卓球で“日本のエース”といえば、女子の福原愛を想像する人が少なくないだろう。しかし、男子にも日本卓球界を牽引する若きエースが誕生した。水谷隼、19歳。伸び盛りの才能は、すでに世界の舞台で、次々とトップ選手を倒している。北京オリンピックでは日本卓球界初の表彰台も狙える存在だ。五輪に向け、最終調整に励む平成生まれのホープを二宮清純が直撃した。
二宮: 北京が初のオリンピック出場ですが、最初にオリンピックを意識したのはいつ頃ですか。
水谷: 10歳くらいからなので、アトランタ(96年)ですかね。小学校の文集で「目標はオリンピック」と書いていたと思います。取材のときには口ぐせのように「オリンピックで優勝したい」と言っていました。早くから卓球で世界に出たいと思っていました。

二宮: 水谷選手が卓球を始めたきっかけは?
水谷: 両親が卓球をやっていた影響で、5歳くらいから始めました。家に卓球台がありましたし、近くの公民館などでもやっていました。はじめは両親と練習していたのですが、小学校2年の頃から地元のヤマハクラブでお世話になりました。他にもサッカーなどをやっていたのですが、卓球では他のスポーツよりも結果を残すことができた。それが卓球を続けてこれた理由ですね。

二宮: 水谷選手は左打ちですが、もともとは右利きだったそうですね。
水谷: 物心ついた時から左だったので、利き腕を変えたという意識はないです。親が左にしたほうがいいと思って変えたようですが、有利不利はあまりないと思います。確かに左利きのほうが有利だという人もいますけど、相手がやりにくい反面、自分もやりにくいですからね。

二宮: 早くから世界に出たいと思っていたとおり、14歳で海外に留学されていますね。
水谷: 中学1年のときにジュニアのナショナルチームに入っていて、クロアチア人のマリオコーチから「ドイツに来ないか」と誘われました。その1年後に、マリオコーチが以前監督をしていたデュッセルドルフに行きました。そこから5年間、今年の5月までドイツにいました。昨シーズンと今シーズンの2年間は、ドイツ・ブンデスリーガの強豪デュッセルドルフに所属してリーグ優勝も経験しました。ブンデスリーガの盛り上がりは日本とは全然違います。観客は多いときで4000人くらい入ることもありました。ホーム&アウェーで試合をしていくのですが、ホームでは一生懸命応援してくれる。逆にアウェーだとブーイングがすごいです。

二宮: 卓球といえば中国が強い。北京オリンピックでは相当地元の声援が大きいでしょうね。
水谷: そうですね、完全にアウェーですね。でもそれはドイツで経験していますし、あまり気になりません。気にしても結局、無駄というか。自分ではなにもできないじゃないですか。その状況を受け入れるしかない。観客からブーイングを受けても、その人たちが自分の試合を見てくれるだけで嬉しいと考えるようにしています。

二宮: オリンピックまでに改善したい点は?
水谷: バックハンドのカウンタードライブを少し多めに練習したいと思っています。カウンタードライブというのは、相手が回転をかけてきたボールにさらにドライブをかけるという難しい打ち方です。ボールの回転やスピード、変化によってカウンタードライブが打てるボールと打てないボールがあります。見極めを的確にして、打てないボールはつないでいく。打ち返せるボールはしっかりと打つ。その見極めと精度をあげていきたいです。

二宮: では、オリンピックで注目してほしいポイントを。
水谷: 至近距離で、目にも止まらないような速さでラリーが続くところですね。ラリーを続けるには、ボールを追うための動体視力より、相手が打つ前にある程度予測しながら待つ、つまり先を読む力がないとダメなんです。ゲームプランをしっかり持ちながら、相手の動きを見てどんなボールを打つか読まないといけません。そのとき特に気をつけるのは打点、打つ高さ。相手の打点が低くなれば、打ち返してくるボールの角度が限られてきます。自分の打ったボールの回転で相手の返してくるコースを限定することもあります。そういったかけひきがラリーの間続いている。ここが卓球の面白みですね。

二宮: 先を読む力が大切となると、まるでチェスやオセロのようですね。頭も使わなければならない。試合後は疲れるでしょう。
水谷: 疲れます。卓球は本当に頭を使うんです。試合によっては1球1球が大事になりますし、強い相手ほど神経も使います。試合の後はものすごく疲れますが、勝った時の充実感はその分大きいです。勝てば疲れもあまり感じませんね(笑)。


水谷隼(みずたに・じゅん)プロフィール
1989年6月9日静岡県磐田市出身。明治大学在学中。スヴェンソン所属。両親の影響で5歳から卓球を始め、04年全日本ジュニアの部を最年少で優勝。同年世界ジュニア選手権ダブルス優勝。07年全日本卓球選手権男子シングルスで最年少優勝、ダブルスとの二冠を制する。08年1月全日本卓球選手権男子シングルス、ダブルスともに連覇。08年3月世界選手権団体で銅メダル獲得。北京オリンピック日本代表。

<小学館発行『ビッグコミックオリジナル』8月5日号(7月20日発売)の二宮清純コラム「バイプレーヤー」にて、水谷隼選手のインタビューが掲載されます。そちらもぜひご覧ください!>