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(写真:中継のかたちも多種多様な時代になった/提供 クロスコ株式会社)

  パラスポーツのインターネット生中継をスタートしてから、12年が経ちました。初めての配信は2003年、電動車椅子サッカーの全国大会です。以前、このコラムでも紹介しましたが、当時応援していたチームのメンバーの中に、障がいのために医師から遠くで行われる大会への移動許可が下りず、出場できない選手がいました。その選手に「チームメイトの活躍を見てほしい」という思いで、ライブ中継を行いました。彼は自宅の部屋でユニホームを着ながら見てくれました。決して鮮明で見やすい映像ではありませんでしたが、その選手は「あぁ、いつもの癖が出た」とチームメイトのプレーを見ながら、一緒に戦っていた。まさに同じ時間、同じ瞬間を共有していたのです。

 

 当時の中継は携帯電話のテレビ電話機能で撮影していたので、映像は決して高画質なものではありませんでしたが、生中継には時間や瞬間を共有できる醍醐味がありました。その後、私たちが始めたインターネットライブ中継「モバチュウ」は、いろいろな競技を配信していきました。時代の進歩とともにカメラ、パソコン、携帯電話といったIT機器も進化を遂げていきました。映像の質が上がっていく中で、私たちはコンテンツの向上を目指していったのです。配信する画像にスコアを入力し、得点経過を表示しました。実況、解説をつけて、ルールをあまり知られていないパラスポーツでも分かりやすく楽しめるようなコンテンツを提供しました。

 

 さらには遊びの要素も加えました。中継を見ている視聴者が選手のプレーに対し、「ナイスプレー」と評価できるボタンを設け、視聴者参加型の要素を盛り込んでいったのです。また、09年のアジアユースパラゲームスでは230人の選手へインタビューを行い、それを動画配信しました。たくさんの人に視聴していただき、選手や関係者からも大変好評でした。その翌年、第30回の記念大会となった大分国際車いすマラソンでも約200人の選手インタビューを大会サイトに掲載しました。

 

 コンパクトさを求める流行

 

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(写真:「ビデオリシャス」ではタッチ操作で編集が可能/提供 クロスコ株式会社)

 ところが13年ぐらいからアクセスが減り始めました。パラスポーツへの認知度や注目度は高まっているのにもかかわらず、なぜ視聴者数は減ったのか。おそらくSNSが流行してきて、時代はより短い動画へと、求められるかたちは変わってきたのではないでしょうか。私たちは長時間の中継を、PCやスマートフォンで見る人が少ないと考えたのです。そこで10年来続けてきた形を諦め、ダイジェスト版をスタートさせる決断をしました。

 

 しかし編集、プレビューなどの工程は一朝一夕でできるものではない。どうしても配信まで数日を要することになります。周囲からは「ダイジェスト映像をその日のうちに観たいなぁ」「できれば試合ごとに、アップしてもらえたらうれしい」という意見をいただくようになり、なんとか要望に応えたい思いもありましたが、なかなか叶えられずにいました。

 

 そんなある日、情報のスピード性とコンパクト化の両立を実現させるものと巡り合いました。これまで動画制作を協働してきたクロスコ株式会社の提供する「ビデオリシャス」によって、スマートフォンやタブレットでレースの様子や選手のインタビューを撮影し、そのまま編集、即時に配信することが可能になりました。

 

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(写真:新動画コンテンツ第1弾はパラサイクリング/photo:Shugo Takemi)

 選手の生の声や、プレーのすごさなどを素早く伝えられる手段として大いに活用できるはずです。10月30、31日に開催の「ジャパンパラサイクリングカップ2015」の動画コンテンツを日本パラサイクリング連盟のfacebookページに掲載することが決まりました。パラスポーツの国内大会では初となる「動画速報」が、ついに実現します。大会の様子、競技や選手を動画で見たいという人と、結果をすぐに知りたい人。双方のニーズに応えられるようになりました。12年の時を経て、「映像」というツールを用いてパラスポーツを伝えてきました。見てくださった方々から教えられ、工夫を重ねてきました。これからも、どんどんかたちを変え、スポーツシーンの興奮や感動、競技や選手の魅力を発信していくつもりです。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。障がい者スポーツをスポーツとして捉えるサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。1991年に車いす陸上を観戦したことがきっかけとなり、障がい者スポーツに携わるようになる。現在は国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション活動」を行なっている。その一環として障がい者スポーツ事業を展開。コミュニティサイト「アスリート・ビレッジ」やインターネットライブ中継「モバチュウ」を運営している。2010年3月より障がい者スポーツサイト「挑戦者たち」を開設。障がい者スポーツのスポーツとしての魅力を伝えることを目指している。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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