2015シーズンJ2リーグ最終戦は、いつまでも愛媛FCサポーターの心に残るであろう、素晴らしい一戦となった。
 11月23日(月)、J2第42節(最終節)となる愛媛FC対徳島ヴォルティスの一戦が、ホーム(ニンジニアスタジアム)にて行われた。

 リーグ最終戦となる今節。J1昇格プレーオフへの進出が決まっている愛媛にとって、最終順位が確定する重要な一戦である。それも徳島との四国ダービー。痺れるようなシチュエーションの中、緊張と興奮が入り乱れる心境で当日を迎えた。コアブロックのサポーターたちは、試合開始の5時間前にはスタジアムに集結。スタンド(観客席)で展開するコレオグラフィーやビッグフラッグの準備などに勤しんだ。

 心配されていた降雨も、ほとんど感じられず、観客の出足も順調で試合開始2時間前には入場口前に長蛇の行列ができあがっていた。1時間前ともなると、スタジアム外周やコンコースにも人があふれて、ごった返しているような状況。それもそのはず、この日のニンジニアスタジアムには、なんと9,158人ものお客様が来場していたのだ。

 企業や団体・グループでの来場者も数多く、その中には児童養護施設「松山信望愛の家」の子供たち(28人)の姿もあった。愛媛FCを応援するべく駆けつけてくれた子供たち。ありがたいことに私たちがいるゴール裏席に陣取り、一緒に応援をしてくれるそうだ。

 しかしながら、初めてサッカー観戦する子供たちも多いらしく、「応援の要領が分からない」とのこと。そこで私たち、愛媛FCサポーターズクラブ「ラランジャトルシーダ」が試合前に応援(チャント)のレクチャーをさせていただくことになった。

 自己紹介の後、まずは基本コ-ル。
「エヒーメ・エフシー!(タタンタ・タン・タン) エヒーメ・エフシー!(タタンタ・タン・タン)~」
 周囲の大人たちも先導してくれて、元気の良いコールで応えてくれた子供たち。 続けて「Hey! Come on!」をレクチャ-。私のかけ声に対して、大きな声で「もーてこい! もーてこい!」のかけ声を返してくれた。

 その後も、愛媛の得点チャンスに唄うチャントなどを練習して終了。みんな、予想を超えて元気良い応援をしてくれたので、本番も力になってくれるだろうと安堵した。

 時刻が午後1時50分を過ぎ、いつもの通りスタジアム全体にて「この街で」を合唱。直後、いつもとは異なり、ダービーの際に唄うチャントを唱和。それと同時にコレオグラフィー。続いてビッグフラッグがゴール裏スタンドにて展開された。完璧とまでは言わないが、成功と言える出来栄えだった。後は本番のダービーマッチのみ。選手たちの頑張りに期待したい。

 時計は午後2時を廻り、愛媛のキックオフで試合がスタート。立ち上がりから敵陣内へとボールを運び、積極的な攻撃をみせる。試合が進むとダービーらしく激しい接触プレーが相次ぎ、選手、サポーターともにヒートアップ。緊張感が漂う中、一進一退の攻防が続き、前半26分に歓喜の瞬間が訪れる。

 敵陣内右サイドのDF玉林睦実選手からのアーリークロスにタイミングを合わせ、FW瀬沼優司選手がヘディングシュートを放った。ボールはゴールマウスを捉えていたが、惜しくも敵DFにクリアされる。そこから、こぼれたボールにいち早く反応したのが、MF近藤貴司選手。後方から走り込み、ペナルティエリア内でシュート! ボールは相手DFの頭上をすり抜け、 見事ゴールイン!

 大歓声が沸き起こるニンジニアスタジアム! ひとさし指を天に突き上げ、「行くぜ、J1!!」のポーズで喜びを表現する近藤選手。
「スウィーギン、スウィンギン愛媛、フォーエヴァー!」
 サポーターも歓喜の大合唱!

 前半は愛媛が1点リードのまま終了。後半に入ると徳島が反撃に転じるが、DF陣の踏ん張りで得点は許さない。一時、守勢に廻りながらも、セットプレーなどから追加点奪取のチャンスを引き寄せる。

 後半23分、愛媛がコーナーキックのチャンスを得た。キッカーはMF内田健太選手。右コーナーからニアサイドに向けて、絶妙のボールを供給。これを捉えたのがDF林堂眞選手。敵DFの背後からニアサイドに抜け出し、大きくジャンプ。ヘディングシュートを放った!

 ボールは敵GKの伸ばしかけた左手をかすめながらゴールイン! 歓喜に包まれるスタジアム! チームメイトと抱き合い、喜ぶ林堂選手!
 Jリーグ出場100試合目の記念日に自らのゴールで花を添えた。

 まだまだ終わらない愛媛の猛攻。後半40分には、MF白井康介選手が自陣で相手ボールを奪い、そのまま右サイドをドリブル突破!
 敵陣中央を駆け上がる瀬沼選手を確認し、アーリークロスをあげる。ペナルティアークまで走り込んだ瀬沼選手が、このボールを巧みなトラップで足元におさめ、右足を鋭く振り抜いた!

