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(写真:調印式に出席した関西学院大・村田治学長<中央>、同大・村尾信尚教授<右>と筆者)

 東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会は全国で786(12月1日現在)の大学・短期大学と連携協定を結んでいます。目的は2020年の大会に向けて、オリンピック・パラリンピック教育の推進やグローバル人材の育成、各大学の特色を生かした取り組みを進めていくことです。「産学官」という言葉が聞かれて久しいように、社会を動かしていくうえで大学の役割は大きく、オリパラの成功のみならず、その後、目指す社会の構築に向けても、この大学との連携は重要です。

 

 12月15日、STANDは関西学院大学と協定を締結しました。多様性を認め合う社会の実現に向けて連携して取り組んでいこうというものです。大学には、たくさんの社会的価値があります。その中でも、次のような特徴が今回の連携を有意義にしてくれるものと考えています。

 

 一つ目は、大学は知の財産が蓄積していく場であるという点です。毎年、学生が入れ替わるのにも関わらず、大学には伝統が築かれています。ここに、大学の持つ「知の蓄積」という際立った機能があると考えています。連携により得られた成果は、蓄積の機能に載せられ、次の時代へと引き継がれていきます。二つ目は、学生は次代の当事者という点です。自分たちが生きていく時代を自ら創り出す人たちですから、長い将来を見据えていくでしょう。その当事者は、私たちにはない力を有していて、協働により新しい価値を生み出すと考えています。

 

 三つ目は大学のもつ「教育」の力です。STANDは2015年にボランティアアカデミーを開講しました。終了後のアンケートに次のようなコメントがありました。「受講した2日後、街で白杖を持った方を見かけました。生まれて初めて障害のある人に声をかけ、目的地まで案内しました」というものです。アカデミーでは、パラスポーツ大会のボランティアを通じて、共生社会を目指すことを目的としています。しかし、講座の出口に明確な人物像を設定し、そこへ意図的に導いているかというと、そこまで理論的に設計されているわけではありませんでした。お恥ずかしながら、この例はむしろ結果として得られた成果に近いのです。しかし、大学は、出口を想定し、あらかじめそこへ導く設計ができます。こうした教育という私たちには持ちえない大きな力と連携できると考えているのです。

 

 今回の協定は、関西学院大学の教授である村尾信尚さんの構想によるものです。村尾さんは報道番組『NEWS ZERO』のメーンキャスターも務めていらっしゃいます。同番組ではパラスポーツを取り扱うことも多く、私たちも村尾さんとご一緒させていただく機会も度々ありました。パラスポーツを通じて知り合った村尾さんが「2020年の東京オリンピック・パラリンピックは大学にとっても好機。パラスポーツを通じて、社会について考え行動を起こしていくことはできないか」と提案してくださったことから、今回の協定へとつながっていきました。

 

 大学が持つ、全国への広がりという役割

 

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(写真:よりよい社会をつくるため、大学との連携は大きな意義持つ)

 このところ、少しずつパラスポーツの大会に観客が増えてきたり、メディアでの露出が増えたり、パラスポーツが広がっていることが実感できます。しかし、東京パラリンピックの開催は、まだ関東周辺に限った盛り上がりに感じます。

 

 2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックでは、北京大会後からの4年間、文化プログラムが組まれました。それは英国全土1000カ所以上で実施され、その6割以上はロンドン市以外の都市で開催されました。文字通り国をあげて盛り上げることで、開催の目的のひとつである、「この国の未来をともに考え行動する」ことが達成されます。組織委員会と連携協定を結んでいる全国786の大学は、国全体への波及の一翼を担うはずです。

 

 今回、STANDは初めて大学と協定を結びました。伝統ある関西学院大学と連携できることは私たちにとって大きな意義のあることで、身が引き締まります。

 

 そして、この先、さらに全国の他の地域へも歩を進めていきたいと考えています。大学にある無限の可能性に期待を膨らませているのです。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。パラスポーツをスポーツとして捉えるサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。1991年に車いす陸上を観戦したことがきっかけとなり、パラスポーツに携わるようになる。現在は国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション活動」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。コミュニティサイト「アスリート・ビレッジ」やインターネットライブ中継「モバチュウ」を運営している。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。パラスポーツのスポーツとしての魅力を伝えることを目指している。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ〜パラリンピックを目指すアスリートたち〜』(廣済堂出版)がある。

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