「テレビで試合を観ていてね、懐が深いバッティングに感心したんだよ。ドラフト会議前に(野村)謙二郎に電話して“アイツを獲れ!”と。既に1位は今村猛で決まっていたみたいだから、2位で獲ってくれた。ドラフト会議の後、“浩二さん、獲れました!”とうれしそうな声で電話がかかってきましたよ」

 過日、野球日本代表監督・山本浩二からそんな話を聞いた。2009年のドラフト会議で堂林翔太を指名する際の、ちょっとした秘話である。

 現役時代“ミスター赤ヘル”と呼ばれた不世出のスラッガーは堂林のバッティングを一目見ただけで「将来、カープの4番を打つ逸材」と確信したという。

 しかし、と注文を付けることも忘れなかった。

「今年、いくつ三振したんだ。150? それは多過ぎるな。オレは、そんなに三振してないよ。一番多い時でも77(70年)だからな。要するに打席に入る前の準備ができていないんよ。このピッチャーの得意なボールは何や。スライダーか。曲がりはどのくらいや。だったら、それを狙おうといった具合に、バッターはあらかじめ狙い球を決めて打席に入る。 

 ところがアイツは初球から振り回すやろう! ストライクだったら何でもかんでも振りゃいいってもんじゃないんだよ。来年も、今年みたいなバッティングをしていたら、ちょっと壁にぶつかるかもしらんな。ワシもその点は注意しようと思うとる」

 プリンスにとって、来季は主力打者としての真価が問われるシーズンとなる。

(このコーナーは書籍編集者・上田哲之さんと交代で毎週木曜に更新します)
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