アギーレジャパンのブラジル戦(14日)は0-4の完敗。結果はともかく、ハビエル・アギ―レ監督が、この試合を「アジア杯に向けたメンバー選考」の場と位置づけたのは少し残念に思いました。

 ブラジルと対戦できるのは滅多にない機会です。その時のベストメンバーでぶつかってこそ、何が日本に足りないか、真の課題が見えてくるのではないでしょうか。確かにアギーレ監督は就任から日が経っておらず、選手の力量を把握したい気持ちも分かります。ただ、それは他の試合でもできることです。せっかくのブラジル戦がもったいなく感じたのは僕だけでしょうか。

 同じ日、香港にはアルゼンチン代表がやってきて、香港スタジアムで親善試合を行いました。リオネル・メッシらが来るとあって、香港内は空前のアルゼンチンブーム。街中が歓迎ムードに包まれていました。
 
 試合は7-0とアルゼンチンの圧勝。特に後半15分からメッシが登場すると、アルゼンチンの選手たちにスイッチが入ったように躍動し始めました。30分間の出場ながら、2ゴール1アシストの活躍。さすがスーパースターです。テレビの中継を見ていて、僕もレベルの高さに感心してしまいました。

 ただ、スタジアム内は満員かと思いきや、空席も目立ちました。日本円で1万円以上する席が多く、価格が高すぎたのも一因でしょう。世界的に話題になっているデモの影響もあったのかもしれません。

 先月から学生を中心に始まったデモは、香港の行政長官選挙において民主化を求めるもの。2017年から行政長官選びは1人1票の普通選挙が導入される予定でしたが、中国政府が意に沿わない候補を除外する方針を決定したため、学生たちが反発し、政府庁舎などを取り囲んでいます。

 これを警察が催涙ガスを使って強制排除に乗り出し、デモ隊が傘で身を守ろうとしたことから、「アンブレラ・レボリューション(雨傘革命)」と呼ばれるようになりました。香港政府が一度は対話に応じる姿勢を示しながら見送られたことで混乱に拍車がかかっています。

 デモの中心となっている学生たちは、1997年の中国返還前に生まれています。物心つくまでは、まだ英国領だっただけに、「自分たちは中国人ではない」という意識が強いようです。しかし、返還後、中国政府は同化政策を推し進めています。こうした流れに対する反発も、今回のデモの背景にはあるのでしょう。

 学生たちの主張を聞いていると、20歳前後にも関わらず、将来をしっかり考えていることがよくわかります。「自分たちの代表は自分たちの手で選びたい」という訴えは筋の通ったものです。中国は天安門事件でデモ隊を武力弾圧した消せない過去があります。学生たちとしっかり話し合い、平和的な解決を望みたいところです。

 そんな中、僕たちYFCMDの香港プレミアリーグ開幕戦が、ようやく5日に行われました。前回のコラムで開幕戦は9月27日と紹介しましたが、その後、アジア大会で香港代表が決勝トーナメントに進出したため、さらに1週間延期となったのです。

 結果は太陽ペガサスに0-2の黒星スタート。ペガサスは既に2試合を消化し、試合勘の部分で差があったとはいえ、自分たちの時間帯でゴールを決められなかったのが敗因となりました。

 個人的にもトレーニングを十分に積み、コンディションは万全だっただけに、久々の公式戦で気合が空回りした感じがします。体もよく動き、「オレが行く」との気持ちが強すぎました。

 たとえばゴール前で頭上にボールが来た場面。味方が走り込んできているのが見えていたにもかかわらず、「チャンスが来た」とオーバーヘッドでシュートを打とうとしました。しかし、相手DFに体を寄せられて、うまくとらえきれず、結局、ボールを奪われてしまいました。落ち着いてボールをキープし、走り込んできた味方に預ければ、もっとビッグチャンスになっていたかもしれません。

 何十年もサッカーをやってきて、いいパフォーマンスを発揮するために大事なのは冷静さです。もちろん試合ですから、熱い気持ちが求められるのは言うまでもありません。ただし、単に心だけ突っ走っても体はついてきません。どこかで、もうひとりの自分が上から自分のプレーを眺めている。そんな冷静さと熱さのバランスがとれた状態が、ベストではないでしょうか。

 そうすれば強引にゴールへ向かうだけでなく、いろんなプレーの選択肢が見えてきます。相手が警戒する中で得点をあげるには、正面突破だけではうまくいきません。一度、味方にボールを預けたり、ポジショニングで存在を消した上で、突如として現れる。こうしたメリハリをつけた方が相手は対応しにくいものです。

 これはサッカーに限らない話でしょう。何事もテンションが上がりぱなしではなく、少しのゆとりがないと、周りが見えなくなってしまいます。19年目の開幕戦で、また新たな発見ができました。

 次戦は18日のイースタン戦です。今季のプレミアリーグは、開幕戦で敗れたペガサスに、一昨季優勝のサウス・チャイナ、昨季覇者のキッチー、そしてイースタンの4強と言われています。18日の後はカップ戦でサウス・チャイナとの対戦が組まれており、強豪とのマッチアップが続きます。

 ここで、いかに勝ち点をとるか。新生YFCMDの真価が問われることになるでしょう。新しいチームで自信をつけるためにも、何とか結果を残したいものです。

 香港は蒸し暑さはだいぶなくなってきたものの、気温は30度近く、冷房は欠かせません。体調管理をしっかりして勝利につながるゴールを決め、次回はぜひ、いい報告をお届けしたいと思っています。

(このコーナーは第3木曜更新です)
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