「えっ? まさか!」

2階のバルコニーから試合を観戦していた僕は、あまりの衝撃に我が目を疑った。なんとメインの試合に娘が介入し、鈴木みのる選手が羽交い絞めしている冨宅飛駈選手の胸元めがけ、掌底の連打をかましたからだ。これには会場もドッと沸き、大いに盛り上がったのだが……。アシストした鈴木選手もスゴイが、それを真に受けて、本当にやってしまった娘に親ながら苦笑いしてしまう。やっぱり血は争えない。お調子者の遺伝子を娘はしっかりと受け継いでいるようだ。メインの試合で選手をコールするリングアナウンサーも体験させてもらっていたが、まさか選手に手を出すとは驚きである。

今回、娘が所属しているアイドルグループ『バクステ外神田一丁目』のメンバーたちは、大会に華を添えるべく、歌とダンスを披露してくれた。娘もその一員として、参加したのだが、ここまでやるとは誰も予想しなかっただろう。メインに出場した4選手は、いずれも第二次UWFの選手だけにガチガチのUスタイルになると思っていた。それが予想外の場外戦となり、冒頭のまさかの展開となったのである。

 今回の出来事で思うところがあったのか、娘は鈴木選手率いる『鈴木軍』に興味を示し始めている。最近は、原宿にある鈴木選手のお店『パイルドライバー』に通い、Tシャツやキャップ、タオルなどのグッズをしこたま買い込んでいるのだ(写真)

プロレスに興味を持つことは決して悪いことではないが、アイドルがヒールに惹かれるのはいかがなものかと思う。そのうち「金髪にしたい」などと言い出さないかヒヤヒヤしている。考えてみると娘は、新日本プロレスを観ている時もヒールである邪道、外道選手のファンであった。スキンヘッドで眉毛を剃った飯塚高史選手が「カッコイイ」とも言う。根っからのヒール好きなのかもしれない。

 夏休み明けに不良になって登校する生徒のようになっては困ると心配した僕は、『プロレス界の帝王』高山善広選手にお願いして、娘を悪の道に行かないよう説得してもらった(写真)

しかし、誰に似たのか娘は筋金入りの頑固者。簡単には自分の主張を曲げないのである。
「いやはや、困ったものだ……」
しかし、僕も親の反対を押しのけて、プロレスの世界に足を踏み入れたひとりだ。たとえアイドルであろうと、ヒールに憧れても理解してあげないとダメなのかもしれない。

そんなある日、娘から驚きのメールが届いた。
なんと『バクステ外神田一丁目』の単独ライブに鈴木選手がゲストで登場してくれることになったという。

「こんな嬉しいことはない。カッキーエイドで私を覚醒させてくれたボスに恩返しをしたい」
娘の喜びようは、それはもう凄かった。しかし、ゲストで来てくれるものの、そう簡単に鈴木軍入りは許されない。鈴木軍の敷居は高いのである。

どうやらライブ当日にトライアウト的な実験をステージで行なうという。
果たして、その条件を娘はクリアすることが出来るのか?!

今月19日から5日間、新宿ブレイズというライブ会場で、『バクステ』が単独ライブを開催したのだが、その最終日の23日にボスのお出ましとなった。
「一体、娘にどんな条件をつけるのだろうか?」
僕は家族と共にライブ会場へと向かった。

最終日とあってか会場内のファンの熱気は凄く、圧倒された。ライブ会場で娘の唄を聴くのは初めてだったが、「プロになったんだなぁ」と感無量であった。
「好きなことに熱狂している姿はいい。まさに青春だよね」

僕は、かつてUWFに熱狂した自分の体験とオーバーラップさせていた。
「そういえば、19歳の時に初めて後楽園ホールのメインに登場したなぁ。ゲーリー・オブライト選手と戦い、2分ぐらいで負けちゃったけどオレのニールキックが当たった時のあの大歓声を今でも覚えているよ」
ライブの最中に僕は息子に向かって、ついついこんな昔話をしてしまった。

次の瞬間、聞き覚えのある曲が鳴り始めた。
なんと鈴木みのる選手の入場曲「風になれ」だ。それを娘が単独で歌っている。
「やるなぁ~!」

そして、ついにボスがステージに降臨! これにはバクステファンも大喜び。
早速、娘との押し問答が始まった。焦点は鈴木軍入りを許されるか?
「そんなに入りたいなら、まずこの中で一番になれ!それから考えてやるよ」

なんとステージにアームレスリングの公式リングが登場した。腕相撲でその力を見せろということなのだが、突きつけた条件が過酷だった。1人で10人抜きをしろというのだ。

「かっきー鈴木軍入りへの道! アームレスリング大会」
この無茶振りを司会者も大いにあおり、ガチンコ腕相撲勝負が始まったのだった。

さて、その結果は?!

なんと娘は見事に10人を秒殺し、その圧倒的な力を満天下に知らしめたのであった。
「やるじゃん!」と客席で見ていた僕も思わず拍手してしまった。

しかし、これですんなりと鈴木軍に入れるわけではなかった。鈴木軍への道は狭き門なのだ。
今後のアイドルでの活躍が、その鍵となるだろう。

「今日は輝いてたぞ!」。僕の言葉を娘は嬉しそうに聞いていた。

(このコーナーは第4金曜日に更新します)


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