22日、ボクシングのWBC世界バンタム級タイトルマッチが東京・大田区総合体育館で行われ、王者の山中慎介(帝拳)が挑戦者の同級2位アンセルモ・モレノ(パナマ)に2−1の判定勝ちを収めた。山中は9連続防衛に成功。通算成績を24勝(17KO)2分とした。
“神の左”で“亡霊”退治とはならなかった。山中はV9を達成したものの、スプリットデシジョンでの薄氷の勝利。「最後まで左が当たらなかった。苦しい戦いだった」と山中は振り返った。

「バンタム級頂上決戦」と謳われた一戦。WBC無敗王者の山中に対し、モレノはWBAで12度防衛した元スーパー王者。常々「強い相手とやりたい」という山中が待望の対戦相手である。“神の左”と畏怖される左ストレートを武器に世界戦で8割近いKO率を誇る山中。一方のモレノは守備の巧さから“亡霊”の異名を持ち、長いキャリアの中でもKO負けがない。いわば最強の矛と盾の戦いだった。

 序盤は探り合いとなった。互いにジャブで距離を掴みながら、次の手を窺う。「神の眼を持つ」と自称するモレノのディフェンステクニックは高い。山中のパンチが空を斬る場面もあったが、4ラウンド終了後の公開採点では1人がドロー、2人が39−37で山中を支持した。

「4ラウンド終わっていけると感触はあった」という山中だったが、モレノもテンポを上げてきた。互いに単発だけでなくワンツーも決まり始めた。中盤はモレノが優勢。8ラウンド終了後にはジャッジが2人がドロー、1人がモレノを推した。

 本田明彦会長をはじめセコンドに叱咤され、「もう行くしかない」と腹を括った9ラウンド。前がかりになる山中を見透かしたようにモレノは絶妙な距離感をはかり、着実にパンチを当ててくる。1分56秒にショートアッパーを当てると、カウンター気味にワンツーを決める。山中は倒れはしなかったものの、後ろにグラついた。

 このままでは分が悪い10ラウンド。山中も「気持ちの勝負」とラッシュを仕掛ける。クリーンヒットこそないが、連打や左のブローが当たりはじめ、モレノも脅かす。そのダメージは明らかで、モレノはクリンチで逃げる場面が目立つようになった。4500人が詰めかけた大田区総合体育館。地鳴りのような歓声が、逆転を狙う山中を後押しする。

 11ラウンド、モレノの動きも鈍りはじめ、山中の攻勢が目立つ。モレノも苦し紛れのクリンチで時間を稼いでくる。最終ラウンドも攻める山中に対し、モレノはカウンター狙いで積極的に前へは出てこなかった。打ち合いばかりではなかったが、互いの距離感を奪い合う濃密な36分間にゴングは鳴らされた。両者がガッツポーズを作ったが、どちらも勝ちを確信したものではなかった。

「ゴングが鳴った瞬間、僅差で勝ったと思った」と山中。ジャッジの1人はモレノを支持し、残り2人が山中優勢に挙げる接戦での勝利だった。手数ではおそらくモレノが王者を上回ったが、有効打の数で山中が上との判定だったのだろう。ホーム開催ということを差し引いても、ドローでもおかしくない試合だった。

 日本ジム所属の男子選手歴代4位タイの9連続防衛にも、山中は「もう少し力の差を見せるつもりだった。力がまだ足りなかった」と悔しがった。「勝ったので次があるので期待してください」と観客に誓い、リングを降りた。「バンタム級頂上決戦」を制した山中には、更なるビッグマッチが舞い込む可能性がある。王者統一戦や海外進出など期待は膨らむが、難敵モレノとの再戦を見てみたい。

(文・写真/杉浦泰介)