「北斗さんが、乳がんだって報道されていたよ。とても心配……」

 僕は、その事実を娘からの電話で知った。

 娘は一度、北斗晶さんがレギュラー出演しているテレビ番組で、ご一緒させてもらったことがあるだけにひどく落ち込んでいた。

 

 僕も当然、北斗さんとは接点がある。新日本に在籍していた時などは、佐々木健介選手のセコンドに付いていた北斗さんに竹刀で襲撃されたこともあった。

 

 世間では鬼嫁としてのキャラクターが定着しているが、舞台裏では健介選手を立てる良い奥様の印象が僕には強い。健介選手の引退パーティーの時などは、それが顕著に表れていた。女子プロレスでトップを極めても周りへの細やかな気遣いを忘れないところがスゴイと感心したものだ。タレントでも引っ張りだこなのも頷ける。おごり高ぶらず誠実なところや責任感の強いところを見習いたい。乳がんと宣告されても、すべての仕事を終わらすまで手術を行なわなかったと報道されていたが、まさに責任感の塊である。

 

 ただ、同じがん患者として、これからは周りのことなどはあまり考えず自分のことだけに集中すべきだと強く思う。これは自分自身にも言い聞かせている言葉でもある。

 僕は、がんの告知を受けて10カ月が経ち、そのことが最近ようやくわかってきた。

 がんは、色々なメッセージを持って現れたと思える。「もっと自分の体を労わりなさい」と教えてくれているのかもしれない。だから、他には目を向けず、しっかりと己の体と向き合わなくてはいけないと考えるようになったのだ。

 

 お医者様に丸投げは絶対にダメだと思う。体から発せられる声を聞き逃さないようにして、自らも治療法を考え、体のケアに努めるべきだろう。自分の体は自分が一番良く分かっているはずだ。

 

 僕の場合、寒くなってくるこれからの季節は、手先の冷えが悩みの種となるが、これこそがSOSのサインだった。しかし、レスラー時代の僕はこれを無視していたのだから、『後悔先に立たず』である。その結果、がんを増殖させることとなった。がんを患ってみて、この冷えこそが、最も危険な状態であることを思い知らされたからだ。がんが最も好むのが低体温なのである。

 

 今は対策に余念がない。朝晩の冷える時間帯には、家の中でも手袋をしているほどだ。外出時などは、真冬ではない季節でも、少しでも寒いと感じたら、必ずマフラーもするように心掛けている。僕の病気を知らない人は、かなりビックリする。

 

 しかし、これぐらい過剰な対策をとらないと克服できないのが、がんという病気なのである。面倒だからと手を抜くと、それがのちにボディブローのようにジワジワ効いてくるから怖い。

 

 僕の体から発している声なのだから、しっかりと耳を傾けないといけない。

 これから厳しい冬を迎えるにあたり、僕は何通りもの対策を練っている。

 

 そのひとつが温熱療法だ。

「温熱療法は絶対にやった方がいいぞ」

 先日、前田日明さんから強く勧められた。トレーニングも立派な温熱療法だということを前田さんとの会話から知った。確かにハードなトレーニングをやった時の体から出る湯気を想像すると納得がいく。これまでセーブしていたトレーニングのペースを計画的に上げていく予定だ。

 

 それと手軽なところではサウナも良いという。温泉とセットにすれば、更に効果アップは間違いない。湯治と筋トレがこれからのマイブームになりそうだ。あとは女性に人気の温熱美容法『YOSA』も抗がん剤治療の時から続けているが、これも非常に効果的だと感じる。

 

 それと漢方も忘れてはいけない強い味方だと思っている。

 煮出して飲む本格的な漢方を僕は半年ほど飲み続けていて、今ではすっかり習慣となった。専門の医師を訪ね、血液のデータと体の症状に合わせて処方してもらっている。東洋医学は即効性がない分、不安になる時もあるが、自分が納得したものは腰を据えてやっていこうと思う。

 

 最近になって新たに取り組んでいるのが呼吸法だ。腹式呼吸を行なうことで内臓を活性化し、血行を良くして冷えの改善をはかっていけるのではと考えている。

「誰もが生まれた時から息をしているのだから、特別に新しいことを教えるわけではありませんよ」と先生はおっしゃるが、僕にとっては様々な気付きを与えてくれる貴重な時間となった。僕は自宅で、教わった呼吸法を毎日繰り返し行なっているが、良い感触を掴んでいる。呼吸法は、簡単そうに見えて、とても奥の深い世界だと感じるのだ。

 あのヒクソン・グレイシーも独特な呼吸法「火の呼吸」を必ず練習に取り入れていたそうだが、その意味が今ならよくわかる。

 

 がんになったことで、様々なことに目を向けられるようになり、視野が広がったことが嬉しい。病気になったことは悪いことばかりではないのだ。

 現在の僕の肉体は、治療に入る前の80kgから筋肉が削げ落ちて69kgしかない。寒い冬を乗り切るためにも体の声に耳を傾け、しっかりと防御していこうと思う。

 

(このコーナーは第4金曜日に更新します)


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