首位を走るサンフレッチェ広島をけん引しているのが、エース佐藤寿人である。
 第27節のサガン鳥栖戦でもPKを含む2ゴールを挙げて早くも20ゴールの大台に乗せた。得点王争いはブッちぎりのトップ。自身初のリーグ制覇&J1得点王、さらにはMVPまで見えてきた。

 終了間際に奪った2ゴール目は、自陣深い右サイドからのロングボールに合わせてオフサイドラインを突破。左足のワンタッチで浮かせて、前に出てきたGKの頭上を抜くという佐藤の持ち味がいかんなく発揮されたシーンだった。

 今季4月には史上10人目となるJ1通算100ゴールを達成(J2時代を含めると150ゴール)。5月には早くも10ゴール目をマークして、9年連続の2ケタ得点というJリーグ初の快挙を成し遂げた。今季、30歳にして初めてJ1で20ゴールを挙げたことから、まだまだ進化の途中だと言える。

 相手との駆け引きに長け、マーカーから消える動きで危険なゾーンにもぐりこんでワンタッチで決めてしまう。クロスに対する入り方も絶妙だ。

 ポジショニング、駆け引き、そして正確なシュート。まさに佐藤があこがれるイタリアの名ストライカー“ピッポ”ことフィリッポ・インザーギを彷彿とさせるスタイルに磨きをかけてきた。アレックス・ファーガソンはインザーギに敬意を表して「オフサイドポジションに生まれた男」と表現したそうだが、佐藤にもピタリと合うフレーズである。

 インザーギも30歳を過ぎてから駆け引きに巧みさを増した印象がある。33歳で臨んだリバプールとの欧州CLファイナルの舞台では、ディフェンスラインとの駆け引きからカカのスルーパスを呼び込んで右足でゴールを奪った。2年前にファイナルで敗れたリバプールに雪辱を果たし、ミラニスタの溜飲を下げたインザーギの活躍は今なおファンの語り草となっている。その彼はミランに10年以上も在籍し、ついに昨季38歳で引退に踏み切った。

 息の長いプレーヤーでファンに愛され続けたが、ケガも少なくなかった。それに比べると佐藤はケガに強く、頑丈である。その点は“本家”よりも勝っている部分でもある。

 170センチ、69キロと小柄な体で1トップを張る。つぶれ役にならなければならないときもあるが、それでも重心を低くして、激しい当たりにも負けない。体幹トレーニングに重点的に取り組んできた成果とも言えよう。

 もう4、5年前になるが、佐藤はこう語っていた。

「重心を低くしないと倒されてしまうというのはありますよ。相手を背負うことを考えれば、体を強くしていかないといけない。ただ、広島の場合、イブラヒモビッチみたいに長く前線でボールをキープしなければならないという役割ではない。僕が求められているのは2シャドーと絡んで、ボールを動かしていくという仕事。ゴールに向かうという部分で、もっと周囲とタイミングを合わせていければと思う」

 ミハイロ・ペトロヴィッチ(現浦和監督)体制からずっと「1トップ2シャドー」の形を続けてきたとあって、佐藤の頭のなかは非常に良く整理されている印象を受ける。
シンプルにはたいてボールを動かし、スペースに飛び出していくこともあれば、自分のマーカーを引き連れていき、シャドーに飛び出させることもある。動きだけでなく判断も早くて正確なため、相手とすれば捕まえづらい実にやっかいな存在なのである。

 実績を残しながらもザックジャパンになってからは一度も代表に呼ばれていない。ただ20ゴール超えを果たした今季の活躍は目を見張るものがあり、指揮官にとって気になる存在となっているのは間違いあるまい。

 インザーギも32歳のときにドイツW杯に出場しており、きっと佐藤の胸にも代表に対する熱いものがあるように思う。

 残り7節、優勝に向けてまだまだゴール量産の雰囲気を醸し出している。Jリーグで最も輝きを放つ三十路のストライカーが、インザーギに一歩ずつ近づいている。

(この連載は毎月第1、3木曜更新です)


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