2015年のMLBもオールスターブレイクを終え、後半戦が始まった。今季は多くのチームがプレーオフ進出の可能性を残しており、今後も激しいペナントレースが続きそう。そして、ここまでの戦いの中で、25歳以下のスター候補が数多く躍動するフレッシュなシーズンとなっている。今回は、そんな前半戦を振り返りながら、“MVP”“サイ・ヤング賞”“新人王”“カムバック賞”を独自に制定し、後半戦の行方を占っていきたい。
(写真:たくましく成長したハーパーは今後しばらくMVPの常連候補になるだろう Photo By Gemini Keez)
【MVP】

ア・リーグ
 マイク・トラウト(エンジェルス/打率.312、26本塁打、OPS 1.019)
次点 
 ジョシュ・ドナルドソン(ブルージェイズ/打率.293、21本塁打、OPS .884)
 
ナ・リーグ
 ブライス・ハーパー(ナショナルズ/打率.339、26本塁打、OPS 1.168)
次点 
 ポール・ゴールドシュミット(ダイヤモンドバックス/打率.340、21本塁打、OPS 1.064)

 デヴュー当初から期待された通り、トラウトとハーパーは“メジャーリーグの新たな顔”と言える存在にまで成長した。
 トラウトは本塁打、長打率、得点のすべてでリーグ1位で、オールスターでも史上初となる2年連続MVPを獲得。ハーパーもOPS、長打率でナ・リーグのトップを走り、22歳にして夢の球宴では堂々と3番打者を務めた。特にハーパーの今季の活躍は目覚ましく、16歳の頃から“選ばれしもの”と称された選手が完全開花したことは、ベースボールにとっての喜びでもある。

「(トラウトは)凄いタレントだね。足、守備力、打撃力、パワーのすべてを備えている。トラウト、ハーパーのような若い選手たちのプレーを観れるのは良いものだ。彼らはこのゲームの顔であり、素晴らしいアンバサダーでもある」
 オールスターでナ・リーグの指揮をとったブルース・ボウチー(ジャイアンツ監督)のコメントは、MLBに関わるすべてのものの想いを表現している。

 移籍1年目で力を発揮しているドナルドソン、リーグ屈指のスラッガーとしての地位を確立したゴールドシュミットの働きも優れており、後半の活躍次第で逆転MVP受賞もあり得る。しかし、現時点では、それぞれ地区首位にいるチームのベストプレーヤーでもあるトラウト、ハーパーを上位に据えるべき。そして、このまま2人が同時にMVP受賞すれば、MLBは正式に新時代を迎えることになる。
(写真:パワフルなゴールドシュミットの逆転も? Photo By Gemini Keez)

【サイ・ヤング賞】

ア・リーグ
 ダラス・カイケル(アストロズ/11勝4敗、防御率2.23) 
次点
 クリス・セール(ホワイトソックス/8勝4敗、防御率2.72) 

ナ・リーグ
 ザック・グレインキー(ドジャース/8勝2敗、防御率1.39) 
次点 
 マックス・シャーザー(ナショナルズ/10勝7敗、防御率2.11)

 近年のMLBは投手全盛と言われて久しく、実際に今季も多くのエースたちがサイ・ヤング賞候補に値する素晴らしい成績を残している。
 ア・リーグは大混戦で、安定感抜群のカイケル、WHIPと奪三振率でリーグトップのセール、防御率1位のソニー・グレイ(アスレチックス)、好調時には手のつけられない投球で魅せるクリス・アーチャー(レイズ)がほとんど横一線。アストロズをプレーオフ争いに押し上げてきた功績を買って、ここではカイケルを最上位に据えるが、最後まで微妙な争いは続きそうだ。

 一方、ナ・リーグではトップの2人がさらに圧倒的な数字をマークしてきた。ナショナルズと7年2億1000万ドル契約を結んだシャーザーは、その期待通りに新天地でもエースとして君臨。6月20日のパイレーツ戦ではノーヒッターを達成するなど、支配的な投球を続けている。グレインキーは輪をかけて完璧に近く、なんと35回2/3イニング無失点記録を続けたまま前半戦を終えた。このグレインキーの記録がどこまで伸びるか、球宴時点で1968年以来最高だった脅威の防御率をどこまで保つことができるかは、後半戦の見どころのひとつになる。

【新人王】

ア・リーグ
 ビリー・バーンズ(アスレチックス/打率.303、2本塁打、17盗塁)
次点
 カルロス・コレア(アストロズ/打率.276、7本塁打、OPS.820)
  
ナ・リーグ
 ジョック・ピーダーソン(ドジャース/打率.230、20本塁打、OPS.851)
 クリス・ブライアント(カブス/打率.269、12本塁打、OPS.848)

 メジャーデヴューが遅れたがゆえに前半戦の新人王には選び難いが、コレア、ブライアントの2人は評判通りの能力は見せつけている。
 わずか32戦の出場で大器の片鱗を十分すぎるほど示したコレアは、一部の関係者が「アストロズのデレク・ジーターのようになっていく」と期待を寄せる遊撃手。守備、打席での落ち着きは20歳には見えず、シーズン終了後まで新人王争いでも断然のトップに立っている可能性は高い。

 パワーと甘いマスクを兼ね備えたブライアントは、ジャンカルロ・スタントン(マーリンズ)と並ぶ現役最高の長距離砲として近未来に確立されていくのだろう。このコレア、23歳のブライアント、さらにはここまで長打力と選球眼をアピールしてきた23歳のピーダーソンは、トラウト、ハーパーに次ぐスーパースター候補としてメジャーを騒がせていくはずだ。
(写真:実力、ルックスの良さを兼備したブライアントはシカゴで大人気になるはずだ Photo By Gemini Keez)

【カムバック賞】

ア・リーグ
 プリンス・フィルダー(レンジャーズ/打率.339、14本塁打、OPS.924)
次点
 アレックス・ロドリゲス(ヤンキース/打率.278、18本塁打、OPS.898)
 
ナ・リーグ
 マット・ハービー(メッツ/8勝6敗、防御率3.07)
 ジョーイ・ボット(レッズ/打率.277、15本塁打、OPS.876)

 今季、前半戦が盛り上がりを見せたのは、多くの若きスーパースター、その候補が台頭したのと同時に、実績ある選手たちのカムバックも目立ったからである。
 中でも最大の驚きはA-RODの打棒復活である。薬物事件による出場停止処分で去年はまるまる棒に振った39歳のスラッガーが、今季は予想外の好成績で地区首位を走るヤンキースを支えてきた。フィールド内外で過去の白々しい態度が消え失せ、同時に地元ファンから大歓声を浴びるようにまでなった。ここまで残した数字では故障から復帰したフィルダーが上だが、インパクトではロドリゲスがはるかに上回っている。

 ナ・リーグでは稀有なスター性を備えたハービーがトミー・ジョン手術からカムバックしたのもうれしいニュース。復帰1年目だけに、まだ波はやや大きいが、シーズンを通じて徐々に安定することも予想される。A-ROD、ハービーがそれぞれチームをプレーオフに導くことができれば、今秋のニューヨークは久々にベースボールで湧き上がることになるだろう。
(写真:ハービーの登板日、本拠地のシティ・フイールドは満員の観衆でふくれあがる Photo By Gemini Keez)

※記録は前半戦終了時点


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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