3月末まで編集長主催による鍋パーティが、一種のブームになっていた事務所ですが、さすがに気温も上がり、温かいものが恋しくなる季節ではなくなってきました。

 となると、頻度が上がるのはデリバリーものです。ビザ、パエリア、カレー、釜めし、寿司……。社内にはデリバリーのチラシが保管してあり、編集長の鶴の一声で、何を食べるかが決定します。

「なんか、今日は夜、デリバリーとろうか。何がいい?」
 そう編集長は一応、スタッフに希望を聞くのですが、すかさず僕が「たまには寿司がいいですね~」と提案すると即却下。「今日はパエリアだな」とチラシをめくり、注文を決めるのでした……。

 ところが4月に入り、そのやりとりに“異変”が起きました。
「デリバリーとろうか。何がいい?」
「たまには寿司がいいですね~」
「そうか? じゃあ、寿司にするか」

 やった! 言い続けたかいがあったのか、念願のデリバリー寿司を注文することになったのです。しかも、この日は編集長が奮発して上にぎりを注文。仕事の合間に、トロやいくらをほおばるという、文字どおりのおいしい一時を迎えることができました。

「よし、これはいける」
 すっかり味を占めた僕は、次のデリバリーの機会から、どんどん食べたいものを伝えることにしました。

「今日はデリバリーとろう。何がいい?」
「お好み焼きが食べたいですね~」
「そうだなぁ……じゃあ、最近新しくできたお好み焼屋が気になっていたから出前を取ろう!」

 なんと、うまく編集長のツボにはまって2連勝。アツアツのお好み焼きを口いっぱいに入れ、僕の顔はまるでおたふくのようになっていました。

「よし、次はもっとおいしいものを……」
 手ぐすね引いて、その日がくるのを待つこと数日。再び、編集長からデリバリーの話が来た時、僕は立ち上がって直訴しました。

「今日は焼肉にしましょう!」
「そうだな。焼肉もいいな」
 
 やりました! 奇跡の3連勝。編集長は行きつけの「ドロップキック」に電話をかけ、カルビやタンを注文します。
「僕がお店まで取りに行きますよ」
 ルンルン気分で持ち帰り、率先してテーブルに広げ、お肉を取り分けます。

「こんなんだったら、毎日、デリバリーだとうれしいなぁ」
 笑いをかみ殺すのに必死で、お肉をすべて平らげると、編集長から「ちょっと来てくれ」と声がかかりました。

「なんの用だろう?」
 思い当たる節もなく、書斎に行くと「Iに頼みがあるんだ」とのこと。編集長の仕事が立て込んでおり、そのサポートを求められたのです。結構な仕事量ですが、さすがに寿司、お好み焼き、焼肉と食べて、断るわけにはまいりません。

「まぁ、これだけ希望通り、食べさせたんだから、その分、仕事してくれないとなぁ」
 そう言ってニヤリと笑った編集長。なるほど。これは周到なニンジン作戦だったのか……。

 人生、うまいことばかりはそうそう続かないものですね……。

(しかも、その日以降、デリバリーで注文する機会がピタッとなくなりました……(苦笑)。スタッフI)
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