151204sugirua4

(写真:ウォリアーズのエース、カリーは3点シュート成功数のシーズン記録を軽々と更新するペースで決め続けている Photo By Gemini Keez)

 NBAの2015-16シーズンは早くも最初の1カ月強が終了した。各チームが16~20戦をプレーし、今季の趨勢が少しずつ見えてきている。

 今シーズンも順調なスタートを切った両カンファレンスの昨季王者は、このまま順調に勝ち続けるのか。大きく躍進を果たすチーム、選手は出てくるのか。今回は序盤戦の戦いを振り返りながら、NBAの今後の行方を占っていきたい。

 

 王者ウォリアーズを追う3チーム

 

 昨季に40年ぶりのファイナル制覇を果たしたゴールデンステイト・ウォリアーズは、今季も圧倒的な強さで序盤戦を駆け抜けている。

 12月2日の時点でなんと無傷の20連勝。開幕からの連勝記録を軽々と更新し、2シーズン越しの勢いは止まるところを知らない。

 

“史上最高のシューター”と呼ばれるようになったエースのステファン・カリーは、昨季~今季の間にさらに成長した感がある。2年連続MVPの候補にも挙げられる大黒柱を軸に、得点力はリーグ1位を誇るウォリアーズ。最初の20勝の平均得点差は15.4と、多くのゲームで大差をつけて悠々と勝ち抜いている。

 

「周囲の強豪チームはウォリアーズの支配力が衰えるのを待つしかない。その驚くべき強さは他チームの幹部たちの間でも話題になっている」

 ESPN.comのザック・ロウ記者はそう語っていたが、実際に大きなケガ人が出ない限り、シーズンのリーグ最高勝率を勝ち取る可能性は高い。少し気が早いが、来春のプレーオフでも優勝候補の筆頭と目されることになるのだろう。

 

151204sugiura3

(写真:去年のファイナルでウォリアーズに敗れたレブロンとキャブズにとって、今季は絶対にリベンジしたいシーズンだ Photo By Gemini Keez)

 ただ、だからと言って、現時点でウォリアーズが連覇の大本命だと言い切ってしまうつもりはない。最大のライバルになりそうなサンアントニオ・スパーズ(16勝4敗)、怪物レブロン・ジェームスに率いられたクリーブランド・キャバリアーズ(13勝5敗)もそれぞれ好スタートを切っているからだ。

 

 ティム・ダンカン、トニー・パーカー、ラマーカス・オルドリッジといったベテランの中軸に加え、カワイ・レナードが新エースとして台頭したスパーズの底力は脅威。去年のファイナルでウォリアーズに敗れたキャバリアーズも、現ロースターが2シーズン目を迎え、チームとしての成熟度を増してきている。

 

 また、ケガ人が出たこともあって開幕13戦で6敗を喫したオクラホマシティ・サンダーも、以降の6戦中4勝と徐々にペースを上げてきた。エースのケビン・デュラントが今季限りでFA権を得ることもあって、中盤以降のサンダーはリーグ屈指の注目チームとなっていくはずである。

 

 ウォリアーズの強さを認めた上でも、昨季王者と遜色ないタレントを揃えたスパーズ、サンダー、キャブズの行方から目を離すべきではない。この3チーム、あるいは他のチームが昨季王者をストップできるかどうか。それこそが2015-16シーズンの最大の見どころと言っていい。そして、序盤戦を見る限り、稀に見るハイレベルの覇権争いが展開されそうな予感も漂ってきている。

 

 コービーの引退ツアー

 

151204sugiura

(写真:NBA史に残るヒーロー、コービーの"お別れツアー"は続く Photo By Gemini Keez)

 11月29日にロスアンゼルス・レイカーズのコービー・ブライアントが今季限りでの引退を発表した。今季20年目、37歳を迎えたスーパースターとの別れは予想できなかったことではない。にも関わらず、正式発表がスポーツ界の範疇を超えた話題となったことが、この選手の存在の大きさを物語る。

 

 引退表明後初のアウェーゲームとなった76ers戦は、完全にコービーのための“お別れツアー”状態となった。フィラデルフィアはコービーの故郷。2001年のファイナル、2002年のオールスターではコービーに痛烈なブーイングを送った地元ファンも、この日ばかりは暖かい拍手をプレゼントした。

 

「こんな反応やオベーションは予期していなかった。僕もエモーショナルになったし、感謝している。本当に特別なことだった」

 試合後、コービーもそう語って満面の笑みを浮かべた。

 

 現在は再建状態の真っ只中にいるレイカーズ。本来であれば、今季はデアンジェロ・ラッセル、ジュリアス・ランドル、ジョーダン・クラークソンといった若手を育てるのが主目的の1年となるはずだった。そんなシーズンにコービーが脚光を独占することに批判の声も出てくるだろう。

 

 ただ、今季にワースト3位以内の勝率だった場合、レイカーズは来ドラフトでの上位指名が約束されるという事情もある。何より、ファイナル制覇5回、オールスター17回、得点王2回という輝かしい実績に敬意を表し、大半のファンもコービーが引退ツアーを続けることを受け入れるのではないか。

 

 その芸術的なプレーを、最後にもう一度目撃しておきたいと考えている支持者は世界中に存在する。レイカーズの行く先々で、アリーナは満員のファンで埋め尽くされ続けることだろう。

 

 ニックス復活への道

 

 最後に筆者の地元チームであるニューヨーク・ニックスについても触れておきたい。開幕から19戦を終えた時点で9勝10敗。二流の成績に思えるが、昨季にフランチャイズ史上最悪の大惨敗を喫したチームとしては大きな進歩である。

 

 特にスタートの14戦中10戦は去年のプレーオフ出場チームが相手だった。この時点までで大崩れすると予想する声も少なくなかったことを考えれば、現時点で勝率5割前後の位置にいることは決して悪くない。

 

151204sugiura2

(写真:NYの新センセーション、ポルジンギスは低迷フランチャイズの救世主になれるか Photo By Gemini Keez)

 この向上の立役者となっているのが、ラトビア人ルーキーのクリスタップス・ポルジンギスである。ここまで平均13.8得点、9.3リバウンド、2.0ブロックという好成績で、11月の月間最優秀新人に選出。ドラフト指名時には「本格化まで2、3年はかかる」と言われたポルジンギスだが、早くもニックスにとってなくてはならない存在になった感がある。

 

 大型新人をニューヨーカーも熱狂的にサポートしている。17日のホーネッツ戦で29得点、11リバウンドと大暴れした際には、ゲーム中に“ポル・ジン・ギス!”の大コールが沸き起こった。試合直後には背番号6のジャージーが売り切れ状態となり、ポルジンギスの公式ツイッターは短期間で15000ものフォロワーを増やしたという。

 

「彼はいずれ殿堂入りする選手になるかもしれない」

 元NBA選手で、現在は解説者を務めるグレッグ・アンソニーは12月2日にNBA TVに出演した際にそう語っていた。まだまだアップダウンはあるはずで、そんなコメントはやや時期尚早にも思える。かつてのジェレミー・リン同様、メディアの中枢地であるニューヨークから台頭した選手だけに、騒ぎが大きくなっている面もあるのだろう。

 

 ただ……ダーク・ノウィツキーと比較されることが多い万能派ビッグマンに、それだけの魅力があるのも事実である。いかに向上したとはいえ、ニックスはまだプレーオフで上位進出が狙えるレベルのチームではない。それでも、リーグ屈指の名門に楽しみな選手が加わり、少なくとも見る価値のあるチームになったことを喜んでいるNBAファンは多いはずだ。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


◎バックナンバーはこちらから