交流戦は予想通り、パ・リーグの強さが際立つ形になりました。パが勝てる理由はいろいろありますが、一番大きいのはDH制でしょう。パのチームがDH制を踏まえて打てるバッターをそろえているのに対し、セは控えの選手を起用せざるを得ません。これだけでも攻撃力は大きく違ってきます。また、投手陣もパの方がDH制で1番から9番まで息の抜けない状態で投げている分、裏ローテのピッチャーでも差を感じました。
 特に交流戦で大きくつまづいてしまったのは横浜DeNAです。前回、「慣れないパ・リーグ相手に得点力が落ちる可能性がある中、逆転勝ちに持ち込めず、黒星が増えていく危険も考えられます」と書いた不安が的中してしまいました。点が取れないと、もともとの弱点だった守備力の脆さが露呈し、逆に終盤に試合をひっくり返されるパターンが目立ってしまいました。

 ただ、幸い巨人も含めた他球団も振るわず、12連敗を喫しても上位との差はほとんどありません。4月に7連敗してから盛り返したように、きっかけをつかめば再浮上もあるでしょう。

 流れを変えるには、ピッチャーではベテランの三浦大輔や久保康友、バッターでは4番の筒香嘉智の働きが不可欠です。連敗を止めた23日の巨人戦で久保が勝ち投手になり、筒香がトドメの一発を放ったのは象徴的でしょう。先発が試合をつくり、筒香が打って、抑えの山崎康晃につなぐ勝ちパターンを増やせるかどうか。これがDeNAの今後を左右します。

 セ・リーグは一時、貯金を持ったチームがなくなるほどの大混戦です。どのチームも決め手がなく、この状態はオールスター前後まで続くのではないでしょうか。その中で、もし抜け出すチームがあるとすればどこか。僕は阪神だとみています。

 阪神は良くも悪くも外国人頼みのチーム。マット・マートン、マウロ・ゴメスが打たないと得点力は上がりません。ここにきてマートンにも一発が出て、2人の調子が上がり始め、鳥谷敬も復調気配です。ベテランの福留孝介もいいところで仕事をし、打線が機能し始めています。

 マートン、ゴメスが打ち始めたのは、BCリーグ石川から入団した新外国人ネルソン・ペレスの影響もあるでしょう。ペレスは2人ほどとは言えないまでも長打力があり、バッティングはいいものを持っています。肩も強く守備の不安はありません。2軍でも結果を残しており、いい刺激になっていることは間違いありません。

 加えて交流戦明けに連勝した東京ヤクルト戦あたりから、ベンチの仕掛けが早くなっています。早いタイミングでの代打など、何とか点を取ろうという意図がはっきりし始めました。昨季、クライマックスシリーズを突破し、日本シリーズに進出できたのは、和田豊監督の積極采配が功を奏したから。阪神は先発陣はランディ・メッセンジャー、藤浪晋太郎、岩田稔、能見篤史と4本柱が安定しています。指揮官の手腕で打線に火をつけられれば、貯金を増やせるはずです。

 最下位の広島もブラッド・エルドレッドが復帰し、ネイト・シアーホルツにも当たりが出始め、上位進出の可能性が見えてきました。今後、カギを握るのは、抑えと6番バッターです。

 抑えは現状、中崎翔太が務めていますが、個人的にはクローザータイプではないと感じています。ボールのスピードはあるものの、ここぞという場面での制球力に欠け、1球が命取りになる抑えには不向きです。僕ならリリーフに転向させた大瀬良大地を抑えにします。彼の方が大事な場面でのコントロールミスは少ないでしょう。

 また6番バッターには、以前も書いたように丸佳浩を推します。現在、丸はトップバッターですが、1番には田中広輔など他にも代わりを務められる選手がいます。しかし、クリーンアップで塁上に残ったランナーを還せる役割ができるのは、長打と確実性を兼ね備えた丸しかいません。

 開幕前、台風の目と位置づけていたヤクルトは、いよいよ館山昌平が復帰間近です。2年連続でトミージョン手術を受け、この2年間は投げたくても投げられず、言葉にできない苦労を重ねてきたはずです。そこから這い上がり、どんなピッチングを見せてくれるのか。個人的には苦労が報われ、チームの救世主となることを願っています。

 ヤクルトは4番の畠山和洋が、どこまで打ち続けられるかもポイントとなります。ここまでは18本塁打、52打点でリーグ2冠。今季は外での誘い球をしっかり我慢できています。これだけ打てば、相手もインサイドを突いてくるはず。ピッチャーが勇気を持って懐を攻められるか、それを畠山がどう対処するかが注目です。

 パ・リーグは福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、埼玉西武の優勝争いと言っていいでしょう。ソフトバンクは投打のバランスが優れ、しっかりした野球ができています。見逃せないのは、個々の選手の意識の高さです。出塁すると、ほとんどのランナーがアンツーカー部分を越えてリードを大きくとっています。これが次の塁にいち早く到達し、得点力向上につながっています。

 このソフトバンクを追いかける1番手はどこでしょう。僕は西武をあげます。西武の良さは強力打線です。特に1番の秋山翔吾がここまで打つとは誰も予想しなかったでしょう。最低1日1本はヒットを打って塁に出てくれますから、こんなにありがたいトップバッターはいません。

 相手ピッチャーからすれば、西武は一発のある4番の中村剛也、5番のエルネスト・メヒアを警戒しなくてはいけないのに、秋山が1番で出塁することで、走者を背負って彼らと対戦する確率が高くなります。現場からも「秋山の1番はイヤらしい」という声が聞こえてくるのもうなずけますね。

 しかも、斉藤彰吾、渡辺直人ら控えメンバーの活躍も見落とせません。戦力に厚みが生まれ、ソフトバンクに十分対抗できる力をつけています。2位の日本ハムがやや勢いを失いつつある中、西武がソフトバンクの独走に待ったをかけられるか。パ・リーグの見どころはここでしょう。

 いずれにしても、ペナントレースはここからが本当の戦いです。ファンがワクワクするような熱い夏になることを望んでいます。


佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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