これは4年前、フジテレビの朝の情報番組「とくダネ」のロケ班が、ミヤマ☆仮面ならびに僕のつくった森を取材に来てくれた時の話だ。

「これ、温風が出るんだけど!」
 僕の車の助手席に乗った俳優の山下真司さんは、驚きの表情を見せた。タイミングの悪いことに、その数日前にエアコンが故障してしまい、冷風が出ないのだ。

 8月のもっとも暑い日であったため、誰だってゲンナリして当然だ。森の入り口まで大きなロケバスでは行けないため、僕の四駆の車を使ったのだが、クーラーがつかないことに取材スタッフは面食らっていた。

 実は、それから一度もエアコンを直さず今日に至っている。昨年の猛暑でもエアコンなしの状態だったのだ。

 炎天下で渋滞にハマってしまった日には、車内はまるでサウナと化す。しかも車体や革張りシートが黒色のため、さらに熱を集め、暑さに追い討ちをかけるのだ。

「エアコンがなくても車には問題ない」
 自分に言い聞かせるように気合を入れてみるものの、何度も心が折れそうになった。

 何を隠そうエアコンなしは、車だけではない。自宅でも一切エアコンを使用していないのだ。こちらは車と違ってエアコンが故障しているわけではないが、山の中に住んでいるため、家中の窓を全開にしてリビングも寝室も一切稼動させていない。

 やせ我慢が好きというわけではないが、便利過ぎて軟弱になってきている現代社会に少し疑問を持ったのがそもそもの始まりだった。幸い自宅は標高のある山の中なので、夏場は都心に比べると随分と涼しい。

 しかし、さすがに熱帯夜の日などは寝苦しくて睡眠不足に陥ることもしばしばであった。
「昭和初期の暮らしなんて、今のようなクーラーや電化製品がなくてもやっていたからね」

 僕の誕生日が『昭和の日』だからというのは少々こじつけではあるが、エアコンを使わない生活は戦前の人々の暮らしを意識するきっかけのひとつになっていたのかもしれない。

 考えてみると、都内から現在の山の中に引っ越した12年前は、かなり電気に頼りきっていた。夏はまだよいが、冬場が雪国並みに寒いため、暖を取ろうと、それはもう電気の垂れ流し状態だったのである。

 引っ越し直後の1カ月の電気代は、ちょうど一番寒い2月だったので、2万円をゆうに越えていた。それから多少寒さに慣れてきたこともあってか冬場の電気料金は下がっていったものの、一般の平均的な家庭より上回っていたのは間違いない。

 電気代もさることながら、電気を消費し過ぎていることに罪悪感を覚えるようになったのは、やはりあの大震災が大きいだろう。

「直接の被害のなかった自分たちも少しぐらいの不自由は必要かもしれない」
 あの3・11の1カ月後、岩手県宮古市の避難所を訪れた時、僕はこう思った。

 その3ヵ月後、大きな決断をすることとなった。
「地デジ化を機にウチは、テレビを見ないようにしようと思う」

 子どもたちからの大きな反発を覚悟しながらも、このような提案を家族会議でしてみた。驚いたことに小学生の息子と高校生の娘は、それをスンナリと受け入れ、意外にもこの計画はスムーズに運んだのであった。

 しかし、実際に実施してみると、テレビっ子だった自分が一番戸惑ってしまった。ニュースは、新聞やネットで見落とすことがないものの、どこか時代に取り残されるような不安感に襲わるのである。

「学校で時々テレビの話になると、ついていけないから恥ずかしいよ」
 娘の話に心が揺らぐこともあった。僕の年齢だとさすがにテレビの話題は多くはないものの、流行にはやはり疎くなる。

「○○だぜぇ~、ワイルドだろ~」
 巷でこんな会話を耳にするが、全くなんのことやらわからない。

「マジでスギちゃん知らないの?」
 見かねた友人に促されてYouTubeをチェックしてみたが、笑いのツボがわからなかった。おそらくテレビを見続けていないと、彼のよさは理解できないのかもしれない。

 お笑いの話で言えば、Uインター時代の後輩である『キャプテン渡辺』が、ピン芸人で争われる『R-1ぐらんぷり』で今年も決勝ステージまで残ったようだった。彼の晴れ舞台をテレビで拝めなかったのは、カワイイ後輩に対して申し訳ないことをしたと思っている。

 ちなみに彼は残念ながら優勝まで手が届かず涙を呑んだようだが、このR-1ぐらんぷりで準優勝したのが、そのスギちゃんだったらしい。そんなことも知らずに渡辺に「スギちゃんって面白いの?」と聞いてしまったのは愚問だったと今更ながら反省している。

 さて、7月に入り、本格的な節電の季節に突入した。我が家の電気の契約アンペアを、また一段階下げることに成功し、1カ月の電気代は3千円台にまで下がった。引っ越して来た頃の6分の1にまでになるなんて、当時は夢にも思わなかった。

 やはり、1年前のあの大震災が、ここまで人を変えたのかもしれない。もちろん、家族全員の協力があってのことだ。これから迎える暑い夏を上手に節電していきながら、楽しく快適に過ごしていけるように知恵を絞っていきたい。

(毎月10、25日に更新します)


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