「あのウルティモ・ドラゴン選手が、クワガタポーズをやってくれたなんてスゴイよね」
 プロレス専門チャンネルである「サムライTV」で、9月21日に行なわれたミヤマ☆仮面のプロレスデビュー戦が流れていた。

『ミヤマカッター』という新技で勝った僕は、勝利のポーズとばかりに、「クワガタポーズ」を観客の前で派手にアピールしていた。その時にパートナーであったウルティモ選手に恐れ多くも「クワガタポーズ」を強要したのである。心優しきウルティモ選手は、これに応えて一緒に「クワクワッ」とやってくれたのだった。

 この「クワガタポーズ」は、昆虫キャラクターであるミヤマ☆仮面の代名詞的ポーズで、子供向けのイベントでは必ず会場全員で行なうのだ。
「クワガタポーズをマット界でも広めます」
 僕は、試合を前にしてマスコミへこう意気込みを語っていた。このプロジェクトは、ウルティモ選手が協力してくれたことで、順調な滑り出しを切ることができたのであった。

 考えてみるとポイントポイントで、いつもウルティモ選手がいたような気がする。2006年の引退の時もそうだ。
「えっ! あのマスクマンって、まさかウルティモさん?」
 引退セレモニーでの胴上げの時、新日本プロレスの選手に混じって何故かウルティモ選手の姿があった。まさか業界の大先輩に胴上げされるなんて思いもよらなかった。

 これまで大きな絡みはなかったが、一度改良前のミヤマ☆仮面のデザインについてアドバイスを貰ったことがある。
「(マスクの)ダメなところ? 正直全部だよね」
 ここまでハッキリ言ってくれる人はいなかっただけに目が覚めた。遊びで作ったマスクではあったが、思い入れが強すぎて欠点が見えなくなっていたのである。そこに冷水を浴びせてくれたからこそ、カッコ良くなった現在のミヤマ☆仮面があるのだ。

 ちなみにこの時は、趣味で作ったこのマスクで将来、仕事をやるなどとは全く考えてはいなかった。今思うと随分と図々しい質問を「世界のウルティモ選手」にしたものだと我ながら呆れてしまう。

 昨年の9月、秋田の大館市で行なわれた女子プロレスの興行に呼ばれ、ここでウルティモ選手の試合の特別立会人というのをやった(男子はこの試合のみ)。相手が男色ディーノ選手という異色のホモレスラーのため、暴走を止めるべく僕が試合を立ち会うという設定だったのである。結局、最後は僕もリングに介入し、エンタメプロレスを満喫したのだが、この試合がある意味でミヤマ☆仮面プロレスデビューの布石になったような気がしてならない。

 この遠征では、ウルティモ選手と移動から宿泊まで一緒だったため、いろいろとお話することができた。
「せっかくレスラーになったんだから、アントニオ猪木的な生き方をしないとね」
 この発言の意図するところは、破天荒なレスラー人生と解釈すれば良いのだろう。

 確かにウルティモ選手は、常識破りのレスラー人生を歩んでいる。かつて新日本プロレスの練習生であったが、体が小さいためデビューまでにはいたらなかった。そこで単身メキシコへ渡り、ルチャリブレをマスターし、現在の地位を築いたのである。
今もメキシコを拠点に世界中を旅しながら、試合をこなしているのだ。この7日には『ウルティモ・ドラゴン・デビュー25周年記念』興行が後楽園ホールで行なわれ、満員のお客さんに祝福された。

 25年の道のりの途中にはレスラー生命にかかわる出来事もあった。1998年には、なんと手術で肘の神経を損傷するアクシデントに見舞われ、無期限の欠場を余儀なくされたのだ。しかし、こんな大怪我をしても引退は考えなかったという。その間に選手育成のための団体「闘龍門」を設立し、多くの選手を輩出した。

 今をときめくレインメーカーことオカダ・カズチカ選手も生徒のひとりなのだ。プレイヤーとしてだけでなく選手をプロデュースする能力も抜群なのである。25周年興業では引退した諏訪高広さん(SUWA選手)も、師匠のためにマスクを被り、リングに上がった。

「校長(ウルティモ選手)には感謝しかありません。僕たちをメキシコでデビューさせてくれて、当時トップの団体であったアメリカのWCWの舞台までも体験させてくれましたからね」
 諏訪さんは、僕にこう話してくれた。キャラクター作りから、さまざまな表と裏を見せてもらえたことが、大きな財産になったようだ。

「特に『井の中の蛙』ではいけないと経験することを教えてくれたのが一番大きいですね」
 今でも「日本に帰国したよ」とウルティモ選手からメールが来るのが嬉しいという。引退後も続く2人の師弟関係が羨ましい。

 ウルティモ選手が、「猪木的」なレスラー人生を歩むことができているのは、単に型破りなだけではない。きっと、このように人を大切にしているからこそ、長く愛されるのだと僕は思っている。

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