 弾丸シュートは敵GKの右脇をすり抜け、ゴールマウスへと突き刺さった! 再びスタンドから大歓声が沸き起こる!
 勢いそのままに、私たちサポーターが陣取るゴール裏席の前まで駆け込み、両手を突き上げ、喜びを爆発させる瀬沼選手!
「せぬまゴル! せぬまゴル! オオオ!」
 瀬沼選手を称えるチャントが鳴り止まない!

 その後も愛媛が主導権を握り続け、試合終了。最終スコア3-0で見事、四国ダービーを制した。他クラブの試合結果を受け、リーグ戦での最終順位は5位に確定。愛媛にとって、J2加盟後における史上最高の成績である。

 5年ぶりのダービーでの勝利。試合後のセレモニーで「四国ダービー・ウィナーズ・フラッグ」が、ようやく愛媛の手に戻ってきた。
『この日をどれだけ、待ち侘びたことか……』
 積み重ねてきたいろいろな想いが、私の感情を揺り動かす。込み上げてきたものを堪えつつ、ともに闘ってきたサポーターの仲間たちとガッチリと握手を交わし、喜びを分かち合った。

 だが、勝利に浮かれるのは、この日まで。間近に迫ったJ1昇格を賭けたプレーオフに向けて気持ちを整え、万全の体制で臨みたい。
 「いざ、大阪へ!」

 11月29日(日)、大阪市にある「ヤンマースタジアム長居」には、1,000人を超えるオレンジ色のサポーターたちが詰めかけた。
 J1昇格プレーオフの準決勝となる、セレッソ大阪対愛媛FCの一戦が行われたこの日、試合会場には愛媛県だけでなく、日本中から「愛媛を愛する人々」が集結したのである。

 アウェイでの一戦ということで、サポーターの集まり具合を心配していたのだが、大勢の味方を得ることができて本当に心強い。試合前、そんな人々を巻き込み、決起集会やチャントでの盛り上げを行うなど、コアブロックのサポーターたちの気合の入り方も、いつも以上のように感じられる。

 異様な緊張感と期待感が漂う中、スタジアムは両チームを迎え入れた。スタンドの頂上から、夕日が差し込み始めた午後3時30分に試合がスタート。ヒリヒリするような一進一退の攻防が続く中、カウンター攻撃などから愛媛がチャンスをつくり出すものの、得点には至らない。

 後半立ち上がりには相手に猛攻を仕掛けられ、何度かピンチを迎えるが、DF陣の踏ん張りで何とかしのぎきる。スコアに動きが無いまま、終盤戦へと突入。愛媛はリーグ戦下位のため、引き分けでは次に進めない。残り時間10分からは怒涛の攻撃を展開する。

 コーナーキックなどセットプレーのチャンスを何度もつかみ、GKも含めた全選手での攻撃を試みる。サポーターも必死の応援で選手たちを盛り立てる。しかし、C大阪のゴールマウスは堅く閉ざされたまま、無念にもタイムアップ。

 試合終了のホイッスルと同時にチームメイトとハイタッチを繰り返し、喜びを爆発させるC大阪の選手たち。それとは対照的にうなだれ、地面に両膝と手をつき、ぐったりと肩を落とす愛媛の選手たち。最終スコア0-0でプレーオフ準決勝は引き分けに終わったのだが、この結果により、リーグ戦における最終順位の上位クラブであるC大阪の決勝進出が決定したのである。

 2015シーズンにおける愛媛の戦いは、この大阪の地でついえることとなった。それでも、この準決勝は素晴らしい試合だった。誰ひとり、諦めることなく最後の最後まで相手チームに喰らいついていった姿勢は、木山隆之監督が提唱した「全力前進」を全員が体現しているかのような戦いぶりだった。試合後、スタンドのサポーターの前に挨拶に来た選手たちへ、サポーターからは温かい労いの拍手が送られていた。

 J2昇格から10年。こんな素晴らしい舞台まで、私たちを連れて来てくれた選手たちや監督、スタッフの皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいである。故郷に誇れるクラブの新しい歴史を築いてくれたのだから。それだけに、恩返しの意味でも今のメンバーをJ1まで何とか押し上げてあげたかった。それができなかった自分の非力さ無力さを憎く感じ、悔しさから涙がこぼれた。

 でも、愛媛FCや私たちサポーターにとっては、ここからが本当のスタートなのかもしれない。J1というステージを「夢」のように崇めていた時代は、もう終わったのだ。プレーオフ進出という実績を得た我々にとって、J1は「夢」ではなく、明確な「目標」へと昇華したのである。

 来シースンからは、もっと、たくさんの方々から愛されるクラブづくりを目指し、上位進出が当たり前のように狙える存在へと成長していきたい。そのために私たちサポーターも努力を惜しまず、命ある限りクラブを支えていきたいと感じている。

 

<松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja

Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。


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