過日、今季限りで中日の投手コーチを辞した権藤博さんと食事をする機会があった。3連勝して王手をかけながら、その後、3連敗を喫し、アドバンテージを含めて3勝4敗で巨人の軍門に下ったクライマックスシリーズファイナルステージ。「勝負のポイントは第4戦の4回表の攻撃だった」と権藤さんは明言した。

 話を整理しよう。スコアは巨人の2対0。4回表、中日は先頭の井端弘和がヒットで出塁し、無死一塁でバッターは4番・和田一浩。巨人先発の澤村拓一は3ボールナッシングとコントロールを乱した。ストライクひとつとるのもアップアップの状態だった。当然、中日としてはランナーをためたい場面である。

 ところが和田は4球目を打ち上げ、センターフライに倒れた。ベンチの指示は「打て!」だったようだ。「あそこで流れが変わったんですよ。ランナーをためなければならない場面で“打て”の指示はないでしょう」

 結果論かもしれないが、和田が四球を選んで歩いていたら無死一、二塁で澤村は5番のトニ・ブランコを迎えることになり、さらに追い込まれていた。結果的に中日ベンチは澤村を助けてしまったのである。

 権藤さんは百戦錬磨の指導者である。1998年には監督として横浜を38年ぶりの日本一に導いている。1軍投手コーチとしては82年に中日で、89年には近鉄でリーグ優勝に貢献している。

 ピッチャー目線で野球を見ると「意味がない早打ちが、いかに最悪であるかが分かる」というのだ。早打ちといえば野村カープのオハコだが、権藤さんの話に耳を傾ける必要があるようだ。

(このコーナーは書籍編集者・上田哲之さんと交代で毎週木曜に更新します)
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