2009年10月26日、クライマックスシリーズ第2ステージ第4戦。東北楽天は北海道日本ハムに敗れ、日本シリーズ進出の夢を断たれた。そして、この試合をもって名将・野村克也は、計24年間にもわたるプロ野球監督生活に区切りをつけた。試合後、74歳の指揮官は楽天のみならず、相手の日本ハムの選手からも胴上げされる。いくら吉井理人コーチや稲葉篤紀ら、かつての教え子がいるとはいえ、前代未聞の光景だった。
 南海、ヤクルト、阪神、楽天。振り返れば野村が指揮を任された時、どのチームもBクラスに低迷していた。しかし、野村が監督を務めている間、または退任した後で、必ず優勝、Aクラスの成績を収めている。「弱者」を「勝者」に変えるメソッドがそこにはある。

 野村といえば今では「ボヤキ」が代名詞だが、それは理想主義者の証である。たとえ100のうち99がうまくいっていても、残りの1が失敗すれば不満なのだ。さらにいえば、ボヤキは自問自答の産物である。自分の中で「あのサインでいいのか、この交代でいいのか」と問いかけ、反省と実行、判断と決断を繰り返すうちに、副産物のボヤキが生まれてくる。その中には川砂に砂金が交じっているように、無数の金言が含まれていることを見逃してはならない。

 そんな知将に20年以上にわたり、何度もインタビューを行ってきた二宮清純が、ボヤキの中に垣間見える勝利への知略と戦略に迫る。さらには楽天躍進を支えた主力選手たちの進化も分析。野球ファン、スポーツファンはもちろん、組織のリーダーをはじめとするビジネスマンにも一読の価値ある一冊です!

『野村克也 知略と戦略』

○第1章 逆境からの復活――楽天・クライマックスシリーズ進出の内幕
「全てを見返したな」/耐えること、我慢することには慣れている/一球一球に根拠を持つ/キャッチャーは監督の分身/「机上の空論」を「地上の正論」にしてみせる/「中心なき組織は機能しない」/山崎武司はまだまだやれる/「考える野球とは何か」/「仙台のファンはやさしい」/遅れてきた天才・草野大輔/「草野はミーティングに来なくてもいい」/ホームランを打たれない岩隈久志 など

○第2章 「ID野球の原点」
 弱者を勝者にする力/生き残るために「球種を読む」/野村野球の根幹にあるもの/シンキング・ベースボールの伝道者たち/「日本一の監督」川上哲治/指揮官の理想像 など

○第3章 「野球学者」の知略
 本物には知性がある/プロセス重視の野村野球/「配球学」の謎解き/内角球は勝負球ではなく「意識付け」/投手は武器となる球種を覚えよ/野球は知略と感性のスポーツである など

○第4章 人間・野村克也
 パ・リーグの「内需拡大」に貢献/「高齢化社会」の星を目指して/「人間は無視、称賛、非難の段階で試される」/「人を残すは上なり」/「卵が贅沢品」だったテスト生時代/練習は野球の行動原理そのもの/伸びしろのある選手、未完の大器で終わる選手/「働かざるもの食うべからず」/お金儲けは悪なのか/プロの契約金の一部は出身組織に還元すべき/プロ野球界にリーダーがいない/選手の第二の人生を保証せよ など

○第5章 名将・野村克也――自問自答するリーダー
「準備野球」の思想/「ボヤキ」」は理想主義者の証/キャッチャーは最強の「頭脳労働者」/「無形の力」を植えつける/「1日3試合やれ」/試合中の野次で野球センスがわかる/育成のポイントは意識改革/人間的成長なくして技術的進歩なし/「監督の器」が不足している/球団オーナーの意識改革を/江夏豊との「リリーフ革命」/野球は7回以降が勝負/自問自答するリーダー など

(PHP研究所/定価:1365円(税込)/二宮清純著)
>>購入はこちらから(PHP研究所のサイトへ)[/url]