「リオの風」は、株式会社アライヴンとのタイアップコーナーです。来年のリオデジャネイロ五輪、パラリンピックや国際大会を目指すアスリートを毎回招き、アライヴンの大井康之代表との対談を行っています。各競技の魅力や、アライヴンが取り扱うインヴェル製品を使ってみての感想、大舞台にかける思いまで、たっぷりと伺います。
今回は、5月のテコンドー世界選手権女子-57キロ級で日本人初の金メダルを獲得した濱田真由選手の登場です。
 大舞台を「楽しむ」感覚

大井: 世界選手権、金メダルおめでとうございます。優勝できる確信はあったのでしょうか。
濱田: 本当に金メダルは紙一重だと思っていました。2年前の世界選手権は銀メダルで、それからも上位には行っても、なかなか優勝できなかったんです。でも、そんなに差があるとは感じていませんでした。

大井: それでも何か突き抜けないと金は獲れないでしょう。何か変わったところはありましたか。
濱田: 前回と比べると試合経験も積んで、今回は決勝を前にしても試合が楽しみでした。それが、いい意味での余裕を生んで力を発揮できたのかもしれません。

大井: 大舞台を楽しむ感覚が大事なんでしょうね。
濱田: 練習したことを試合で海外の選手相手に試せるのがおもしろいんです。もともと試合で緊張することはあまりありませんでしたが、加えて最近は楽しめるようになってきました。

大井: テコンドーで一番重要な能力は何でしょうか。
濱田: スピードで勝つ人もいれば、パワーで勝つ人もいます。作戦で勝つ人もいます。だから、どれかひとつではなく、トータルのバランスが重要だと考えています。格闘技ではあっても、ゲーム的な要素も強くて、駆け引きも多い。そこがテコンドーの魅力です。

大井: 対戦相手の心理面も読むわけですね。
濱田: 読めているかわかりませんが、考えますね。ビデオを観て、どんな感じの選手か頭に入れて試合に臨んでいます。

――格闘技の選手に聞くと、相手と向き合った瞬間に、おおよその実力がわかると聞きます。
濱田: ファーストコンタクトで相手の強さはわかりますね。外国の選手にはガーッと気合を入れて向かってくる選手もいますが、1回蹴り合えば、だいたい力は把握できます。だから、私はあまりオーラを出さず、冷静に戦っていますね。

――相手との間合いや距離感も格闘技を制する上では重要な要素と言われます。
濱田: 距離感は一番、重視しています。蹴りも大事ですけど、その前の駆け引きの部分がもっと大事。試合中は相手との距離や空間を意識しています。

 集中すれば疲れない

大井: 練習や試合で疲れた体を回復させる上で心がけていることはありますか。
濱田: 疲れたらよく寝ますね。寝るのは好きです。

大井: 今回、リオデジャネイロ五輪を開催するブラジルでは、選手の運動能力を高めるため、トレーニング以上に睡眠を重視しています。インヴェルのリチャージはブラジルのアスリートたちも使っているんです。
濱田: 私も実際に使ってみると寝ていたことを忘れるくらい、ぐっすり眠れました。翌朝、ものすごく体が軽かったんです。

大井: 遠征も多いでしょうから、ぜひ飛行機の座席やホテルでは携帯サイズのリチャージスリムも使ってみてください。ちなみにブラジルのテコンドーは盛んですか。
濱田: はい。選手もたくさんいます。テコンドーは今、約200か国・地域が連盟に加盟していてアジアだけでなく、ヨーロッパの選手も強い。地域によって、ファイター的だったり、じっくり見て戦ってきたり、スタイルはちょっとずつ異なりますが、どこの選手と当たっても侮れません。

――試合は2分3ラウンド。体調や睡眠によっても疲れ具合は変わるのでは?
濱田: 集中しきっている時は疲れないですね。金メダルを獲った世界選手権でも疲れを感じませんでした。あっという間に試合が終わりましたね。

大井: その集中力を高めるために取り組んでいることは?
濱田: 特別なことはしていませんが、練習の時に、常に相手がいることを想定しています。ミット蹴りなど実際には相手がいない場合でも、練習のための練習にならないように気をつけています。

――テコンドーでは現在、電子防具を採用して、有効打を機械で判定しています。電子防具になって戦い方も変わったのではないでしょうか。
濱田: 全く違いますね。今までは審判が目で見て判定していたので、蹴った時にいかにアピールするかも大切だったんです。今はセンサーが反応してランプがつくスタイルですから、その必要がない。相手のスキを狙って、正確に蹴ることが求められています。

 競技を本当に極めたい

――五輪はロンドン大会を経験しています。初の大舞台はどう感じましたか。
濱田: 当初はリオデジャネイロを目指していて、ロンドンに出るイメージは全くなかったんです。出場が決まって急ピッチで仕上げたので、勢いで出た感覚でした。

――結果は3位決定戦で敗れて、もう一歩でメダルを逃しました。五輪には独特の雰囲気があると言われます。いつもの大会と違いはありましたか。
濱田: 選手村での生活やセレモニーは初めての体験でしたが、試合自体は緊張しなかったです。むしろ、金メダルを獲ったらどうしようかと考えていました(笑)。

――現在、世界ランキングは3位。リオデジャネイロの出場権は、この調子でいけば獲得できそうですね。
濱田: 12月までグランプリシリーズを戦い、ファイナルを終えてランキング6位以内なら枠を得られます。4位以内は五輪でシードされるので、まずはグランプリで結果を残すことが大切です。

大井: 世界一になると周りからも研究されるでしょう。さらに次のステップへ行くことが重要だと思います。今は、どんな努力をしていますか。
濱田: 私は、現役をできるだけ長く続けることが目標です。五輪もリオや東京だけでなく、その次まで目指そうと考えています。最終的には競技を本当に極めたい。そのために、いいものをいっぱい取り入れて、ちょっとずつ進化していけるように取り組んでいます。研究されていても私自身が成長して、その通りの動きができれば大丈夫だと思っています。

大井: 具体的に行っている練習は?
濱田: 基礎的な走り込みや体幹を鍛えるトレーニングをしています。最近は呼吸法にも気をつけていますね。

大井: 私も呼吸法は大事だと思っています。毎日続けていると体調が変わってくる。どんな呼吸法ですか。
濱田: 腹式呼吸で臍下丹田に空気をためて吐き出す感覚です。ここを中心に体を動かしていく。5分から30分続けていると精神をリラックスさせる物質が体内から出てくると聞きました。

大井: 座右の銘はありますか。
濱田: 「人は大きく、己は小さく、心は丸く、腹は立てず、気は長く」。これを文字で表現したものがあるので、それを見て常に自分に言い聞かせています。

大井: テコンドーを“極める”というのは、どんな心の領域に達することだととらえていますか。
濱田: メダルや勝敗を越えたところにあると感じています。いろんな分野に超一流がいますが、そういう人たちと同じように周りから見てもらえる存在になりたいですね。

(おわり)

濱田真由(はまだ・まゆ)
1994年1月31日、佐賀県出身。ベストアメニティ所属。兄の影響で小学1年からテコンドーを始める。佐賀・高志館高校在学中の10年に世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得。全日本選手権は初出場した11年から女子-57キロ級を5連覇中。12年のロンドン五輪は3位決定戦で敗れ、メダルを逃す。13年の世界選手権では銀メダルを獲得。15年の世界選手権では、同競技で日本人初となる金メダルに輝く。身長174センチ。

(写真/金澤智康、進行役・構成/石田洋之)