広陵高出身の吉川光夫と言えば、今や北海道日本ハムのエースである。25試合に登板し、14勝5敗、防御率1.75。チームがリーグ優勝を果たした今、MVP候補の一番手と言っても過言ではあるまい。

 丸3年間、1勝もできなかった“未完のサウスポー”が昨秋のキャンプで栗山英樹監督から掛けられた「来年ダメならユニホームを脱がせるからな」の一言がきっかけで覚醒したことは広く知られている。はじめて危機感が芽生えたのだ。

 もちろん栗山はフォローも忘れなかった。「四球をいくら出したっていい。その代わり、オマエが投げたいボールを投げてくれ。それならオレも納得する」

 野球選手は、いかに精神的な面が大事かということを教えてくれる事例である。

 カープには“未完のサウスポー”がゴロゴロいる。篠田純平、齊藤悠葵、岩見優輝、中村恭平……。昨秋のキャンプでは大島崇行、相澤寿聡、金丸将也の3人をサイドスローに変えたが、その効果は皆無だった。

 言うまでもなく、カープの投手コーチは、サウスポーの大野豊である。テスト生から這い上がり、148勝、138セーブを記録した往年の名投手だ。

 少なくともピッチャーに関しては、栗山よりもよくわかっているはずだ。サウスポーともなると、なおさらだ。しかし、指導の効果は、はかばかしくない。その1点のみで「大野の指導力に問題がある」などと言っているのではない。素材の側にも問題があるからだ。

 なぜカープのサウスポーは育たないのか。その原因は精神的なものなのか、技術的なものなのか、あるいはその両方なのか。また3人にサイドスロー転向を命じた真の狙いは何だったのか。なぜ効果は現われなかったのか。大事なのはその検証と、それを踏まえての改善である。この点をおざなりにすれば、また来季も同じ失敗を繰り返しかねない。

(このコーナーは書籍編集者・上田哲之さんと交代で毎週木曜に更新します)


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