早いもので、もう年末を迎えました。今年のJリーグは、2ステージ制への回帰、新しいレギュレーションでのチャンピオンシップ、FW佐藤寿人のJ1最多記録に並ぶ157ゴール、FW大久保嘉人の3年連続3回目の得点王受賞、3年ぶりに日本で開催されたクラブワールドカップでサンフレッチェ広島が3位に入るなど話題が多かった1年でした。

 

 広島が醸し出す“雰囲気”

 

 今季は11年ぶりに2ステージ制が復活しました。ファーストステージはスタートダッシュがうまく切れたチームと出遅れたチームがあったと思います。しかし、2ステージ制のおかげでスタートダッシュに失敗したチームも一度、流れを切る機会がありセカンドステージに向けてリスタートできましたね。シーズン中に監督が変わったチームもまだ取り返しのつくのが2ステージ制ならではのメリットだと思います。今季は年間1位の広島がチャンピオンシップを制しましたが、年間トップの勝ち点のチームが報われない可能性があるとの声もありますが、最後に大逆転が出来るという点が2ステージ制の醍醐味だと思いますね。

 

 先日のJリーグアウォーズにて、各賞の受賞者が発表され、J1リーグを優勝した広島勢が多くの賞を獲得しました。最優秀選手賞はMF青山敏弘でした。青山は佐藤からキャプテンを引き継いで、よくチームをまとめていたと思いますね。リーグ戦、チャンピオンシップを勝ち抜く中で、選手のモチベーションを保たせることに苦労したのかなと想像します。1プレーヤーとしても、本当によく汗をかき、チームを中盤の底から支えていました。それこそ、現役時代の森保一監督のような「そんなに目立たないけれども、寡黙にチームに貢献する」ところが称賛に値します。MVPに選ばれて当然だと感じました。

 

 その中であえて、僕が思うMVPを挙げるならば佐藤です。これまでの実績を見ても分かる通り、彼は得点をあげてチームの勝利に貢献できます。加えて評価したいのは佐藤の姿勢です。交代で退く時に笑顔で、代わりに入る選手を送り出すのは、なかなかできることではありません。チーム内の信頼関係を感じますよね。そういう部分がうまく、若手の選手にも伝わって頑張れる。チーム全体としても交代することに違和感もなく、新しく入ってきた人間に「頑張ってくれ」という雰囲気があります。このムードを作ったベテランのうまさは素晴らしいなと思いました。

 

 最優秀監督賞は森保監督でした。監督として4年目で3度のリーグ制覇ですから、名将と呼んでもいいと思います。選手のこと、チームのことを常に考えて行動している。その辺の手腕は、選手1人1人をよく観察していると感じます。しかし、これだけの成績を残せる理由として、森保監督の人柄も一因に挙げられるでしょうね。やはり選手にサッカーを楽しませて気持ちよくプレーさせるところと、ここが勝負どころという強弱を森保監督はきちんとわかっている。選手と監督がお互いを尊重し、思いやる部分が垣間見られないと選手もなかなかついていきづらいんです。押し付けるばかりではなく、受け入れながらいい方向に促してあげる。そういうチームマネジメントが森保監督の得意なところだったんでしょうね。

 

 今季のタイトルはあと天皇杯が残っています。タイトな日程をこなしてきている広島は厳しいのかなと思います。27日現在で、広島を含め浦和レッズ、柏レイソル、ガンバ大阪がベスト4に進出しました。予想としては、浦和あたりがスルスルッとくるのかなと思います。今季ここまでタイトルを逃してしますが、最後のチャンスという点でチームの士気が高いのではないかなと思うんですよね。

 

 澤&本山、ベテランが選ぶ新たな道

 

 来季に向けて各チームの補強が続々と発表され、新たな道へと進むベテランもいます。女子サッカーでは澤穂稀が現役引退を決めました。彼女はなでしこジャパンをずっと牽引してきたので「長い間お疲れ様です」と言葉を送りたいです。

 

 澤の頑張りや背中を見て育ってきた選手たちがたくさんいます。今後はそういう選手たちの精神的なケアを担う指導者になってもらいたいなと思いますね。彼女はプレーヤーの気持ちわかるし、チームビルディングの方向性を伝えることもたぶんできるはずです。日本人指導者で選手として経験豊富な人が増えるのは、本当に楽しみです。

 

 鹿島アントラーズの黄金期を支えた本山雅志は、J2ギラヴァンツ北九州への移籍が決まりました。彼には僕らから受け継いだアントラーズのスピリット、サッカーに対する姿勢を手本として新しいチームに落とし込みをしてあげてほしいですね。本山ならその役割をできると思います。

 

 J1の強豪クラブからJ2のクラブへと移籍することによって環境の違いに戸惑うこともあるかもしれません。チームを変えようとすると、フロント側も「そんなことはできない」「こんな費用は出せない」と煙たがられてしまうんですが……。それでもやはり自分たちのサッカーに必要なものであるということを若手に示せる先輩であって欲しいなと思いますね。横浜FCで頑張っているカズも、彼は彼でプレーや練習に対する姿勢でチームに良い影響を与えている。それがやはり彼がここまでプレーを続けられている理由であり、フロント側にも続けさせようと思わせるんじゃないでしょうか。

 

 世界のサッカーを間近で見られた意義

 

 今年のクラブW杯は3年ぶりに日本で行われ、バルセロナが優勝を果たしました。広島は開催国枠で出場できたとはいえ、3位入賞は称賛に価する結果だと思います。一方、バルセロナはあれだけのメンバーが揃っていますから、優勝しなかったらおかしいですよね(笑)。サッカー小僧たちも「すげー!」と思ったはずです。

 

 色々と話を聞くと、今回は自国開催だけあって注目度も高かった。見ている方はサッカーを知らない人も多かったようです。僕の周りでは少年野球を教えている指導者の方がいました。普段はサッカーをあまり見ない方ですら「あんなに速いパス回しを正確にできるの!? ああいうことがきちっと速くできるというのはビックリした」と言っていました。サッカーに詳しくなくても、バルセロナの凄さは一目でわかるんだなと感じました。

 

 ただ、これでJリーグのチームを見たらギャップを感じてしまうでしょうね。バルセロナのようなパス回しが日本のチームで見られないのは、戦術として落とし込めていないから。Jの監督では、時間的な問題もあるかもしれませんが、チーム作りがそこまでいく以前で止まってしまっているのかなと思います。

 

 チーム戦術として、しっかりとできていないと、どうしても単発的な大きな三角形でのパス回しに頼らざるを得なくなってきます。そこを単純に三角形を小さくしてスピーディーにパスを回そうとすると相手に囲まれ、そしてボールを奪われるという悪循環に陥ってしまう。その時にどういう形で修正するのか、という所までいきついていないのかもしれません。ですが、ここの部分さえ改善できれば、日本のサッカーはもっとレベルアップできるはずです。

 

 世界のサッカーを肌で感じることができた2015年。この刺激を来年の日本サッカー界の成長に繋げられたら良いなと思っております。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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