2015年シーズンの日本一を決定するSMBC日本シリーズが開幕しました。第1戦は福岡ソフトバンクが東京ヤクルトを4-2で下しました。よく初戦をモノにしたチームは勢いに乗りやすいと言われますが、僕が重要視するのは第3戦です。第3戦からは神宮球場に移動するので、仮にソフトバンクが連勝したとしても、ヤクルトが第3戦を取れれば、今後の展開は面白くなるでしょう。逆にソフトバンクが勝てば、そのまま一方的に押し切ってしまう可能性は高いです。両チームの命運を分ける第3戦は、日本シリーズの重要なポイントだと見ています。

 投打で圧倒的な強さを誇るソフトバンク

 日本一連覇を目指すソフトバンクはクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージでロッテに対し、ほぼスキを与えませんでした。ペナントレースを終えてからファイナルステージまで1週間以上も間隔があいたので、試合勘が鈍っているのではないかと心配されましたが、休みの期間で選手たちは十分な休養を取って、万全の状態でCSに臨んできましたね。3連勝で日本シリーズ進出を決めたソフトバンクの戦い方は、完璧で文句の言いようがありませんでした。

 ファイナルステージ3試合を5安打4打点でMVPに輝いた内川聖一が怪我で日本シリーズを欠場することが決まりました。僕はキャプテンで4番の彼をキーマンの1人と見ていたので残念ですが、選手会長の松田宣浩に攻撃の牽引役を期待しています。第1戦では松田が先制本塁打を放つと、その後、打線がつながり、5連打で2点を追加しました。やはりムードメーカーの彼が打つとチームに勢いがつきますね。そういえば、内川はCSが終わった後のヒーローインタビューで「絶対に活躍してやろうと思っていた」と語っていました。この一言が今季のソフトバンクの強さを物語っているのではないでしょうか。松田もレギュラーシーズンで同様のコメントを残していましたが、今季は選手全員が“絶対に勝つ”という強い気持ちを持ってプレーをしているのを見ていて感じられますね。

 打線も素晴らしいですが、ソフトバンクには投手陣も盤石です。今季13勝をあげた武田翔太をはじめ、中田賢一、リック・バンデンハーク、摂津正、ジェイソン・スタンリッジと勝てるピッチャーが揃っているので、誰が先発しても問題ありません。ただ僕が投手陣で注目するのは、先発投手ではなく、ファイナルステージで好リリーフを見せた千賀滉大です。第1戦は2-2と同点の5回1死二、三塁で登板し、後続を抑えて無失点で切り抜けた。さらに第3戦では2点リードの7回無死一、二塁の場面でマウンドに立った千賀は、わずか3球でピンチを脱しました。勝負どころで彼を使った工藤公康監督の投手交代のタイミングもお見事です。日本シリーズでも千賀は、相手の流れを断ち切りたいところでの起用が予想されるので、彼が投手陣のキーマンと言えるでしょう。

 巨人を上回った“つなぎ”の打線

 対するヤクルトは、CSでレギュラーシーズン2位の巨人を相手に1戦目を落としたものの、2戦目以降からは本来の戦い方をできていましたね。巨人を上回ったのは、持ち味である打撃力でしょう。ヤクルトの攻撃を見ていると“つなげよう”という意識が凄く伝わってきました。4試合合計でホームランは、1戦目の畠山和洋の1本だったことが、その証拠ではないでしょうか。日本シリーズでも一発を狙うというよりかは、打線をつないで得点を奪いにいくと予想されます。

 ヤクルトの打撃のキーマンに挙げるのは、今季打点王に輝いた4番・畠山です。おそらく2番・川端慎吾、3番・山田哲人はそれなりに打って出塁するでしょうから、畠山がポイントゲッターとして機能するかどうかが、重要になってきます。畠山にはCSで見せていた粘り強い打撃を期待したいです。ヤフオクドームの試合でDH起用が濃厚なウラディミール・バレンティンには、打撃に集中して畠山同様に走者を還す役割に徹してほしいですね。

 守備面では真中満監督の小刻みな継投策に注目です。僕の今までの記憶上、新人監督は早め早めに投手を交代したがる傾向があります。外国人のリリーフが多いヤクルトには、これが合っているのでしょう。なぜなら外国人投手は予定よりも早く起用されると、「よし。頑張ろう」と闘志に火が付くタイプの選手が多いのです。早めの継投策で、今のところいい効果が生まれているので、日本シリーズでもこれは貫き通すべきですね。ヤクルトのブルペンには、オーランド・ロマン、ローガン・オンドルセク、トニー・バーネットで確立された勝利の方程式のほかにも、左の久古健太郎や変則右腕の秋吉亮がいます。素晴らしいリリーフ陣が揃っているので、逆算すると先発が5、6回まで投げ切ることが勝つためのポイントとなるでしょう。

 総合力で鷹が優位!

 既に1試合を消化しましたが、ズバリ、日本シリーズの勝敗はソフトバンクが4勝1敗だと予想します。CSを見る限り、チームの状態としては五分五分ですが、総合的な戦力を判断するとソフトバンクが優位に立っているでしょう。ペナントレースとCSを完璧な戦い方で勝ち抜いてきたソフトバンクには、正直言って、つけ入るスキが見当たりません。

 14年ぶりに日本シリーズに進出するヤクルトに対し、ソフトバンクはここ5年で3度目の出場となります。ソフトバンクは現在の主力の多くが、2度(11年、14年)の日本シリーズ制覇を経験している。一方のヤクルトのメンバーの中に2001年の日本シリーズ経験者は1人もいません。その点でもソフトバンクにアドバンテージがあると見ていいでしょう。

 では、ヤクルトがソフトバンクに勝つためにどうすればいいのか。それは変化球を軸に配球を組み立てることです。セ・リーグの投手が、多彩な変化球を持っているのに対し、パ・リーグの投手は直球主体のパワーピッチャーが多い。そのためソフトバンクに限らず、パ・リーグの打者は変化球主体のピッチングに慣れていないとも言えます。初戦で先発したカツオ(石川雅規)のピッチングがソフトバンク打線攻略の大きなヒントを見出せるのではと予想していましたが、4回8安打3失点と打ち崩されてしまいました。短期決戦となる日本シリーズでは、中継ぎも含めて再度、カツオが登板する可能性はあります。そこで技巧派投手のカツオが好投すれば、ヤクルトが流れを持ってくることも十分にあり得ると思いますよ。

 そのほかには両チームの守備力にも注目しています。なぜならば、ヤフオクドームと神宮の2つの球場には「狭い球場」という共通点があるからです。打った投げたも当然大事ですが、狭い球場では、守備力が勝敗を分けます。冒頭でも述べましたが、第3戦を制したチームがソフトバンクかヤクルトかによって、今後のシリーズの流れは大きく変わってくるはずです。戦いの場を神宮球場に移す第3戦に、是非注目してみてください。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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