今季のJリーグ開幕前、サッカー専門誌から依頼された「得点王予想」のアンケートに筆者は柏レイソルの若きストライカーの名前を書き込んだ。佐藤寿人でも前田遼一でも、外国人助っ人でもなく。

 工藤壮人、23歳――。

 昨季チームトップの13ゴールを挙げて注目されたが、なかでも目を引いたのがゴール前での落ち着きぶりだ。相手との駆け引きに長け、シュートコースが見えたら迷わず打ち込む。その得点への嗅覚といい、勝負強さといい、実にストライカーらしいストライカー。尊敬する先輩・北嶋秀朗(熊本)の背番号「9」を引き継いだ今季、まさに大ブレイクの気配が漂っている。

 リーグ戦では10試合を終えて7ゴール。3月30日の大分トリニータ戦、4月6日の名古屋グランパス戦で2試合続けて2ゴールずつ決めている。そのゴールの内訳は縦パスに反応してゴール正面で右足シュート、技ありの左足ループ(以上、大分戦)、左クロスからのヘッド、ドリブルで相手をかわして左足(以上、名古屋戦)。この2試合だけを抽出してもシュートにいろんなバリエーションがあり、かつどの部位からでも点を奪える強みがあるといえる。

 活躍はリーグ戦ばかりではない。柏は今季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)で、日本勢として唯一決勝トーナメントに進出。工藤はグループリーグで3ゴールを叩き出して貢献しているが、15日の決勝トーナメント1回戦、アウェーでの全北現代(韓国)との第1戦でも前半3分に左からのクロスに頭で合わせて先制点を奪った。このゴールでチームに勢いをもたらし、2-0勝利につなげたのだった。エースらしい働きだった。

 2009年入団のプロ5年目。ユースから昇格の“生え抜き組”だが、決して順風満帆だったわけではない。

 現在はハノーファー(ドイツ)でプレーする酒井宏樹とともに柏レイソルU-18から昇格した1年目は3試合の出場にとどまり、チームがJ2に降格した2年目のシーズン序盤もレギュラー争いに食い込めなかった。

 このとき工藤は自分を見つめ直したという。自分に足りないものは何か――。
視線の先には北嶋がいた。先輩の背中は、いろいろなことを教えてくれた。練習でも試合でも工藤は北嶋の一挙手一投足を見逃さないようにした。

 昨年にインタビューした際、工藤はこのように言っていた。

「2年目になって、自分が感覚だけでシュートを打っていることに気づかされました。ゴールキーパーややディフェンダーの重心とか、そういったことを考えて打ってなかった。

 北嶋さんを見て、ポストプレーでも多くのことを学びました。下りてボールの受ける駆け引きだったり、前線で起点になる動きだったり。僕は1人で持っていけるタイプではないので本当に参考にさせてもらった。クロスに対する入り方なんかも北嶋さんの影響をかなり受けています」

 結局、2年目はJ2で10ゴール、3年目はJ1で7ゴールを挙げて飛躍のきっかけを掴んだ。工藤は、いつの間にか駆け引きのうまさを身につけていた。

 彼は相手の重心を「矢印」として見ている。これも北嶋の影響なのだが、マークに来るディフェンダーやゴールキーパーがどの方向に重心を傾けているかということで、それを瞬時に見極めてプレーを選択している。シュートは感覚ではなく、あくまで相手の「矢印」を外しながら確実に決めようとしているのだ。

「調子がよくないと矢印が見えなかったりするんです。感覚だけで勝負すると、ゴールキーパーが読んでいたほうに打ってしまうこともありますから」

 察するに今年は相手の「矢印」がよく見えているのだろう。つまり、調子がいいという証拠でもある。

 昨年7月、第19節のC大阪戦でハットトリックを達成した際、ロアッソ熊本に移籍した尊敬する先輩からその日に祝福の電話をもらった。ホームである日立柏サッカー場での日本人選手のハットトリックは01年にマークした北嶋以来だという。

「お前とは何かつながっているものがあるな」
 北嶋のその言葉はずっと憧れてきた工藤にとって、かけがえのない宝物になった。

 背番号9の誇り。北嶋の魂。今、2人のつながりはもっともっと深まっている。

(このコーナーは第1、第3木曜日に更新します)
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