「まさかこんな所で再会するとはねぇ」
 テレビ朝日『ワールドプロレスリング』の実況でお馴染みだった辻よしなりアナウンサーは、驚きの表情で僕を見つめていた。

 2月8日~11日の4日間、幕張メッセで行なわれた『ジャパンキャンピングカーショー』で、お互い出演者として久々に遭遇したのだった。このイベントは、年に一度開催される日本最大のキャンピングカーの祭典なのだ。全国からキャンピングビルダーやディーラー、それに関連企業が集まり、展示車両は250台、322ものブースが出展した。

 今回は例年より開催日程が1日延び、さらにパワーアップしていた。会場内には立派なステージが作られ、そこではさまざまなイベントが行なわれた。お笑いコンビであるペナルティのヒデや、ミュージシャンのシャ乱Qのまこと、元フジテレビアナウンサー富永美樹など芸能人も華を添えた。

 そして、総合司会を務めていたのが辻アナウンサーであった。辻アナウンサーは、古館伊知郎氏の後釜として『ワールドプロレスリング』の実況を担当し、マット界を大いに盛り上げた立役者のひとりなのである。

「90年代の闘魂三銃士(武藤敬司、橋本真也、蝶野正洋)やUインターとの対抗戦など良い時代のプロレスに携われて幸せでした」
 確かに90年代の新日本プロレスは、グレート・ムタや、橋本vs小川戦の「負けたら引退」企画、それに蝶野選手のNOW軍など80年代のプロレス黄金期に負けない刺激的なプロレスだった。

 それを時に涙を流しながら熱い実況で試合を盛り上げたのは、この辻アナウンサーだったのだ。
「16年間もプロレスの実況をやらせてもらったのは本当に誇りですよ」
 辻アナウンサーは、何度もこの言葉を会話の中で口にしていた。

 ここまでプロレスをリスペクトしてくれていたことを知り、僕はとても嬉しくなった。そんな2人がタッグを組んでイベントをやるのだから、気合が入らないわけがない。

「さあ、続きましては、お子様必見!! 昆虫ヒーロー・ミヤマ☆仮面の登場ですよ。これから昆虫バトルのクワレスを行います。このクワレスは、本物のクワガタ虫のプロレスでございます」

 実況時の口調より、当然ながら抑え目ではあるものの、力のこもった言葉に舞台袖でスタンバっている僕も段々と気持ちが高揚していった。僕は、自然とリングに上がる時のような心境となり、一層気が引き締まった。

 辻アナウンサーと入れ替わるようにして、僕は勢いよくステージへと飛び出し、全力のパフォーマンスで子供たちを盛り上げた。
「いや~、完全に役になりきっていて素晴らしかった。そこに少しでも照れがあったら、見ている方が恥ずかしくなるけどそれが全然なかったよ」
 イベント終了後に辻アナウンサーからお褒めの言葉をいただいた。

 実はショーの中で、クワガタのバトルを実況する部分があり、僕はいつになく緊張していた。実況のプロに聴かれるのだから、焦るなと言うほうが無理な話である。僕のそれは、プロレスの実況を模倣しているため、本家の前でやるのは少々気が引ける部分もあったのだ。

 しかし、意識するのをやめて、いつも通りのスタイルを最後まで崩さないよう努めた。仮にも、よそ行きのパフォーマンスを見せれば、必ず見破られる気がしたからだ。

 なぜならプロレスの実況は、他のスポーツに比べて選手の内面を語ることが多い。
「垣原さんが新日(入団)の頃は、頭の中で考え過ぎ、周りに気を使って試合をしていたのではないですか?」
 出番前、辻アナウンサーから、こんなことをさらりと言われてしまった。他にもいくつか指摘されたことが、すべて図星であった。

 現役時代、辻アナウンサーから直々にインタビューを受けたのは、2度ほどしか記憶にない。それもテレビ中継時のものなので、僕もマスコミ向けのコメントを発していた。つまり決して本音で語り合った間柄ではないのだ。試合を見ているだけで、そこまでお見通しとは、その洞察力に脱帽である。

 だからこそ、この人の前では、飾らずいつも通りの自然体でやるのがベストだと思った。その結果、まずまずの合格点をもらえたことに、正直ホッとした。

 僕は、日本中の子供たちに虫の素晴らしさや自然の大切さを伝えるのが、ミヤマ☆仮面の使命だと思ってやっている。その揺るぎないポリシーが辻アナウンサーにも伝わり、高く評価してくださったのかもしれない。もちろん、実況のスキルとしては課題が山積みだが、何とも言えない充実感があった。

 それにマット界から卒業したプロレス者の2人が、違うジャンルで手を組めた意義も大きい。
「意外なところでもプロレスと繋がっていたりして、感謝することが多いです」
 僕の言葉に辻アナウンサーも大きく頷いた。

 どのジャンルで仕事をしようとも不思議とプロレスと縁がある。スタッフやクライアントにプロレス好きな方が実に多いのだ。僕は現在、新日本プロレスとの仕事は皆無となったが、それでもプロレスの看板は一生外せないだろう。

 今年の『ジャパンキャンピングカーショー』の来場者数は、実数で5万4千人と大賑わいで幕を閉じた。ミヤマ☆仮面も、少しずつだが認知度が高まっていると感じる。これからも昆虫ヒーロー・ミヤマ☆仮面として、辻アナウンサーの知名度に追いつけ追い越せで、頑張っていきたい。

(毎月10、25日に更新します)
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