アナウンサーが「WBSC主催の世界野球プレミア12」と伝えたところ「WBCの間違いではないか」との問い合わせが、視聴者からいくつかあったという。そんな話を耳にした。

 

 知名度が低いのも無理はない。WBSCとは世界野球ソフトボール連盟の略称で、2013年4月に発足したばかりの新興団体だ。

 

 元々、野球には国際野球連盟(IBAF)、ソフトボールには国際ソフトボール連盟(ISF)という国際競技連盟が存在した。ところが08年北京大会を最後に野球とソフトボールは五輪競技から除外された。五輪復活には一競技としての実施を提案する策が最良――。その判断の下、両連盟が自主的に統合したのがWBSCである。

 

 もっともMLB機構と同選手会によって設立された運営会社(WBCI)が主催するWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)とて、最初からメジャーな大会だったわけではない。WBCと聞いて、真っ先に頭に浮かんだのは、メキシコに本部を置くボクシングの世界王座認定団体だ。こちらのWBCは世界ボクシング評議会。イチローの活躍や王ジャパンのミラクルな戴冠劇がなければ、この国で野球のWBCがあれほど一気にブレークすることはなかったに違いない。

 

 今回のプレミア12の結末も逆の意味でミラクルだった。初代王者への望みが絶たれた準決勝の韓国戦、大谷翔平の好投もあり、8回が終わった時点で3対0。ところが9回、継投が乱れ、瞬く間に引っくり返される。「悪夢の」という表現がこれほど当てはまる逆転負けは、そう滅多に見られるものではない。これが国際大会の面白さであり、恐ろしさでもある。

 

 思い出すのがサッカーの“ドーハの悲劇”である。93年10月、日本代表は米国W杯出場に王手をかけながら、イラクにロスタイムで追いつかれ、悲願は潰えた。Jリーグの初代チェアマン川淵三郎は語ったものだ。「ちょうどJリーグがスタートして、5カ月目の時。この頃はまだ“サッカーには野球のような逆転ホームランがない”とかいろいろなことを言われていた。だが、あの試合を機に一般の人たちのサッカーを見る目がガラリと変わった。これは思わぬ副産物でした」

 

 敗れた日韓戦の視聴率は平均で25.2%(関東地区)。瞬間最高視聴率は32.2%。侍ジャパンの球史に残る大逆転負けにより、一夜にしてプレミア12はブランドになった。

 

<この原稿は15年11月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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