世界野球WBSCプレミア12で初代王者を目指した日本代表は、準決勝で韓国代表に3-4で敗れました。先発の大谷翔平(北海道日本ハム)が7回まで無失点に抑え、9回まで3点のリードを奪っていただけに、悔しい思いでいっぱいです。

 

慎重さに欠けた選手起用

 

 敗因を分析すると、やはり注目すべき点は、準決勝での継投策です。ブルペンには、山崎康晃(横浜DeNA)、澤村拓一(巨人)、松井裕樹(東北楽天)、増井浩俊(日本ハム)と4人のクローザーが控えていたのにもかかわらず、敢えてクローザー経験のない則本昴大(楽天)を2イニングいかせた。この采配が勝敗を分けました。

 

 3点のリードを守り抜けなかった継投策には様々な意見が飛び交っていますが、そもそも小久保裕紀監督は新人監督です。選手としてのキャリアは申し分ないのですが、監督としては経験値がゼロ。それなのに、いきなり「世界一を獲れ!」というのは求めるものが大きすぎたのかもしれません……。経験の浅さが要所要所に垣間見えました。

 

 まずは人選です。招集した13人の投手のうち、9人が先発専門、4人が抑え専門。中継ぎ投手をひとりも呼びませんでした。2009年WBCの連覇に貢献した山口鉄也(巨人)や、今季の日本シリーズで見事なリリーフをみせた千賀滉大(福岡ソフトバンク)を呼んでいたら、試合の終盤を楽に運べたでしょう。適材適所の選手がいることを、人選の段階で念頭に置かなければなりません。

 

 起用法に関しても同じことが言えます。継投に関しては、松井と則本に信頼を置きすぎました。これが結果的には裏目に出たと言えるでしょう。ルーキーの山崎は準決勝まで2試合に登板し、いずれも三者凡退と素晴らしい内容だったので、大事な場面で使わないのは勿体なかったです。

 

 代打を出すポイントも気になりました。準決勝でスタメンだった松田宣浩(ソフトバンク)には明らかに疲労困憊のオーラが漂っていました。3打席連続ノーヒットだった時点で次の手を打たなければなりません。ベンチには今季セ・リーグ首位打者の川端慎吾(東京ヤクルト)が控えていたのにもかかわらず、一発が出ることを期待して交代しなかった。結果、7回に2死一、三塁で回ってきた4打席目もレフトフライに終わりました。

 

 指揮官が選手を信頼することは大切です。しかし、その時々で選手のコンディションは異なるので、状況によってベストな判断ができなければなりません。報道によると小久保監督は続投らしいので、今回の経験を糧に巻き返しを期待したいです。

 

バッターに与えられた課題

 

 先発ピッチャーは、他国と比較しても日本がピカイチでした。優勝した韓国相手に2試合連続2ケタ奪三振という圧倒的な力をみせつけた大谷は世界レベルにおいても桁違いの投手だということを知らしめました。ベストナインにも選出されたことからも分かるように、彼は今大会の“No.1ピッチャー”であったことは間違いありません。

 

 一方、打者には課題が見つかりました。140キロ台後半の直球や横の揺さぶりへの対応力が欠けていたことです。日本の強打者を集めていたのにもかかわらず、言うほど振るわなかったのが、何よりもその証拠ではないでしょうか。

 

 MLBでは、直球でもボールが動くというのがスタンダードです。しかし日本には、ストレートを動かせるピッチャーはエース級しかいません。今季9勝0敗のリック・バンデンハーク(ソフトバンク)は、その技術を持ち合わせていました。150キロ超の動く直球を主体に打者をことごとく打ち取り、バッターは手も足も出ない状態でした。

 

 日本人でも、大谷や藤浪晋太郎(阪神)などのパワーピッチングができる投手も多くの勝ち星をあげました。140キロ台中盤のボールは打てるけれど、エース級の速さには対応できていないのが現状です。世界は95マイル(約153キロ)の時代に突入しています。これからは150キロ台前半のボールを打てなければ同等に戦えません。これが今大会で最も顕著に分かった世界との差です。

 

 2年後のWBCで09年以来遠ざかっている“世界一”の栄冠を取り戻すためには、“日本式の野球”で戦っていてもダメ。韓国を含め他国は、小刻みな継投や積極的に代打を送るという国際大会ならではの戦い方ができていました。世界の舞台で勝つためには、なりふりかまわず攻めていく“国際野球”を日本も実践していく必要があるでしょう。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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