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(写真:V7を達成し、学生たちに胴上げされる岩出監督)

 10日、ラグビーの第52回全国大学選手権大会決勝が東京・秩父宮ラグビー場で行われ、帝京大学(関東大学対抗戦1位)が東海大学(関東大学リーグ戦1位)を27-17で下した。帝京大はこれで史上最多の連覇を7に伸ばした。通算優勝回数(7)は早稲田大学(15)、明治大学(12)に次ぐ単独3位となった。帝京大は前半31分に先制を許したが、すぐに追いつき同点で試合を折り返す。後半開始早々にPGで勝ち越すと、その後は2トライをあげるなど東海大を突き放した。初優勝を狙った東海大も粘ったものの、追い上げは届かなかった。帝京大は31日、トップリーグ優勝チームと日本選手権で対戦する。

 

 深紅の軍団が今年も王座を守った。「久々に厳しい決勝だった」と、帝京大・岩出雅之監督は振り返った。左ヒジの脱臼で準決勝を欠場したキャプテンのHO坂手淳史(4年)はベンチスタート。BKリーダーのFB森谷圭介(4年)は7日の練習で左ヒザの前十字靭帯を断裂し、出場は不可能となった。1年時からメンバー入りを果たしているチームの核を欠く緊急事態だった。

 

 リーダーの不在はピッチに悪影響を及ぼしていた。「勝ちにこだわり過ぎて、いつもより力が入っている」。岩出監督には前半プレーした選手たちを見て、そう感じたという。硬さが見られる帝京大は序盤からハンドリングエラーが目立ち、ノックオンの連発。マイボールのラインアウトもキープに苦しんでいた。

 

 前半31分には東海大に先制される苦しい展開。自陣の左サイドを攻め込まれると、ラインアウトからのモールで前進を許した。最後は東海大キャプテンのFL藤田貴大(4年)にトライを決められた。

 

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(写真:スピードを生かし、何度もラインブレイクを見せた竹山)

 追いかける帝京大は、ルーキーが流れを引き戻す。失点から3分後、左サイドを突破したSO松田力也(3年)が粘ってボールをキープ。大外のWTB竹山晃暉(1年)にパスを送る。対抗戦、大学選手権でもトライを量産する快速ウイングは、一瞬のスピードで縦へと抜け出す。そのままインゴールへ滑り込んで、帝京大が同点に追いついた。

 

 5-5と均衡を保ったまま前半は終了した。ハーフタイム、前半をベンチから見ていた坂手、FB重一生(3年)もチームの硬さを感じ取っていた。だが、連覇を継続中のチーム。自分たちで立て直す力を持ち合わせている。坂手はその時の様子を「みんなが集中していた。特に何も発言する必要はなかった」と証言した。

 

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(写真:「思い切りやってこい」と送り出された重は途中出場できっちり結果を出した)

 後半開始とともにピッチへと送り出された重は、プレーでチームに勢いをつけた。1分に松田がPGを決めて勝ち越すと、6分だった。松田がラインを切り裂くように大きくゲイン。ラックからアタックを継続し、再び松田にボールが渡ると右に展開する。CTB濱野大輔(4年)がゴール前へと運ぶ。最後はフォローした重が拾い、インゴールへと飛び込んだ。コンバージョンを松田がきっちり決め、15-5と10点差に突き放した。

 

 得点シーンこそBKの活躍が目立っていたが、FW陣も紅い壁となり攻守に貢献していた。19分に右サイド深い位置でラインアウトを得ると、モールを組んで前進する。最後は坂手に代わってHOで出場していた堀越康介(2年)がトライ。どこからでも得点が取れること、代役がきっちり仕事をこなすところも帝京大の強みである。王者はリードをさらに5点広げた。

 

 一方の東海大はWTB石井魁(4年)、CTB池田悠希(2年)らBK陣のランで帝京守備陣を脅かす。33分には中央からSH湯本睦(3年)が左へ展開。SO野口大輔(4年)からのパスを受けた池田がトライを取った。コンバージョンだったが、野口大輔が決めて、東海大が8点差に詰め寄った。

 

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(写真:激しい当たりで攻守に貢献したイラウア)

 紅い軍団は迫りくる青い波を弾き返す。帝京大は敵陣で重、濱野、FLマルジーン・イラウア(4年)が素早く繋いだ。右サイドでWTB尾崎晟也(2年)が快速を生かし、インゴール右隅に飛び込んだ。今シーズン対抗戦で21トライのトライゲッターが、一仕事を果たした。残り時間もあとわずか。ほぼ勝負は決まったと言ってもいい。

 

 ここで帝京大・岩出監督は「残り1分で出すつもりだった」という坂手をピッチへと送る。その意図を「勝ちを確信したような中だるみがあった。活を入れてもらいたかった」と明かす。坂手は「流れを帝京に。体を張り続けよう」と円陣でチームを鼓舞。松田のコンバージョンも入り、リードを再び15点差にした。

 

 東海大も意地を見せ、ノーサイドの瞬間まで得点を取りにいく。池田、石井と繋いで最後はFB野口竜司(2年)が後半40分経過のホーンが鳴った直後にトライを奪った。野口大輔のコンバージョンが外れると、レフェリーが試合終了のホイッスルを吹いた。

 

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(写真:坂手主将<前列右から2番目>たちは卒業するが尾崎<後列右端>松田<後列右から2番目>らBK陣のレギュラーは残る)

 10点差の勝利と圧勝ではなかったが、帝京大の強さは際立っていた。特に試合後半、本来のリズムを取り戻すと、テンポのいいラグビーで相手の守備陣を翻弄した。これで帝京大は7連覇を達成。社会人では日本選手権での新日鉄釜石、神戸製鋼の例があるが、プロや実業団と比べて選手の入れ替わりの激しい学生スポーツでは異例の数字だ。とはいえ、岩出監督は連覇に固執はしていない。

「プロ野球の監督だったら勝利に特化したチームマネジメントをするかもしれない。学生スポーツは(卒業までの)4年間や(チームとしての)1年間の目標を持って、積み上げていくことが大事。勝つにこしたことはないが、社会人になっても生きる力を身に付けてもらいたい」

 

 帝京大は3週間後には日本選手権が控える。今シーズンはトップリーグの優勝チームとの一騎打ち。岩出監督は「現実的には厳しい」としながらも「高い目標設定を置かないと、その範囲を脱しない」と、掲げた日本一を諦めるわけではない。「本気で準備し、本気で挑むことで得られるものがあり、それが財産となる」。岩出監督の視線は高く、そして先にある。

 

(文・写真/杉浦泰介)