後に上京。桜井“マッハ”速人が主宰するマッハ道場に入門する。09年の全日本アマチュア修斗選手権ではライト級優勝。10年2月にプロデビューを果たす。11年12月には新人王決定トーナメントを制した。15年1月には環太平洋ライト級王座決定戦に臨み、宇野薫を下して第6代王者に。修斗でのプロ戦績は16戦9勝(1S)6敗1分。身長161センチ。




(文・写真:石田洋之)


◎バックナンバーはこちらから