なでしこジャパンが連覇へベスト4まで進出しました。一戦ごとにチームとしてのまとまりができ、状態は上がっているとみています。決勝トーナメントに入ってのなでしこはコンセプトがはっきりしていますね。攻撃ではワンタッチ、ツータッチでパスサッカーを展開する。守備では止めるところをしっかり止める。トーナメントは負けたら終わりの勝負です。それが一層、はっきりしたプレーにつながっているのではないでしょうか。
 なでしこの成熟度が増していると感じるのは、攻撃のバリエーションが豊富なことです。たとえばサイドバックの有吉佐織はゴール前に上がって、1回戦のオランダ戦ではゴールを決めたり、オーバーラップでチャンスを演出しています。

 また、準々決勝のオーストラリア戦ではMF宮間あやが相手のDFラインが下がったところで、ミドルシュートを放つなど、機を見てゴールを狙う姿勢が浸透していますね。これはひとりひとりの意識が高く、チーム全体でアグレッシブな姿勢を貫いているからこそできることでしょう。

 準決勝のイングランド、そして決勝で対戦する米国、ドイツは、どこも強敵です。なでしこの戦い方は研究しているでしょうから、優勝への道のりは容易ではありません。カギを握るのは守備でしょう。ここまで、なでしこはすべて先制点をあげて勝っているように、まずは点を与えないことが重要です。

 決勝トーナメントに入ってから、なでしこはパス回しがスムーズにいくようになった半面、そのパスを奪われてピンチを招くシーンもありました。不用意にボールを失うと、ここからは命取りです。カウンターで攻め込まれると、体格差やスピードでなでしこは苦しい展開を余儀なくされるでしょう。

 まずは安易なミスをしないこと、そして、万が一のリスクマネジメントをしっかりすること。選手同士が互いにサポートして、スキを見せないことが大切です。決勝トーナメントからスタメンが固定され、メンバー間の連係は高まってきているはずです。安定した守りから多彩な攻撃で強豪を撃破し、再び頂点に立つことを願っています。

 一方、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる男子代表はW杯予選初戦のシンガポール戦を、まさかのスコアレスドローで終えてしまいました。日本が放ったシュートは23本。その中にはバーを叩く不運なものもあれば、相手GKのファインセーブに阻まれたものもありました。

 サッカーでは格上の相手が一方的に攻めても点が入らないことは、得てして起こるものです。確かにシンガポールの守備は粘り強く、頑張っていました。それでも勝てない相手ではなかったと感じます。やはり、日本の長年の課題である決定力不足が露呈したと、とらえるべきでしょう。

 日本の攻撃を見ていて気になったのは、引き出しの少なさです。ハリルジャパンでは縦に速い攻撃を志向しているのはわかりますが、もう少し、同じ縦でもポストプレーをみせたり、アクセントをつけてほしいと感じました。ミドルシュートで相手DFを揺さぶるシーンも、もっとあって良かったはずです。

 そこへサイドチェンジや、ドリブル突破を絡め、相手の守りを崩し、対応しきれない状況に追い込む……。攻撃パターンを工夫すれば、どこかでゴールを割るシーンをつくれたように思います。

 今後の予選も日本は格上で臨む試合が続きます。当然、シンガポール戦を踏まえ、相手はより守りに重点を置いてくるでしょう。代表チームはチームづくりの時間が限られています。この反省を糧にコミュニケーションをとり、バリエーションを増やす試みに力を入れてほしいものです。

 スピードやパワーは違うとはいえ、男子がなでしこに学ぶ点は少なくないでしょう。点を獲って勝たない限り、予選突破はできません。次の戦いは9月のカンボジア戦とアフガニスタン戦。ハリルホジッチ監督や選手たちがシンガポール戦での教訓をどう生かすかを注目したいと思います。


●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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