「今年の夏は、例年と違う夏だった!」
 現在、J2リーグにて素晴らしい戦績を収めている愛媛FC。J1昇格へのプレーオフ出場が狙える順位(6位以内)にまで駒を進めつつある。

 特に内外から評価されているのが、第26節(対コンサドーレ札幌戦)からの5連勝。愛媛にとって5連勝はクラブ新記録である。それも、J2リーグ戦上位クラブのセレッソ大阪や大宮アルディージャ、東京ヴェルディを降しての達成だ。我々にとっては本当に誇らしいし、チームにとっても自信に繋がるものとなった。

 例年、シーズンのスタート時に成績が良くても夏場に差しかかると、急ブレーキを踏んだかのように失速し、連敗が続いたりして順位を下げる傾向にあった。これまでは「夏に弱い」という印象が強かったのである。地域特有の湿気を含んだ不快な暑さのせいか、ゲーム終盤で選手たちの足が止まり、逆転を喫するような展開を昨シーズンまでは何度も見てきた。気候条件は相手チームも同じなのだから、言い訳はできないはずなのだが……。

 2012年シーズンには、引き分けを挟むも13試合白星なしという不名誉な記録を残してしまった屈辱の夏も経験している。そういった状況と悪い印象を払拭するため、昨年までのシーズン開幕前には、フィジカル強化のトレーニングに時間を費やしたり、夏場の走り込みなどもやってきたが、一向に改善が見られぬまま、9年間が経過していた。

 今シーズンも第20節(対ジュビロ磐田戦)以降、1得点も取れない試合が5試合続き、「いつもの夏が来たのか?」と、半ば諦めのような声が初夏には聞こえていた。

 しかし、7月22日(水)に行われた第25節(対ツエーゲン金沢戦)で選手たちは、素晴らしい闘志をみせてくれた。雨が降る難しいコンディションでスタートしたホームゲーム。対戦相手は、第24節終了時点でリーグ戦3位の金沢。序盤からゴールを攻め立てられ、前半37分に先制点を奪われてしまった。

 それでも、後半がスタートすると反撃に転じ、積極的に攻撃を展開する。後半5分、MF近藤貴司選手が敵陣のペナルティアーク付近にて、相手DFからファウルを受け、フリーキックのチャンスを得た!

 キッカーはMF江口直生選手。短めの助走から、ゴールマウス隅を狙って右足を鋭く振り抜いた。ボールは弧を描きながらゴールへと向かう。敵GKが必死に両手を伸ばしてボールをかき出すが、ゴール前に詰めていた近藤選手が、こぼれ球を押し込み、ゴールイン!
 愛媛が同点に追いついた!

 その後も、攻撃陣が鉄壁の守備を誇る金沢の守備網を見事に崩し、相手ゴールを幾度となく脅かしたが追加点は奪えず、最終スコア1-1の引き分けに終わった。

 それでも、最後の最後まで運動量を落とさず、ピッチを駆け回っていた選手たちの闘う姿勢と気持ちは、スタンドの皆にも伝わっており、試合後、サポーターたちは選手やスタッフに向けて大きな拍手を送っていた。その闘う気持ちは次の試合にも引き継がれ、5連勝のスタートへとつながったのである。

 2015年の夏は、愛媛にとって進化の季節だった。木山隆之新監督を中心にJ2での10年目のシーズンをスタートさせた愛媛。会社組織の問題が発覚するなど、不安の中での始動だったが、監督の方針を選手たちが理解し、個々に受け入れ、素晴らしいチームへとまとまってきているように感じられる。

 今シーズンはフィジカル面とメンタル面の強化のため、梅津寺の砂浜でランニングを行ったり、対戦チームを分析・研究して試合毎に細かな戦術を練り、非公開練習でゲーム・シミュレーションを実施した。今まで行っていなかったような取り組みを木山監督と選手、スタッフたちは毎週のように積み重ねてきた。

 加えてクラブ側も効果的な選手補強を行ったり、環境の整備にも積極的に取り組んでいる様子がうかがえる。年間運営費の少ない小規模クラブということもあり、全てが上手くいっている訳ではないが、そのチャレンジングな精神は強敵から金星をあげるなど着実に好成績にもつながっている。

 J2昇格10年目にして「夏に弱い」という負のイメージを払拭できたのは、まぐれではなく、チームによる知恵と努力の賜物なのである。ここまでたどり着いたのだから、それぞれの努力を無駄にしたくはない。シーズン最後には全てが報われるように、私たちサポーターもチームを信じて「全力前進」で後押ししていきたいと思っている。

松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>
1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja
Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。


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