ロンドンの中心地を歩いていたら、見慣れないユニホームを着た集団に出くわした――という原稿を、数年前に書いたことがある。

 

 あの時わたしが見た“見慣れないユニホーム”は、昇格プレーオフに出場する2部だか3部だかのチームのものだった。イングランドの昇格プレーオフ決勝は、ディビジョンの上下にかかわらず、聖地ウェンブレーで行われる。

 

 FAカップの決勝に進出するか、イングランド代表にでもならない限りプレーすることがかなわなかったこともあるウェンブレーは、英国人にとって特別な舞台。そして、その特別な舞台に立つことができるのだという興奮が、地方から出てきたのであろうサポーターたちにはみなぎっていた。なんだが、猛烈に素敵だなと思った記憶がある。

 

 12月6日、朝の新大阪駅だった。東京行きの新幹線ホームに向かおうとすると、普段あまり目にすることのないユニホームの集団が大挙して降りてきた。胸にはFJ――福岡地所とある。

 

 アビスパ福岡のサポーターたちだった。

 

 シーズン終盤に入って抜群の安定感を発揮するようになった彼らのチームは、長﨑とのプレーオフ準決勝も危なげなく突破し、大阪で行われる決勝への進出を決めていた。サポーターたちは、セレッソとの決戦に臨む選手たちを後押しすべく、博多から乗り込んできていたのである。

 

 率直に言って、試合内容に特筆すべき点はあまりなかった。ただ、スタンドの半分を桜色に染めたセレッソ・サポの熱気はもちろん、決して小さくないゴール裏を埋めつくしたアビスパ・サポのさまは、鳥肌が立つほどに壮観だった。終了直前に生まれた中村北斗の豪快な“昇格弾”は、ゴールネットの向こうに見えたサポーターたちの熱が生み出したようにも思えた。

 

 サッカー好きの友人のフェイスブックには、喜びのあまり涙を流す少年サポの姿もアップされていた。目にした途端、不覚にもグッと込み上げるものを感じてしまった。

 

 なぜアビスパは本来中立であるべき決勝戦の舞台を、セレッソのホームで戦わなければならなかったのか。今後のことを考えれば、直していかなければいけない点は少なくない。だが、ある種のいびつさがあったがために、今年のプレーオフ決勝は、アビスパ・サポだけでなく、多くの人にとって忘れがたいものとなった。

 

 代表のハリルホジッチ監督が、J1のクラブ数を減らすべきだと提案していると聞く。直近の強化を考えるのであれば、それもありだなと思う。だが、そうなれば、サッカーへの熱が消えていく地域も出てこよう。少なくとも、J2で3位、J1と合せれば日本で21位になるアビスパが、サポーターを狂喜させることはなかった。

 

 わたしは、熱を大切にしたい。

 

<この原稿は15年12月10日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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