1511162shotto 12日に行なわれたFIFAワールドカップアジア2次予選のシンガポール戦。高温多湿の中、選手たちは新たなユニフォームでハイパフォーマンスを披露し、シンガポールを3対0で退けた。新作のテーマは「個性」。初めて見る濃紺色や胸部のグラデーションにadidasが込めた思いとは何なのか。

 

 今までと大きく違う点がある。ホームとアウェーでデザインが異なるのだ。「個性」という共通テーマはある。しかし、デザインが違えば当然、コンセプトもかわってくる。ホーム用とアウェー用のそれぞれに込めた思いを鈴木悠紀(アディダスマーケティング事業部 Footballビジネスユニットマーチャンダイジングマネージャー)氏に伺った。

 

ホームユニフォーム=伝統、調和

 

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(写真提供:adidas)

 ホーム用で、まず目を惹くのが色の濃さだ。鈴木氏も「adidasサッカー代表ユニフォーム史上、最も濃い青」と語る。理由を訊ねると「今までのサムライブルーを全部入れ込んだ」イメージだそうだ。それを“凝縮された青”と表現する。今までにない濃いカラーリングに、選手を送り出すadidasの意気込みが見てとれる。

 

 胸部のデザインも斬新だ。お披露目となった12日のシンガポール戦でも鮮やかなブルーのグラデーションに目を奪われた。鈴木氏は「ピッチで着ている姿を見た時、きれいに映ってくれるといいなと思っています」と期待を口にしていた。連なる青い11本のラインには、伝統と調和の意味が込められているという。この青の1本1本が、歴代のジャパンブルーのユニフォームのベースカラーとなった青が使われている。

 

 ラインの11本はイレブンを意味している。鈴木氏は「伝統=日本人のチームワーク。もともとの強みである部分を表現した」とホーム用のデザインコンセプトを話す。グラデーション部分の中央に走る12本目の赤いラインも目を引く。「サポーターのカラーも入れた」と鈴木氏。adidasの考える伝統、調和の中には、サポーターも含まれている。12人目のプレーヤーと共に戦っていることが表現されている。

 

 襟裏には、三本足の烏の羽がプリントされている。2018年W杯ロシア大会へと導く先導者の象徴として用いられた。日本サッカー協会のシンボルマークとして知られる三本足の烏は、代表ユニフォームの左胸のワッペンでもお馴染みである。ここにも伝統を重んじて新ユニフォームを作成したadidasのこだわりが見える。

 

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(写真提供:adidas)

 またadidasの代名詞でもある3本線について「今回で10代目となるadidasサッカー日本代表ユニフォームですが、初めて肩から脇に3本線が降りてきました。これはドイツ代表やスペイン代表をはじめとする各国のユニフォームも同様のデザインで、adidasフットボールのイメージを一新しました」と鈴木氏は話す。

 

 さらに新しい試みがある。ホームとアウェーのユニフォームで背番号のフォントが違う。それぞれのデザインに沿ったものを採用した。ホームマーキングは伝統、遺産を表す“レガシー”をテーマにしたすっきりとしたフォントに仕上がっている。

 

アウェーユニフォーム=革新

 

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(写真提供:adidas)

 

 

アウェーのユニフォームは白をベースに美しいブルーが散りばめられている。アウェー用のユニフォームのサブテーマを訊ねると「“革新”=これからの日本に必要な個性の力。個の力」と鈴木氏は語気を強めた。

 

 強烈な個性をデザインで表現するためにダイヤモンドの輝きをモチーフにした。ベースカラーの白にダイヤモンドの輝きを表現した立体的な青が爽やかに映る。「ブルーを重ねてデザインをしています。レギュレーション上、ホームとアウェーで濃淡をはっきりさせないといけないので、アウェーの方を出来るだけ薄くしないといけない。このブルーを出すのはかなり苦労しました」と鈴木氏は作成時の苦労を振り返った。

 

 襟裏のデザインもホーム用とは異なる。「大空に飛翔する三本足の烏をイメージしている」。躍動感の溢れるプリントは、個性を発揮したサッカーで世界に向けて旅立ってほしいとのメッセージが込められている。

 

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(写真提供:adidas)

 3本線の配置場所はホーム同様脇にある。カラーは紺を採用。脇に紺のスリーストライプスがくることで、よりスタイリッシュに見える。

 

 アウェー用の背番号のフォントは “革新・打ち破る・打ち勝つ”の意味を込めて、イノベーションをテーマにしている。鈴木氏は「スプレーで書いたような形」と形容した。ビジュアル的にもお洒落で背番号に用いる書体としては珍しい。まさに“革新”の息吹が感じられる。

 

猛暑での戦いも考慮し、機能面をグレードアップ

 

 背中部分にも注目したい。メッシュ構造になっていて、熱が逃げやすくなっている。この構造をハイパーベンチレーションメッシュという。これにより、adidasサッカー代表ユニフォーム史上、最も速乾性の高いモデルとなった。「中東、東南アジア等での試合が2018FIFAワールドカップロシア予選想定されます。灼熱の環境下で快適に選手がプレーできるようにメッシュのボディを使いました」と話し、鈴木氏は続けた。「今、サッカーは90分間でどれだけ走りきれるかがテーマになっていて、選手の発汗量が多くなってきている」。時代とともに変化するサッカーのスタイルに合わせて、adidasのユニフォーム作りも進化している。

 

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(写真提供:adidas)

 実際に手に取るとその軽さに驚かされる。Lサイズで100グラムしかない。それを可能にしているのが、14年モデルとの対比で10パーセントも軽量化したポリエステル糸だ。鈴木氏曰く、「我々のプロダクトの中では、とにかく最軽量ポリエステル素材です」。選手にストレスを与えないように、との配慮がのぞく。

 

 さらに機能面での工夫がある。フィジカルが要求されるプレーに対応すべく、身体への密着度を増した「アスレチックフィット」を採用している。袖に関しては2014年モデルに比べて5パーセントほど短くなっており、選手がプレーに集中できるユニフォームを追求した。

 

 さまざまなイノベーションを搭載した新ユニフォームには、adidasの「戦う選手に対して最大限のバックアップを」という思いが込められている。新ユニフォームの初陣で、サッカー日本代表は見事に勝利を手にした。調和と個性、伝統と革新――。サムライブルーの選手たちは進化し続けるユニフォームを身にまとい、W杯ロシア大会出場を目指す。


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