8月5日、当ホームページ編集長の二宮清純と元日本代表DFの宮澤ミシェル氏が八王子の日本工学院専門学校で対談を行った。その中身を公開したい。
二宮: オシムジャパンの話をしましょう。7月のアジアカップは4位に終わり、3連覇は達成できなかった。この結果をどう捉えるべきか。ミシェルさんはいかがですか?
宮澤: 具体的な収穫という点でいえばゼロでした。というのは、南アフリカW杯の1年前に行われ、各大陸の強豪と真剣勝負ができるコンフェデレーションズカップの出場権利を逃してしまったんです。これは非常に残念ですね。それに3位以内に入れなかったので、次回のアジアカップのシード権も獲得できなかった。

二宮: コンフェデレーションズカップの出場を逃したことは厳しいですね。出場できれば、W杯が行われる南アフリカの地を体感することができた。これはW杯本番にも響いてくるかもしれない。ただ、日本が志向するサッカー自体は悪くないと思っています。
宮澤: そうなんですよ。目指している方向は悪くない。オシム監督は、俊敏性やプレーの柔軟さなど日本人の特長をよく捉えている。それはわかります。今度は、選手たちがプレーの優先順位を頭の中で整理していかないといけない。それが今の課題です。アジアカップで「このままでは駄目だ」という結果を突きつけられたわけで、その反省を今後に生かしていかなければいけないと思いますね。

二宮: 僕が気になったのは、3位決定戦の韓国戦後にオシム監督が語った「今のFWがよくないと言っているのではないが、もっと優れたFWがいたら……」というコメントですよ。結局、そこなのかと。これはね、90年代前半、日本がW杯出場を目指し始めた時代から指摘されていたことと全く変わらない。恐らく、30年後も同じことを言っているんじゃないかな。一朝一夕では解決しない問題だとは思いますが、ここにメスを入れなくてはいけなれば、日本は変わらない。分母、つまりシュート数を多くすればいいと言う人もいるが、それでも、分子の得点数は変わっていないでしょう。日本は根本的に何も変わっていない。
宮澤: おっしゃるとおり。本当に頭が痛い問題ですよ(笑)。まず、昔の日本はサッカーのレベルを上げるために海外から指導者を連れてきましたよね。それで、指導者に基本的なことを学んで、成長してきた。指導者ってね、選手に教えたいんです。自分が教える材料を持っているから、それは仕方ない。ただ、あまりに教えすぎると選手たちは指示を待つようになってしまう。「次は何、次は何をやればいいの?」と。教えられて学ぶことは進歩の早道かもしれないけど、それには苦労も何もない。

二宮: 全部教えられてきたから、自分から積極的に学ぼうとしない部分がある。アジアカップでは頻繁にミーティングを開いても、選手からは意見も質問もなかったという。オシム監督は「選手が何も聞いてこない」と嘆いていた。
宮澤: そう。これはフル代表だけじゃなくて、日本サッカー全体の問題ですよ。7月、カナダで行われたU-20ワールドカップで日本はPK戦の末にチェコに敗れたのですが、一時は2−0でリードしていたんです。日本は組織力や緻密さでチェコを上回っているのに、追い詰められた相手が後半に「2点負けているから点を獲りにいくしかない」とグングン押してくると、パニックに陥ってしまった。基本的な守り方はわかっているんです。1対1の応対の仕方はいい。簡単には足を出さない。数的有利をつくってから守る。それは教わっているから、できる。でも、それだけでは対応できないことが本番では起こるんですよ。戦いだから、相手が死に物狂いで1点を獲りにくることだってある。その場合は、相手のユニフォームを引っ張ってでも、何とか対応しなくてはいけない。こういうことをいう解説者はあまりいないんだけどね(笑)。でも、本当に相手の流れを断ち切れないと負けちゃうんですよ。結局、チェコ戦では日本は焦って相手をPA内で2回倒してしまった。2度のPKで2−2の同点に追いつかれてしまった。

二宮: 残念ながら、日本はマニュアルサッカーだと思うんですよ。最後の最後には1対1の勝負になったり、マニュアルにないことが起きるわけでしょう。そこでの対応力がない。韓国戦もそうだし、ベスト8のオーストラリア戦も、相手が1人少なくなっても、そこで点がとれない。パスサッカーは大事だけど、「ここはパワープレーで点を獲りにいく」といった応用力みたいなものが足りないんじゃないでしょうか。
宮澤: オシム監督は確かに素晴らしい監督ですよ。「日本に合うサッカーはこうだ」と明確に打ち出してくれている。でも、それだけでは日本は強くならない。ピッチで実際に判断してプレーするのは選手たちなんだから。海外の監督は自己主張が強いから、激しく言ってくる。僕はね、現役時代は海外の監督とやってきたから、よくわかるんですよ。それに選手たちは慣れていない。アジアカップ前のモンテネグロ戦でオシム監督が「横の選手が空いているんだからパスを出せ」とシュートを外した中村憲剛を怒ったことがあったでしょう。そういうことを言われると、今の選手は自分の色を出さなくなるんです。萎縮してしまう。だけど、中村憲剛があの場面でゴールを決めていたら、オシムは笑って喜ぶんですよ。「よくやった。素晴らしいシュートだったね」とね。「どうしてパスを出さなかった」なんて言いませんよ。そのことが今の選手はわかっていないんです。

二宮: 言われたことだけをやってしまっていますよね。オシム監督の言葉の裏にあるものがまだ読み取れていない。チームが熟成するには、まだ時間が必要でしょう。
宮澤: 今の代表を見ていると、プレーの優先順位の上位にシュートがなくなっている。ドリブルをしなければいけない時にパスをする相手を探してしまう。ここで勝負という場面でも、パスを選んでシュートを打たない。それはね、極端な言い方だけど、頭の中が監督に洗脳されているんです。オシムという個性の強い監督に飲み込まれてしまっている。たまには、監督に逆らっていいんじゃないかと思いますよ。これからは、そういうプレーをする選手が増えてほしい。出てこなかったら、日本のサッカーは終わってしまいますよ。

(第3回に続く)